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ルビーの章 その6

 ソフィアが絶叫する少し前――


 ソフィアをたんすにほうりこんでから、ルドルフはふうっとため息をもらしました。念のため眠りの魔法もソフィアにかけておいたので、邪魔をされることはないでしょうが、それでも秘密を知られてしまったことに変わりはありません。ルドルフは右手にどす黒い光を集中させ、それを部屋中へと広げました。


「う、うう……」


 先ほどまで考えごとをしていたギュスターヴが、糸の切れた操り人形のように、床にどさっと崩れ落ちました。ルドルフはギュスターヴの羽根つき帽子をつかみ、どす黒い光をギュスターヴの頭に、そしてじわじわと全身へ広げていったのです。まるでヘドロのようにその光はギュスターヴにまとわりついて、そのからだへ吸収されていきます。ルドルフは苦しそうに息をはきながらも、どす黒い光をどんどん濃くしていきます。


 ――いつもながら、この術はとんでもなく体力を消耗する。しかも定期的にかけなおさないといけない上に、さっきのようなささいなきっかけで、こいつは記憶を取り戻してしまう。まだこのバカ王子には、役に立ってもらわないければならんのだ――


 どす黒い光に集中しながらも、ルドルフはちらとソフィアをほうりこんだたんすに目をやりました。


 ――それとも、このへんでうまく鞍替えしたほうがいいのかもしれないな。バカ王子を使って我ら魔法使いの復権を、と考えておったが、もとの素材がおくびょうだからか、このバカ王子は安定して洗脳できない。なら、いっそのことバカ王子のイズニウムを、この戦争兵器に吸収させて、その上で戦争兵器を洗脳したほうがいいのではないか――


 バチンッという電気がはじけるような音と、紫に輝くソフィアのイズニウムが脳裏によぎり、ルドルフはぎりぎりと歯ぎしりしました。百年前に味わった敗北の味を思い出し、ルドルフは苦々しげに舌打ちしました。


 ――だめだ、この戦争兵器には、リリーの封印がかけられたままなのだった。あのいまいましいバカ女の封印が。やはりバカ王子にしばらくは役に立ってもらわなければならないか。しかし――


 ルドルフは顔をあげて、意識をギュスターヴから部屋全体へと向けました。鼻の奥がちりちりと、きな臭い感じがします。夜だとしても、音がなさ過ぎです。ルドルフは魔力の波をじわっと周囲に広げていき、そして一瞬で自身とギュスターヴのまわりに結界をはりました。


「ハッ!」


 結界が青く明滅し、部屋中に銀の剣閃が走りました。一瞬遅れてカカカカカンッと甲高い金属音が部屋の中にこだまします。ルドルフは結界に魔力を集中させました。明滅していた結界が波打ち、そして青く透明なまくとなってルドルフとギュスターヴをおおいます。


「ほう、ずいぶんと強い魔法を使うようだな、老魔法使いよ」


 とびらがギーッと鈍い音をたてて開き、部屋の中に小麦色の髪をした剣士が入ってきました。手に持つ剣の柄には、沈まない太陽の紋章が刻まれています。その紋章をちらりと見て、ルドルフは鼻を鳴らしました。


「ラウル帝国のものか。しかし一人でやってくるとは、ずいぶんと我らもなめられたものよ」


 小麦色の髪をした剣士は、ルドルフに剣を向けてにやっと笑いました。


「我が名はベカール。ラウル帝国の侵略部隊、『太陽の翼』の部隊長だ。旧ユードラ王国の王子と魔法使いよ、イズン強盗団を壊滅させられた我らのうらみ、この剣で晴らさせてもらうぞ!」


 ベカールのすがたがスーッとけむりのように消え、次の瞬間結界のいたるところに剣が切りかかってきたのです。結界が激しく明滅し、剣が打ちつけられるカカカカンッという音で耳が痛くなります。しかしルドルフは反撃せずに、結界とギュスターヴの洗脳の両方へ意識を集中していきます。どす黒い光がじょじょに弱くなり、ルドルフの顔にあせりの色が見えはじめました。


「どうした? 結界の強度が落ちてきているようだが」


 ベカールのいうとおり、先ほどまでははじかれていた剣が、わずかずつですが結界に傷を作っていたのです。明滅のしかたも悲鳴をあげているかのように、ひっきりなしになっています。


 ――くそ、どうする? ラウル帝国の犬を先に倒すか? しかしまだ洗脳は終わっていない。ここで記憶が戻ってしまうと、洗脳しなおすのに時間がかかる。だが――


 ベカールはルドルフの前にフッとすがたを現して、竜巻のようにグルルッと回転して、結界を連続で切りつけていきました。同じ場所に攻撃を集中させたためか、切られたところが明滅し、そして青いまくにピシッとひびが入ったのです。


「守っているだけではこのわたしには勝てんぞ! それとも余裕のつもりか?」


 今度はベカールが一歩引いて、剣をやりのようにまっすぐについてきました。剣はかろうじてはじかれましたが、青いまくがピシピシッといやな音をたてて、かすかにすきまができています。


「終わりだな、くらえっ」


 ベカールが再び剣をついてきましたが、ルドルフが両手で結界に力を与えたので、青いまくがベカールの剣をはじき、光の刃となってはねかえります。ベカールは光の刃をいとも簡単に剣で防いで、ほえるように笑いました。


「ようやくこしを上げたか。そうだ、このわたしが相手なのだ、片手で戦うなどという無礼は許さんぞ!」


 ベカールが再びスーッとすがたを消しましたが、ルドルフは目を閉じ、いきなりハッと右手を高くつきだしました。ベカールの剣がルドルフのつきだした手の前で、青いまくに食いこみ、ずぶずぶと沈んでいきます。ベカールは剣を抜こうと力を入れますが、青いまくに沈みこんだ剣の刃はびくともしません。


「よし、とらえた!」


 ルドルフが光のなわをベカールに飛ばしますが、ベカールは地面を強くけって宙を飛び、光のなわを回避します。そしてハッと気合を発したと思うと、剣が真空の刃に包まれたのです。剣をとらえていたルドルフの青いまくを、真空の刃がずたずたに切りさき、ベカールは剣を引き抜きかまえなおしました。


「ほう、魔法剣か」


 スッと目を細めるルドルフに、ベカールは首をたてにふりました。


「風の魔法をまとった、我が真空剣に切れぬものなし。お前の結界もすぐに切り刻んでくれるわ!」


 ベカールがグルルッと回転し、剣に大量の風をからませ、結界めがけてふりおろしました。カカカカキキキンッと耳が痛くなるほど甲高い音とともに、結界はひび割れ、ついには切りさかれてしまいました。しかしルドルフはあわてず、床をだんっと足で踏みつけたのです。床から土の壁が盛り上がってきて、ベカールの真空剣を防ぎます。


「風には土ということか、だが、こんな子供だましがわたしに通用すると思うなよっ!」


 ベカールは剣を引いて、全身を使ってうねりながらつきをくりだしたのです。風がらせん状にまきつき、先端が土の壁にぶつかったと思うと、土の壁は粉々に砕けて散りました。そのままの勢いでつっこむベカールでしたが、突然その身がボウッと炎に包まれたのです。ウグウッとくぐもった悲鳴をあげて、ベカールは床の上を転がり、火を消そうとします。しかしルドルフはそのすきを見逃しませんでした。


「土の壁におぼれるがいい!」


 ルドルフは床を足で踏みつけ、どなり声を上げました。床が波打ち、一気に土が盛り上がって波となり、ベカールのからだに降りかかります。ベカールが身をよじって土の波から逃れようとしたそのときでした。


「うう、ここは……」


 ギュスターヴの声でした。ハッとルドルフが振り返ると、いつの間にかギュスターヴが起きあがって、頭を押さえていたのです。ルドルフは目を見開いて、ギュスターヴにつかみかかろうとしましたが、そのうしろで土の波が粉々に砕けました。


「もらった!」


 土の波から脱出したベカールが、ギュスターヴめがけて剣をふりました。剣が空間を切りさき、真空波がギュスターヴをおそいます。間一髪でルドルフの結界がギュスターヴを守りましたが、ベカールがクククと笑ってうなずきました。


「なるほどな、どういう理由かはわからんが、どうやらその王子は力を失っているようだな。今の攻撃をかわすことすらできんとは」


 ベカールがいったとおり、ギュスターヴは床にぺたりとすわりこんで、がたがたと身をふるわせています。ルドルフはチッと舌打ちしてから、ギュスターヴにどなりつけました。


「そこでふせておけ、動くんじゃないぞ!」

「ひぃっ!」


 どなられたギュスターヴは、なにがなんだかわからないといった様子でしたが、やがて脱兎のごとく逃げ出したのです。


いつもお読みくださいましてありがとうございます。

本日はこのあと夕方ごろにもう1話投稿予定です。

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