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06話

「ちょ、バカじゃないの! バカ柳くん!」


 突然家に来たから入れてみれば開口一番がそれだった、まだまだ怒りが静まらないのか彼女はむきぃ! と暴れている。


「は、浜野、お前風邪なんじゃなかったのか?」

「……今日のは寝癖が直らなくて行けなかったの!」

「はぁ? お前の方がバカだろ……」

「う、うるさいなあ! というか初ちゃんと二人で行かせるとか本当に有りえないからね! あーもうっ、信用して損した!」


 散々な言われようである。

 寝癖を理由にして勝手に来なかった挙げ句、鷹翔と小早川さんを二人で行かせただけでこれなんてな、横暴すぎるだろう。

 それで俺が彼女に呆れてどうしようかと頭を悩ませていた時だった、ピンポーンとインターホンが鳴る。

 いや、ピンピンピンピンと連続して鳴って正直怖いくらいだったがなんとか玄関へ行き開けたら。


「貴様っ、なにを勝手に帰っているのだ!」


 そうでなくても面倒くさい状況に面倒くさい子がやって来て辟易とした。


「ああ! き、貴様っ、女を連れ込んでいるだろうっ!? 本命か? 本命というやつなのかあ!?」

「やっかましいわ!! はぁ、浜野が来ているだけだよ」

「なっ!?」


 彼女は勝手にリビングに突入、浜野には小早川さんと行かせたことで怒られているというのにこれじゃあ駄目だろ……。

 というか段々と毎日来ることが当たり前になっていないか? これって良くない流れなんじゃないだろうか。


「高柳、これはどういうことだ!?」「高柳くん、これはどういうこと!?」

「元はと言えば浜野が来ていれば良かった話だろ? 俺を責めるのはお門違いってものだ!」


 たかだか寝癖ぐらいで来ないのが悪いんだ、ついでに嘘までついたりして最低ではないだろうか。

 嘘をつくのは駄目だ、特に風邪を引いてないのに風邪を引いたとか言うのは駄目なんだ、本当になった時に信じてもらえなくなってしまう。


「美波、碓かに彼奴の言うとおりだ、それは素直に認めるしかないな」

「うぅ、ごめんなさい」

「だがな! 美波を連れ込んだことの正当な理由はないだろう!? それは高柳の悪いところだ! 素直に認めろっ、さあ早く認めろ!」


 なんだよ途中放棄したくらいで、おまけに一度は集合場所に行ったじゃないか。

 鷹翔から褒められて猫みたいになっていたうえに、きっちりと鷹翔と楽しんだ後に文句を言うとかおかしいだろうに。

 空気を読んでやったんだ、寧ろありがたいと思ってもらいたいものだがな。


「碓かに浜野は嘘をついて来なかった、で、小早川さんは一人鷹翔と過ごせて楽しめたってことだよな。だが、今回のメインは誰だった? ここにいる浜野美波だよな? そこは鷹翔を独占した小早川さんが謝るべきじゃないのかなって思うんけどなー」

「うぐっ! ……み、美波よ、私は別にそういうつもりではなかったのだぞ? 私が今日ここに来た理由は、高柳とデーツをするつもりだったのにこいつが帰ってしまったからだからな!」


 他の男子に褒められてトロトロになっている少女とデー()なんかできるわけがないがないだろう。

 俺は陽キャじゃないし非モテだから複雑な心を抑えられないはずだ、で、そのまま続けたら爆発してしまい恐らく喧嘩になっていた。

 俺はそれだけはなんとしてでも避けたいわけよ。


「いいから二人とも帰れ」

「なら送って」

「鷹翔に頼んでやるよ」

「ありがとっ!」


 呼んだら数分後には彼が家に訪れた。


「中、浜野さんを送っていけばいいの……って! 浜野さんは風邪だったんじゃなかったっけ?」

「ごめんなさい! 寝癖が直らなくて! ……乾くんには可愛い自分を見てもらいたかったから……」

「どんな状態でも浜野さんは可愛いと思うけどね。残念だったな、今日は」


 さり気なく口説く癖は直っていないようだ。

 あーあ、顔を真っ赤にして「え、えへっ!」とか浜野も喜んじゃっているし……。

 しかも質が悪いのは本気でそう思っていることなんだ、そして誰にでも言うということだろう。


「ごほん! あ、明日! ……とかどうかな?」

「いいよ! でも、今日はとりあえず帰ろうか」

「と、泊まりたい……」

「僕の家に? 大丈夫だよ、お客さん用の部屋があるからさ! 行こうか!」


 俺は自然に少女を家へと持ち帰ろうとする天然さんの肩を掴み、もう一人の少女を指差す。


「小早川さんも連れ帰ってくれ、な?」

「え、初さんも帰る?」

「否! 私はまだ彼奴に用があるのでな!」

「それじゃあ帰りは中に送ってもらってね、じゃあねー」


 ああ! 鷹翔よ行かないでくれー!

 彼女はよほど好都合なのか「はっはっは、これで二人きりだな」と口にし悪そうな笑みを浮かべた。


「悪かったよ、だからそろそろ帰ってくれ」

「今からデートをしよう! お家デートだ!」

「は……」


 言葉を失うとはこういうことなんだろうな。

 またもや勘違いをした彼女が「そんなに嬉しいのか? そうだろうそうだろう!」と一人で盛り上がっている。


「はぁ、家にはなにもないぞ? ライトノベルデートはできるけどな」

「それなら一緒に読もうではないか。読書が好きなのだろう? 私も同じように好きだからな」


 運ぶのは面倒くさいので部屋へ誘うことにした、勿論、深い意味は特にない。


「ふむ。かなりの数を揃えているのだな、しかもどれもきっちりと揃えられているところを見ると……そうだな、律儀なだけではなく几帳面ということでもあるのかもしれないな」

「そうでもないだろ。床に寝転ぶなり、ベッドの端に座るなり好きにしてくれ」


 もう十九時を越えているのが問題だが、彼女が帰るとまで言い出すまでいさせてやろう。

 俺はベッドに寝転んで新巻の続きを読み始める、が、「な、なあ」と声をかけられてすぐに中断する羽目になった。


「よ、夜遅くに異性の部屋にいるなどいいのだろうか……」

「はぁ? 初めてというわけじゃないだろ?」

「し、しかし、それにで、デートなんて……」

「はぁ……小早川さんが言ったんだぞ?」

「それにベッドになんか座れるわけがないだろう!」

「なら床でいいだろ?」


 昔、ゲーセンで他の物を狙っていた時に取れた景品であるサボテンのぬいぐるみを渡しておく。

 彼女はそれをギュッと抱きしめつつも、落ち着かなそうにこちらを見ていた。

 なんというかそれがいつもの彼女と違い新鮮、魅力的に見えて俺も良くないことをしているのでは感が出始めてきて、読書を再開しようとも思えなくて。


「か、帰るか?」

「そ、そうだな、帰るから送ってくれないか?」

「ああ、分かった」


 少しだけ冷える外に出て、お互い会話もなく歩き始めた。

 どうしたもんかなこの空気、なにかを言えば払拭できるだろうか。


「た、高柳、どうして暗闇が怖いのだ?」

「ん? ああ、小学四年の時に母親が出ていってな。んで、父親が働く時間を増やして家にほぼ一人だったんだ。で、トイレとかに行く時に一階が真っ暗でさ、それがいつも怖くてな。今になっても同じままなんだ」


 唐突だが俺は素面だ、そして素面なのにこんなことを吐露すれば当然恥ずかしいわけで、顔がかあと熱くなってしまった。

 まじでヒロインだな、俺。


「なるほどな」

「うんまあそんな感じだよ。一人だとビビるし寂しいんだけど、ラノベを読んでいると気にならなくなるんだ。そういうのもあってラノベに依存してしまっているのかもしれない、なにかをしていれば気が紛れるからな」

「なあ、高柳さえ良ければ住んでやってもいいぞ?」

「いや、そしたら小早川さんが怖くなるだけだから意味ないぞ」


 女子が気軽にそんなこと言うべきではない。

 ましてや俺みたいな非モテに言ったら、食いつかれるぞ多分。


「な、なぜだ?」

「気を遣わなければならないのは面倒くさいし、一人ででいたいという矛盾めいた気持ちもあるんだよ。それに誰かに去られるってのは怖いし、もう嫌なんだ。あと小早川さんは鷹翔のことが気になっているんだろ? 邪魔はできないだろ」

「ん、おかしなことを言うのだな高柳は、私がいつそんなことを言った?」

「服を褒められて喜んでいただろ? 猫になっていたじゃないか」

「ほ、褒められ慣れていないのだ、いきなり『可愛い』とか言われたら驚くだろう誰でも」

「鷹翔に言われた時はあからさまに反応が違ったけどな」


 彼女は不思議そうな顔でこちらを見る、それから「高柳と違って可愛いと直接言ってきたからな」と口にした。


「って、まるで自覚しているみたいじゃないか」

「見てくれには自信がある。長年、鏡を見てきているんだ、自分が分からないはずがないだろう?」

「……ま、その通りだけどな――っと、着いたな、気をつけて帰れよ」


 彼女は数歩進んだ後、こちらを振り返って、


「本当に一人でいいのか?」


 と聞いてきた。

 別に両親がどちらもいないというわけじゃないし、たまにだけど父だって家に帰ってくる。

 それに高校生が同級生の子に泣きつくなんてださいだろう。


「ああ、同級生の女の子と二人で住むよりかは問題はないからな」

「そのままの態度でいると愛想を尽かしてしまうぞ? 具体的に言えば本気で鷹翔を好きになってしまうぞ?」

「どうぞ。元々、そうだろうなって考えているしな」


 電灯に照らされた彼女の顔が何故か驚いているような感じに見えた。


「ふむ、そういうことか」

「え?」

「いや、送ってくれてありがとう。次からは夜に行かないようにするから安心してほしい、私も少し鷹翔に真剣になってみるのも面白いかもな」

「ああ、頑張れよ、応援くらいはするよ」

「さよならだ」


 浜野が現時点では優勢だろうか。

 名前呼びを求めたのに彼女になってほしいと願わないのはどういうことなのか。

 小早川さんと鷹翔の気持ちが全然分からない、ま、そこに関しては分からないままでも全くもって不都合ないが、そう考えている割にはモヤモヤするんだ。

 協力しづらいからか? いやでも、自分がなにかをしてやれるなんて自惚れてはいない。

 大切な友達、親友だからこそ幸せになってほしいと思うからか? だけどそしたら小早川さんは関係ないし……。


「ま、みんな頑張れよな」


 観客として楽しんでやればいい。

 っても、まだまだ鷹翔のことを好きな女子は沢山いそうなんだよなあ。




 俺はてっきり新しい女子が近づいて来て鷹翔を紹介してほしいと言われると思っていたのだが。


「この糞野郎っ、美波に男なんて紹介しやがって!」


 サイコレズに絡まれているんだよな、今の俺は。


「なんだよ加藤、積極的にいけばいいだろ?」

「で、できるわけがないだろ! 美波は乾が好きなんだから」

「だからってその不満を俺にぶつけるのか?」

「……乾にぶつけたら嫌われてしまうかもしれない……だろうが」

「えぇ……」


 まあそうか。

 彼女は現時点では鷹翔のことが気になっているのだから、友達扱いから変わることはないということだ。

 俺としてはそれすら消えかかっている身なので十分なことだとは思うが、恋人になれないというよりも、男に取られてしまうというのが許せないんだろう。


「高柳っ、乾を遠ざけてくれ!」

「悪いがそれは無理だ、鷹翔が自分から言い出さない限りはな」


 案外、彼女の誘いにはすぐに乗るし、客間に寝かせるとはいえ泊まりも許可するくらいだからそれなりに信用しているのではないだろうか? そしてその信用度というのはそのまま親愛度に変わるかもしれないというわけで、俺らが口を挟める場面ではないんだこれは。


「必死だな、加藤」

「小早川も乾を狙っているんだろ? だったらライバルがいなくなった方がいいと思うけどな」


 彼女は「ふむ」と呟いてから無意味にこちらを見た気がした。

 おいおい、俺も鷹翔を狙っているとか誤解しないでほしい。


「それはそうだが、相手がいた方が盛り上がると思うがな」

「小早川!」

「叫んでも考えは変わらないぞ。その者がほしいなら真っ直ぐに一生懸命にならなければ駄目だ、そうして関係のない他人を責めているようではまだまだだな」

「でもいいのかよっ? 美波に乾が取られたら、小早川の願いも叶わなくなるってことなんだぞ?」

「努力をした結果敗れたのならば納得できるよ。というか」

「ありがとう初さん。うん、そういう話は僕のいないところでしてくれると助かるかなあって」


 鷹翔も苦労者だな。ま、その理由の大半は自分の振る舞いのせいではあるが。

 誰と決めず「可愛い」とか言っていたら女子は意識してしまうだろう、おまけに俺と違って『普通』じゃないということも分かったことだし、女子からすれば落ち着かない存在なのは確かなことだ。


「というかさ、中の方が魅力的だと思うけどな」

「「それはないだろ」」「ふむ」「それはないよ!」


 おい、俺と被ったやつと最後のやつ、……分かっているけどさ。


「僕さ、中に優しくできないような子は嫌なんだよね。例え見た目やスタイルとかは良くても僕にとっては良くない存在に見えるんだ。今は特に美波さんや加藤さんとかだね」


 俺のためを思って言ってくれるのは嬉しいが、そんなことを言われたら傷つくだろ二人が。

 別にそれとこれとは関係ない、鷹翔に直接悪口を言ったわけではないのだから許してやってほしい。


「……鷹翔くんはやっぱり初ちゃんが好きだってこと?」

「ううん、そんなことは一切ないよ」

「そ、それじゃあ高柳が好きってことなのか?」

「友達としては好きだし大切だけど、そういうのも一切ないよ」

「ふむ。それなら誰が好きなのだ?」

「誰も特別な意味では好きじゃないんだよね」


 浜野は安心したような、けどがっかりしたような、そんな曖昧な笑みを見せた。

 加藤のやつは希望が絶たれたわけじゃないと知ったためか、少しだけ厳しい顔ではなくなった。

 小早川さんは……。


「鷹翔、一つだけ言わせてもらいたいのだが」

「うん、どうぞ」

「誰も好きではないのなら気軽に『可愛い』とか言わない方がいいと思うぞ」

「あ、そうだね。僕は本当に思って言っているだけなんだけど、無責任だよね」

「言ってもらえるのは本当に嬉しいことだが、苦しい結果になる可能性がかなり高いのだ。そこら辺のこと、しっかり考えてやってほしい」

「分かった。癖だからすぐには直せないけど、頑張るよ」

「ああ」


 話もまとまったところで俺からも切り出す。


「俺も一ついいか?」

「どうしたの?」「どうしたのだ?」

「俺のいる意味ないよな? 帰るわ」


 鷹翔が誰かを好いて一生懸命になってくれればとは期待したが、今日の話に俺は全くもって無関係じゃないか。

 これこそ時間の無駄では? という疑問が尽きなかった。


「ふふ、なんだ高柳、輪に加われないからと嫉妬しているのか?」

「は? そんなんじゃねえよ」

「中、なにもそんな冷たい反応をしなくてもいいでしょ?」

「……はぁ、とにかく関係ないから俺は帰るぞ、後は勝手に盛り上がってくれ」


 そんな不服そうな顔をするくらいなら言うな、冷たい視線をぶつけてくるくらいなら鷹翔に一生懸命になればいい。


「待ってよ中!」

「鷹翔、頑張れよな」

「中だって頑張りなよ」

「俺は生きることに頑張るよ。怪我せず、普通に過ごしてな」

「中……」


 おかしなことを言ったかね? 俺らしくていいと思うがなあ。

 結局、彼の家に着くまで複雑そうな雰囲気のままだった。

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