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アメジストの章 その4

「ソフィアは、あんなことするやつじゃなかったのに」


「何度いわせればお前はわかるのだ? いいかげんわかったであろう、これこそが戦争兵器の真骨頂だ。戦争兵器の矢は、人間相手ならもちろん致命傷となるし、イズンに当たればなお良しだ。当たったイズンは壊れることもなく、こちらの手駒となるのだからな。戦争兵器の真の力を持ってすれば、すべてのイズンを支配下に置くこともできるのだ!」


 ルドルフの笑い声が、しんと静まったゴーストタウンにこだまします。アルベールたちはなにもいいかえせずに、ただただルドルフをにらみつけるだけです。それに気をよくしたのか、ルドルフはさらに話を続けました。


「戦争兵器はイズニウムの波動を感知することができる。つまりこの大陸に散らばっている、イズンたちをすべて見つけ出すことができるということだ。見つけ出せば、あとは矢を打ちこめばいいだけだ。そこのひげ面のイズンと同じように、武器を持たないイズンにも武器を持たせることができる。たとえラウル帝国が盗んだイズンの軍勢で、わしらに戦いを挑んだとしても、それはわしらに軍勢を差し出すようなものだ。人間はもちろん、イズンもわしらの敵ではない!」

「じゃあお前は、その力で世界征服でもするつもりなのか? 冗談じゃない、いくらソフィアの力が強力だからといって、そんなことが可能なものか!」


 アルベールの反論に、ルドルフは鼻で笑って答えました。


「この力を目の当たりにしても、まだそのようなことがいえるとは。だが、まあいい。先ほどもいったが、お前たちはもはや用済みだ。王子であるギュスターヴをうまくまつりあげて、裏で王国を牛耳ろうと思っていたが、そんな必要もない。これからは身を隠す必要はないのだ。我ら魔法使いが、このわしが、世界を制する。さあ、やるのだ、戦争兵器よ! あいつらは敵だ! お前の大切な、愛する者を殺したのだ。今こそ敵討ちを!」


 ソフィアがゆっくりとルドルフをふりかえりました。ルドルフがソフィアに手を向け、あのどす黒い光をはなちました。


「アルベールは、死んだ……。イズンに、殺された……」

「ソフィア、違うぞ! おれは生きてる、生きてるぞ! だまされるな、そいつがお前にうそをついているんだ!」


 のどがはりさけんばかりの、ありったけのアルベールのさけびに、ソフィアがわずかに顔を動かしました。ビーズのような紫色のひとみが、かすかにアルベールのすがたを映しました。


「アル……ベール……?」

「そうだ、おれだよ、アルベールだ! 大丈夫だ、おれはまだ生きてる。だからもうこんなこと止めてくれよ! 無関係のイズンを、仲間だったイズンを、それを戦争の道具にするなんて、お前が一番嫌うことじゃなかったのかよ! 思い出せよ、お前はそんなやつじゃなかったはずだ。おれの知ってるソフィアは、他のイズンのエネルギーを吸うことだってためらうような、そんな優しすぎるやつだったはずだ。だから――」


 ルドルフがどす黒い光をさらに強く発しました。ソフィアが軽く頭を押さえ、その場にうずくまります。必死にソフィアの名前を呼ぶアルベールでしたが、次の瞬間にはソフィアは立ち上がり、あのいまわしい黒い光を身に帯びたまま、ビーズのひとみでアルベールをにらみつけたのです。


「アルベールは死んだ。イズンに殺された。平和を愛する者たちを、イズンは殺した。イズンは戦争を起こし、人間たちに害を与える者。平和を乱す者。わたしはイズンを滅ぼす。この世界の平和と秩序のために、わたしはイズンを滅ぼす。お前たちも」

「違う、ソフィア、目を覚ませ――」

「むだだというのがまだわからんか、茶番はもういい。やれ、戦争兵器よ! わしのために戦うのだ!」


 ルドルフの言葉に反応して、ソフィアが羽をはばたかせました。


「ルドルフ、貴様ぁっ!」

「アルベール、考えなしに攻撃してはだめよ!」


 トリエステが止めるのも聞かずに、アルベールはルドルフめがけて突進しました。ソフィアが天に向かって紫の矢をはなちます。矢は一本だったはずなのに、空をつらぬくと、無数の雨となってアルベールの目の前に降りそそぎました。目と鼻の先を矢が通過して、アルベールは思わず飛び下がります。追い討ちのように、ソフィアが矢の嵐をアルベールにはなちます。トリエステが、星と女性がかかれた絵柄のタロットを空にかかげました。


「『星』のカードよ、アルベールにひらめくような速さを!」


 目にもとまらぬ速さの矢を、目に映ることすらない速さで、アルベールはかわしました。からだが金色に輝く星に囲まれています。しかしルドルフに近づこうとしても、密集した矢の雨が降りそそぎ、近づくことができません。どれほどスピードがあっても、あの密度の矢をかわすことはできません。歯ぎしりするアルベールに、ルドルフがシルフィンディーネを差し向けました。


「なんだこいつ、うおっ!」


 シルフィンディーネが巻き起こす水の竜巻に、アルベールは足をすくわれました。いつの間にかサラマンディーネも召喚されていたようで、アルベールに炎のつぶてを投げつけてきます。短剣をちょうのようにひらめかせ、炎のつぶてをはじきますが、デインディーネの電撃を受けて、アルベールの動きが一瞬止まりました。右隣から、グランディーネが土の波で、アルベールを押しつぶそうとします。


「くそっ!」


 土の波に飲まれぬように、アルベールは左に飛びのきました。そのとたん、左腕に万力でしめつけられるような痛みが走ったのです。


「うっ、ぐぁっ!」


 右隣の土の波が消えていき、ネクロンディーネがすがたをあらわしました。一瞬前まではなにもなかったはずの左側に、グランディーネと土の波が出現しています。


「まずいわ、幻術をかけられている!」


 トリエステが再びタロットをめくろうとしますが、ソフィアの矢が邪魔をします。そのすきにグランディーネが、アルベールを土の波で押しつぶしました……かに見えましたが、すんでのところでエプロンが、土の波を巨大包丁で切り刻んだのです。エプロンはアルベールの右手を引っぱって、精霊たちから距離をとりました。


「放せよ! あいつは、ルドルフだけは許さねぇ! おれがこの手で」

「落ち着いてよ、そんな状態で戦うなんて無茶だわ!」


 ソフィアの矢が、アルベールとエプロンの手を狙って飛んできました。とっさにエプロンは手を放しましたが、アルベールは我を忘れてルドルフへと突撃していきます。


「バカが、わざわざ死にに来たか!」


 ルドルフの精霊たちが、それぞれに術をあびせかけました。水の竜巻が、炎のつぶてが、土の波が、電撃が、そしてそれらが幻術によって、四方八方からおそいかかってきたのです。アルベールは術を食ら……わずに、その場から消えてしまいました。


「消えた……? そうか、占い女か。術を食らう前に逃がしたか。だが遠くには行くまい。さて、どこに逃げたか……」


 いつの間にか、エプロンやトリエステ、それにギュスターヴのすがたも消えていました。ルドルフはくっくと、あざけるように笑いました。


いつもお読みくださいましてありがとうございます。

本日夕方ごろにもう1話投稿予定です。

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