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ゴールドの記憶 その8

 セルフィーとアマンディーヌは、お互い顔を見合わせ、そしてだまってしまいました。じっと言葉を待つギュスターヴに、セルフィーがえんりょがちに答えました。


「ギュスターヴ様、お気持ちは痛いほどわかりますが、ですが、アルベルト様は……」

「セルフィー!」


 アマンディーヌに制されて、セルフィーは言葉を飲みこみました。再び重い沈黙が、部屋の中にただよいます。どれくらいの時間が流れたでしょうか、先に沈黙を破ったのは、記憶の中のギュスターヴでした。


「兄様のお墓に花をささげてきたけど、ぼくには信じられないんだ。あんな石の下に、兄様が眠っているなんて。だって兄様は、ぼくのことをずっと守ってくれるって、約束してくれたんだ。兄様はぼくとの約束は、一度だって破ったことがなかったんだ。兄様はうそつきなんかじゃないもの。だからきっと、また帰ってくるはずなんだ」

「ですが、ギュスターヴ様、リリー様はイズニストで、魔法使いではございません。イズニストも魔法使いも、魔法に関わる職ではございますが、専門分野が違うのです。リリー様はイズニストとしては最高の才をお持ちですが、魔法となっては、特に、人を生き返らせるような魔法など」


 セルフィーの言葉を、ギュスターヴが突然さえぎりました。


「違うんだよ、イズニストだから、リリー様の力が必要なんだ。だって、ぼくは見たもの。アルベルト兄様のたましいが、あの赤い髪のイズンにすいこまれていくところを」

「しかし、アルベルト坊ちゃまのおからだは、燃え尽きてしまったんじゃ」

「でも、あのイズンは燃えてないよ! それに、兄様のからだが燃えたのは、たましいがイズンに移ったあとだったよ。だからきっと、アルベルト兄様のたましいは、あのイズンに入ってるんだよ。なら、イズニストのリリー様ならきっと、兄様のことを助けてくれるよね」


 一気にしゃべったからか、記憶の中のギュスターヴのほおは、いつもよりも赤く色づいています。現実のギュスターヴも、あの儀式のことを思い返して、確かにイズンのほうはまったく燃えていなかったことに今さらながら気がついたのです。期待に満ちた顔で、二人のギュスターヴはアマンディーヌを見あげました。


「……ギュスターヴ坊ちゃま、あたしゃあの儀式のことを、人づてにしか聞いてないから、本当かどうかわからない。だけど、エリオット陛下はちゃんと坊ちゃまと同じことをお考えになっていたそうだよ。儀式が失敗したあとすぐに、ルドルフに封印用のイズンの様子を調べさせたらしい。でも、封印用のイズンの胸にあった、ルビーのイズニウムがなくなっていたそうだよ。結局それが決め手で、ルドルフのやつは投獄されたんだけどね」


 最後ははき捨てるようにいうアマンディーヌでしたが、それでもギュスターヴは食い下がりました。


「でも、それを確認したのはルドルフなんでしょう? ルドルフは魔法使いだから、専門分野が違うんじゃないの? それならリリー様が見れば、もしかしたら助けられるかも知れないだろ?」


 必死に頼みこむギュスターヴを見て、アマンディーヌはめがねをゆっくりと外しました。顔をそむけたので、ギュスターヴは首をかしげましたが、アマンディーヌはすぐにめがねをかけなおして、ギュスターヴに向きなおりました。


「坊ちゃまがそこまでおっしゃるのでしたら、リリー様の工房へご案内いたしましょう。しかし、いかにリリー様といえど、なんでもできるというわけではございません。それに、リリー様の工房にはくだんの戦争兵器も同居しております。それゆえに王族が近寄ることは許されてはおりませんが、そこはあたしがなんとかうまくやりましょう。ですからギュスターヴ坊ちゃまも他言無用ですよ。それでよければご案内します」


 アマンディーヌが、ギュスターヴにいたずらっぽく笑いかけました。




 アマンディーヌと記憶の中のギュスターヴは、王宮の地下通路を二人で通っていました。アマンディーヌの話だと、そこは秘密の通路だということでしたが、驚くほどしっかりしたつくりで、魔法の明かりがあちこちにともされています。もちろん中に怪物が巣くっているなどということもなく、ギュスターヴはいささか拍子抜けしていました。


「そりゃあそうですとも。この通路は、イズニストたちの住む工房と王宮をむすぶ通路ですからね。秘密は秘密ですが、よく利用されるんですよ。特に王宮のメイドたちはね」

「えっ? どうして?」


 アマンディーヌが答える前に、目の前に現れた鉄の門を指さしました。取っ手の部分が赤く光っていますが、きっと魔法による鍵がかけられているのでしょう。頑丈なその門は、まるでなにかからイズニストたちを守っているかのように見えました。


「いえ、あれは工房を守っているのではありません。王宮をイズンたちから守る意味があるのですよ」


 ギュスターヴの気持ちを読み取ったかのように、アマンディーヌが首をふって答えました。


「イズンから? それって、どういうこと?」

「今でこそイズンはあたしたちの生活に欠かせないものとなっていますが、イズニストはともすれば、王国を滅ぼすイズンさえも創れる存在です。ゆえに、敬われるとともに畏れられてもいるのですよ。それは魔法使いも同じです。まあ、あのルドルフみたいに、なにを考えてるかわからないやつもいるから、しかたないのかもしれないですが」


 アマンディーヌは、首にかけていたネックレスを外して、それを赤く光る取っ手に近づけました。とたんに光が小さくなっていき、ガチャリと重苦しい音がひびきました。鍵が外れたようです。


「あたしはリリー様のお世話係もつとめていますので、この鍵を持っているのです。さあ、この先にリリー様がお暮らしになっております。行きましょう」


 アマンディーヌにうながされましたが、ギュスターヴは歩みを止めました。いぶかしがるアマンディーヌに、ギュスターヴがこわごわたずねました。


「ねえ、アマンディーヌ、この先にその……戦争兵器もいるんだよね」


 アマンディーヌはだまってうなずきました。


「そうか……」


 ギュスターヴは、それ以上なにもいわずに、アマンディーヌに続いてとびらの先へ進みました。


「また通路? この先が工房じゃないの?」


 とびらをくぐると、そこは再び通路が続いていました。しかしさっきの地下通路のように、一本道ではなく、左右にいくつもの横道が続いています。


「ここからそれぞれ、イズニストたちの工房に続いているのですよ。さ、リリー様の工房はこちらですよ」


 アマンディーヌは左側に続いた横道を指さしました。ギュスターヴもだまってアマンディーヌに続きます。通路を進み、階段をのぼった先に、再びとびらがありました。今度はただの木のとびらでした。


「さ、入りましょう。こちらがリリー様の工房です」


 アマンディーヌがコンコンッとノックをすると、しばらくしてから、がちゃりととびらが開きました。


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