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ルビーの章 その9

 ベカールの超高速の剣が、ルドルフが召喚した精霊をまた一体切り捨てました。これで何体目でしょうか。ルドルフのそばには、パチパチとからだじゅうに電気を帯びている、黄色と青の羽を生やしたフェアリーがいるだけです。結界ははらず、両手に青い光をまとっています。


「しつこいな。だが、これならどうだ?」


 風のうずをまとったベカールの剣が、再びスーッと消えていきます。


「ふんっ!」


 ルドルフが手に青い光をまとわせて、ベカールの剣を手のひらではじきました。青い光に守られているからか、剣は傷ひとつつけることができません。ルドルフのとなりにいるフェアリー、雷と水の精霊デインディーネが、ルドルフのからだにバチバチッと電気をはなちます。


「それっ!」


 ルドルフは残像が残るほどのすばやい動きで、ベカールの切り返しを手のひらではじき、そのまま青い光をまとった手でひらめくような突きをはなちます。今度はベカールが剣で突きを防ぐ番でした。攻撃に移ろうとしても、ルドルフはデインディーネの魔法によって、すでに防御の構えに移っています。ベカールはチッと短く舌打ちしました。


「またお得意の防衛戦法か。どうせカウンターを狙っているんだろうが、わたしにはカウンターは効かない。真空剣の速度を持ってすれば、攻撃と防御を両立することぐらい分けないのだ」

「そのようだな。だがお前のその真空剣とやらは、このわしに傷ひとつつけることができぬではないか。そのような軽い攻撃では、わしは倒せんぞ」


 そういいながらも、ルドルフの額には汗がにじんでいました。実際はベカールの真空剣のほうが、カウンターに適しているため、うかつに動くことができないのです。しかしこのまま動かなければ、きっとギュスターヴは遠くに逃げてしまうでしょう。探すこと自体は簡単ですが、この町にはアルベールたちが来ているかもしれません。やっかいなことになる前に、早く探さなければ――


「むっ!」


 デインディーネの魔法によって、極限まで高められた反射神経と攻撃を読む力とで、ルドルフはかろうじてベカールの真空波をかわしました。ベカールのすがたが一瞬消えて、次の瞬間ルドルフの目の前で刃の竜巻となって現れました。いくつにもからまった真空の刃が、まるで網のようにルドルフに降りかかってきました。さすがに手だけでは防げないと見て、ルドルフは青い結界を再びまわりにはりめぐらせました。


「そこだっ!」


 ベカールのすがたが消え、ルドルフの背後から背中をズバンッと切りつけました。真紅のローブが裂けましたが、ローブにかかった魔法で傷を負わせるまでには行かなかったようです。それでもベカールはにやりと笑って剣をかまえました。


「やはりそうか。その結界はかなりの強度だ。だがそれゆえに、結界を維持するためには非常に高い集中力と、多くの魔力を消費するようだ。つまり結界をはっている、もしくははろうとしたとき、お前は他の魔法が使えないということだ。わたしの攻撃を予知し、完全に防御するあのいまいましい精霊も、結界を使えば消えてなくなる。だろう?」


 ルドルフはクッと顔をしかめました。再びデインディーネを呼び出そうとしますが、それよりもベカールの斬撃のほうが速く、ルドルフは結界をはらざるを得ませんでした。


「そしてこの結界だが、さっきからあれほど攻撃を重ねているのだ。どの程度の強度を持っているか、そしてどの角度の攻撃にもろいかなど、すべて把握できている」


 ベカールは真空剣をひらめかせ、下段から切り上げるような角度で、結界に連続で攻撃をしかけました。グアングアングアンッと不安定な音とともに、結界が一瞬で破れて消えたのです。ルドルフが再度結界をはる前に、ベカールの真空剣がルドルフのわき腹に打ちこまれました。ローブの魔法で切り裂かれはしませんでしたが、その重い一撃を受けて、ルドルフはその場にへたりこみました。ベカールは剣をルドルフに向けて、勝ち誇ったように笑いました。


「さて、それじゃあここからは交渉の時間といこうか。あの王子とはどういう関係だ。それにお前たちには他にどんな仲間がいる? まさかお前たち二人というわけでもあるまい。それにフィーネ大陸と交流のあるこの港にいるのだ。フィーネ大陸の魔法使いたちともつながっているな? さあ、洗いざらいしゃべってもらおうか。もちろんお前に拒否権はない。からだじゅう切り刻んででも、秘密をしゃべってもらうぞ」


 ベカールはおどすようにして、剣の先でゆっくりルドルフの顔を切りつけました。ほおに傷がつけられ、血が流れますが、ルドルフはふ、ふふ、と、不気味にからだをふるわせたのです。


「なんだ、いったいなにがおかしい?」

「いや、これこそが魔法使いの醍醐味だ、と思ってな。魔法使いとは魔法を用いる者ではない。いかにして相手をだまし、自分を優位に導くか、それこそが魔法使いたる者だとわしは思うのだ」

「どういうことだ? まさかこの期に及んで魔法を使おうというのか? それならば止めておいたほうがいい。お前が魔法を使うそぶりを見せた瞬間に、わたしの真空剣がお前の両うでを切りさくだろう。悪いことはいわん。お前は負けたのだ。素直にわたしに従うがいい」


 ベカールの言葉を聞いて、ルドルフはついにハハハと腹をかかえて笑い出したのです。ベカールの剣がルドルフの口を切りさこうとしますが、青い光をまとった手が、剣を軽々と受け止めたのです。


「なにっ?」

「魔法を使うそぶりを見せた瞬間に……か。それならば両うでを切りさくことはできんだろう。なぜならわしは、すでに魔法を使ったあとなんだからな」


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