ゴールドの記憶 その3
「しかし国王陛下、このままでは我らがユードラ王国は、南の諸国に属国とされてしまうことは明白でございます。仮に現在交戦中のフィーゴ王国を退けたとしても、もしくは和平をむすぶことができたとしても、それは一時のことでございます。南のインペリオ大陸には、フィーゴ王国とは別に、小国とはいえ攻撃的なラウル帝国もございます。今はフィーゴ王国と不可侵条約をむすんでいるとはいえ、なにやらきな臭い動きも出てきているようです」
アルベルトは、苦々しげにうなずきました。ルドルフは熱のこもった声で続けます。
「フィーゴ王国と和平をむすんでも、ラウル帝国が攻めてくるかもしれませんし、他の国に狙われるかもしれません。結局わが国が絶対的な力を持たなければ、わが国は他国に狙われ続ける運命なのです。多数のイズニストをかかえ、イズンの生産において他国を圧倒するわが国は、他国から見れば肉汁をしたたらせたごちそうなのです」
長々と演説を重ねたルドルフは、記憶の中のギュスターヴに視線を移しました。記憶の中のギュスターヴが、わずかに身を硬くしました。
「ですが、我らが強力な兵器を持つことになれば、他国も侵略はあきらめることでしょう。そうなればわが国には、再び平和がおとずれることでしょう。エリオット陛下は、真の平和をもたらした賢王として、わが国の歴史に深く名を刻むことができます。そして、封印用イズンとなったギュスターヴ様は、ユードラ王国の永遠の盾として、永遠の剣である戦争兵器とともに、この国を守り続ける象徴となることができるのです」
「……しかしじゃ、その戦争兵器というものは、それほどまでに危険なものなのか? 暴走したときの保険として、わざわざ封印用のイズンまで創らなければならんとは。しかもその封印用イズンのイズニウムには、王族のたましいが必要とは、にわかには信じられん話じゃ」
エリオット王が、ふさふさのひげをゆっくり指でつまんでから、ルドルフに視線を移しました。ルドルフのからだが、わずかに緊張するのが、現実のギュスターヴにもわかりました。ルドルフは言葉を選びながら、国王の問いかけに答えました。
「国王陛下をはじめとした、王族のたましいというものは、非常に魔法的に高貴な力を持っているのでございます。一般市民のたましいと比べても、国を治め民の上に立つという運命を背負っているからでございます。だからそのたましいを、仮に魔法実験に用いる場合は、一般市民とは比べ物にならないほど、強い素材となるのです。……現在わたくしの弟子であるリリーが製作している戦争兵器は、暴走した場合この大陸が吹き飛ぶほどの魔法エネルギーの暴発が発生します」
ルドルフの言葉に、エリオット王の目が見開かれました。アルベルトが身を乗り出します。
「ルドルフ、それほどまでに危険な兵器は、他国を退けるだけでなく、我らが国を滅ぼすのではないのか?」
「お言葉ですが、アルベルト様。それは暴走して、なおかつセキュリティが発動しなかった場合でございます。セキュリティが発動すれば、魔法エネルギーの暴発は最小限で抑えられるため、戦争兵器のからだが砕けるだけで済むのです。そしてそのセキュリティを担うものこそが、今回の封印用イズンなのでございます」
記憶の中のギュスターヴが、ごくりとつばを飲みこみました。アルベルトは油断なくルドルフを見つめたまま、問いただしました。
「それほどまでに危険なリスクを背負っても、お前たちイズニストが創る戦争兵器とやらは、わが国にメリットを与えるというのか?」
「もちろんでございます。まずは永劫の平和という時点で、国としては最大級のメリットを受けることができると思いますが。それにこの戦争兵器は、対イズン用の戦争兵器でございます。すなわちイズンのありかたに干渉することができるのです。小難しい魔法技術やイズニストたちの魔法論理を省略して、簡潔に結論だけ述べさせていただくと、新たにイズンを創りあげることができるのです。正確には創り変えると申し上げたほうがいいでしょうか。もととなるイズンは必要なのですから」
「イズンを創り変える? それはいったいどういうことなのじゃ?」
エリオット王が口をはさみます。ルドルフは待ってましたというように、嬉々として説明を始めました。
「イズンの用途を創り変えることができるのです。わが国では、戦争用のイズンの保管に苦労した時期がございましたよね」
「ああ、確かに。戦争用イズンは常にメンテナンスが必要で、メンテナンスをしなければ起動しなくなることがある。ゆえに、平和な時期でもメンテナンスのための予算は組まなければならないし、人員も必要だ。だから戦争が必要だ、などとは少しも思わないが、どちらにせよ頭の痛い問題ではある」
「それを戦争兵器は解決することができるのです。戦争兵器のイズンを創り変える力を用いれば、戦争が終わったあとに残った戦争用イズンを、農業用や医療用、建築用などといった、別の用途のイズンに創り変えることができるのです。また、おろかにも戦争兵器を要する我が国へ他国が攻めてきたときも、別の用途のイズンを戦争用イズンに創り変えることもできる。そうやって用途によってイズンを使いまわすことすらできるようになるのです」
エリオット王が、驚きのあまりほうっと感嘆の声をもらしました。アルベルトもその話は初めて聞くものだったようで、がしがしと頭をかいています。
「リスクはございますが、それ以上にメリットのほうが大きいのです。それにもちろん、封印用イズンの実験が成功したあかつきには、永遠の命を得ることができるのでございます。まあ、正確には他のイズンのエネルギーをときおり吸収する必要がございますが、不要になったイズンを使えばいいだけのことです。それよりも不老不死となることができるという意味では、実験に挑戦するだけの価値はあると思いますが、ギュスターヴ様はいかがですか?」
ルドルフにいきなり話を振られて、記憶の中のギュスターヴは口ごもってしまいました。助けを求めるように、アルベルトの顔を見あげると、アルベルトはふっと息をはいて、ルドルフを見すえました。
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