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アメジストの章 その2

 アルベールの問いに答えたのは、天使ではなくギュスターヴでした。エプロンをかばうさいに、アルベールに投げ出されたので、ギュスターヴは地面でもんどりうっていたのです。しかしよろよろとからだを起こすと、天使を指さしてさけんだのです。


「あれはきっと、対イズン用の戦争兵器だよ」

「戦争兵器? じゃあやっぱりあれは、ソフィアだってのか?」


 アルベールに問いただされて、ギュスターヴは自信がなさそうに首をふりました。


「ぼくもよく思い出せないけれど、確かお父様が、宮廷にいた魔法使いさんと話していたんだ。対イズン用の戦争兵器は、イズンの持つイズニウムの輝きを無効化することができるって。もちろん人間の兵士相手にも、とんでもない魔力で戦えるから、戦争をとても有利に進めることができるっていっていたんだ」

「お前ら、やっぱりソフィアのことを戦争の道具として使おうとしてたんだな!」


 アルベールにどなられて、ギュスターヴはあわてて首を横にふりました。


「違うよ、少なくともお父様は、戦争を止めるために戦争兵器を創るように命じたんだ。強い兵器があれば、敵国も簡単には攻めてこなくなる。それだけで抑止力になるって。お父様は決して、自分の国から敵国に攻め入ろうとはしなかったんだ。本当だよ」


 歯がみしてギュスターヴをにらみつけますが、アルベールはそれ以上なにもいいませんでした。かわりに天使となったソフィアに向き合い、大声で呼びかけたのです。


「ソフィア、目を覚ませ! おれだよ、アルベールだ。みんなもいる。おれたちは仲間だったじゃないか」


 ソフィアからの返答は、紫色に輝く矢でした。アルベールはひらりと矢をかわして、声をはりあげました。


「やめろってば! いったいどうしちまったんだよ、ソフィア! お前、おれたちのことがわからないのか」


 ハッハッハと、耳ざわりな笑い声が聞こえてきました。屋根が壊れた小屋の中から、ルドルフが高笑いしながら出てきます。アルベールはルドルフを射抜くようににらみつけました。


「ルドルフ、てめぇ、ソフィアにいったいなにをした?」

「なに、お前たちが想像しているとおりのことをしたまでさ。つまり魔法をかけたのだ。あの戦争兵器に、イズンを憎み、わしの命令を聞くようになる魔法をな。おかげで今のこいつは、わしの意のままに動く便利な道具というわけだ」

「貴様、ソフィアのことを道具だと? 取り消せ!」


 いきどおるアルベールを、ルドルフはむしろ楽しそうにながめています。ソフィアがルドルフを守るようにして、そのそばへとおりたちました。


「ソフィア、目を覚ませ! そいつの命令なんて聞いちゃだめだ!」

「おろかな、今いったばかりではないか。こいつはすでにわしの魔法がかかっているのだ。お前がいくら声をかけようとも、その声は届くことはない」

「ですが、お前を倒せば話も違ってくるはずです」


 静かな、しかし怒りにふるえた声が聞こえてきました。トリエステがタロットを手に、ルドルフを見すえていたのです。その目にはアルベールと同じ、いや、それ以上のにくしみの炎が燃えたぎっていました。


「お前のことを探し続けて、どれほどの月日が経ったことか。そのいまいましい顔を何度も夢に見ましたわ。でも、ここで終わりにさせていただきます。お前を倒して、もとのすがたに戻させてもらうわ」

「もとのすがた……? そうか、思い出したぞ。お前はいつぞやの失敗作か」


 トリエステが怒りの形相で、タロットを一枚天にかかげました。二頭の馬に引かれた戦車に、黄金のよろいをまとった若者が乗った絵柄が見えます。


「戦車よ、あの男をひき殺しなさい!」


 トリエステの目の前に、タロットに描かれた戦車そのものが現れ、勢いよくルドルフめがけて突進しました。しかしソフィアが紫色の矢をはなち、戦車はいとも簡単にくだかれ、消えていったのです。トリエステは目を見開きました。


「そんな、タロットの中で最も攻撃力のある『戦車』のカードが」

「ふむ、そのタロットの魔法。やはりそうか。お前はイズンを人間にする禁術の実験台になった、あの占い師のイズンだな?」


 ルドルフがなめるような視線で、トリエステをねめつけました。びくっとからだをふるわせるトリエステに、ルドルフはあざけるようにクククと笑いかけました。


「そうだろう。たとえ人間になろうとも、恐怖の感情はそう簡単には消えはしない。わしは今でも覚えておるぞ。人形だから表情は変わらずとも、恐怖と懇願の色がお前のひとみには見えた。わしがもっとも好む色じゃった。結果としては失敗だったが、あのときはずいぶんと楽しかったぞ」


 トリエステが、ヒッと小さく悲鳴をもらしました。足ががくがくとふるえ、今にもその場にへたりこみそうです。しかしトリエステをかばうかのように、アルベールが前に立ちはだかりました。


「くさった野郎だな。貴様の下卑た話はもう十分だ。なあ、お前だってそう思うだろ、ソフィア」


 アルベールの呼びかけにも、ソフィアは小首をかしげるだけでした。ルドルフがふんっと鼻で笑います。


「なんどもいわせるな。そいつにはなにをいっても届きはせん。今のそいつはわしの道具だ。ユードラ大陸を制覇し、再び魔法使いの国を作る切り札なのだ。こいつと比べれば、その失敗作も、そこにいるバカ王子もただのごみだ。あやつる価値もないごみだ」


「あやつる価値もないって、いったいどういうことですか? 魔法使いさんは、ぼくをあやつっていたのですか? それじゃあまさか、ぼくの記憶も?」


 ギュスターヴの問いかけに、ルドルフはクハハと笑いながら答えました。


「今ごろ気がついたのか。そのとおりだ。お前の記憶を改ざんし、お前を洗脳していたのだ。ユードラ王国復権のためにな。だがお前のそのおくびょうすぎる性格のおかげで、わしの計画は水泡に帰したわ。まあその結果、このすばらしい戦争兵器にめぐり合えたのだから、その点は感謝せねばならんがな」


 ルドルフの高笑いを聞き、ギュスターヴが苦しそうに頭を押さえました。倒れこむギュスターヴを、ダヴィデがあわててかついで支えました。


「さて、それじゃあそろそろおしゃべりは終わりにして、戦争兵器の戦争兵器たるゆえんをお前たちに見せつけてやらんとな。特にこいつがなぜ、対イズン用の戦争兵器と呼ばれているかを」


 ルドルフがソフィアに右手をかざしました。右手からじわりじわりと、まるでけむりが立ちのぼるかのように、どす黒い光がわきでてきます。その指をパチンッとはじくとともに、ソフィアのからだが、どす黒い光に包まれていきました。ソフィアはルドルフにこくりとうなずいて、アルベールたちに弓をかまえました。


いつもお読みいただきありがとうございます。

同時連載中でした『清子とうその呪い~正直者の日野清子さん~』が無事完結いたしました。

もしよろしければそちらもどうぞ♪

ご意見ご感想などもお待ちしております♪

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