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アメジストの章 その5 ~ラピスラズリの輝き~

 アルベールはいつの間にか、ほこりだらけのうす暗い部屋に移動していました。ルドルフの精霊たちは見当たりません。ルドルフも、ソフィアのすがたもありませんでした。声をあげようとするアルベールを、トリエステがすばやく制します。


「声を出してはだめです! どうせソフィアにイズニウムの波動を感知されるでしょうが、それでも少しでも時間をかせがないと」


 その部屋には、トリエステだけでなく、エプロンもギュスターヴもいました。ダヴィデだけすがたが見えませんでしたので、アルベールがたずねようとしましたが、トリエステが見すかしたかのように答えました。


「ダヴィデは操られていたから、移動させることはできませんでした。『月』の正位置、不安定、現実逃避、猶予なき選択……。うしろ向きな力ですが、今は逃げることを考えないと」

「逃げるだって? ソフィアがあんなことになってるのに、逃げるなんてできるはずが」

「静かに! 見つかってしまいます。アルベール、あなたの左うでは使い物にならないでしょう。それにルドルフの魔法とソフィアの矢をすべてかわして、なおかつ結界を破って攻撃するなんて、そんなことは奇跡でも起きないと無理ですわ」

「じゃあどうするんだ? このまましっぽを巻いて逃げろっていうのかよ!」


 静かに、けれど有無をいわさぬ口調でトリエステが反論しました。


「そうはいっておりません。ようは奇跡を起こせばいいだけの話です。そして、わたくしのタロットは奇跡を起こすことができます。ですから奇跡が起こったあと、すぐにルドルフに攻撃をしかけてください。それ以外に方法はございません」

「けど、そのタロットって、なにが起こるかわからないんだろう? そんな都合のいいカードが本当に出るのかよ?」


 アルベールが乱暴ないいかたで聞きました。トリエステはフフッとほほえみ、答えました。


「もちろんです。わたくしはずっとタロットを信じて生きてきました。タロットは必ず、その場にもっともふさわしい結果を出してくださいます。わたくしを信じてください」


 トリエステにまっすぐ見つめられて、アルベールはガシガシッと頭をかきました。はぁっと、わざとらしいため息までつきましたが、結局うなずきました。


「わかったよ。別に信じてなかったわけじゃないさ。すまない。ただ、おれのせいでソフィアが」

「悔やむのはあとでかまいません。今は行動を起こすときです。チャンスは一度きりですから、わたくしがいなくてもうまくやってくださいね」


 アルベールがなにかいうよりも早く、トリエステはシャッフルしたタロットを一枚めくりました。十字架を持った聖職者が、逆さまに描かれた絵柄が見えました。しかしアルベールたちが見れたのは、その絵柄だけでした。トリエステをのぞく三人が、緑色の光につつまれ、その場から消えたからです。ひとりになったトリエステは、誰にいうともなく、ひとりごとをつぶやきました。


「これは『教皇』の逆位置ですわ。意味は独りよがり、おせっかい、そして……逃避」


 いい終わるのを待っていたかのように、建物の屋根が砕けました。紫色の矢が、屋根を砕いて何本も降りそそいできたのです。建物は一瞬でがれきの山に変わり、そしてトリエステががれきの山からはいでてきました。がれきにはさまったのでしょうか、足は血まみれになっています。それでもほほえみは絶やさずに、トリエステはソフィアが来るのをじっと待ちました。やがてやわらかなはばたきの音とともに、ソフィアがトリエステの前におりたちました。


「お前はイズンか?」


 命のかけらも感じさせない声色で、ソフィアがトリエステを問いただしました。トリエステは雨の日のような静けさをもって、ソフィアの問いに答えました。


「いいえ、わたくしはかつてイズンだった者。今はただの人間ですわ」

「イズンだった者? そういえばお前からは、イズニウムの波動も、人間のにおいも、両方感じる。答えよ、お前はいったい何者だ?」


 トリエステはゆっくりとソフィアを見あげました。二人のすがたはまるで、天使とその天使に祈りをささげる聖女のようでした。トリエステは祈りの代わりに、ソフィアに答えをささげました。


「わたくしはかつて、あなたに希望を与えた者です。人間になりたいという希望を与えた者です。わたくしは人間にはなれなかった。今のわたくしは人間でもイズンでもない、中途半端な存在です。でも、わたくしはあなたに希望を与えることができた。人間になりたいという祈りをあなたに教えることができた。思い出して、ソフィア。あなたはかつて祈ったはずです。人間になりたいと。戦争兵器という呪われた宿命を変えたいと」

「イズンから人間にだと? バカな、そのような魔法が存在するはずがない。イズンをあやつることこそできるが、イズンを人間にするなど」

「それなら試してみましょうか?」


 トリエステは手に持っていたタロットの束を、すべて空中へ投げ捨てました。そして、ひらひらと舞うタロットのうち、一枚を手でつかんだのです。杖を持った男の人の絵柄でした。


「『魔術師』の正位置? だが、それでなにをするつもりだ?」


 ソフィアの問いかけに、トリエステは満足そうにうなずきました。


「覚醒しても、ちゃんとわたくしが教えたタロットのことは覚えていてくださったのですね。ならば意味もご存知でしょう。『魔術師』の正位置の意味は、可能性、チャンス、そして……創造です」


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