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04話

 適当に買ってきた本を読んでいた俺だったのだが、読めば読むほど合わないことが分かってきて読むのが苦痛になり途中でやめることとなった。


「まじかよ……」


 しかもそれが千二百円もするものだからこそ余計に凹む――だが残念ながらそんな結果になってしまったのだ。

 用意していた温かった紅茶を飲んだら既に冷めており、それがまた俺の心にダメージを残す。

 やはり表紙買いは駄目だ、イラストが良ければ中身もいいというわけではない。

 そりゃ勿論、書籍化され販売されているのだから需要はあるのだろうが、合う合わないは確実にあるからな。

 たまたまとはいえ、合わない方に属してしまった俺はなんとも悲しい。

 にしても、どうして鷹翔も小早川さんも異性といることを重要だと思うのかね、浜野にしたって同じこと、よく分からないな。

 俺は鷹翔と違ってモテたいとか思わないし、健康でいられるならそれでいい、そりゃワイワイ楽しそうにやっているのを見て羨ましく感じることはあるが一方通行では意味がない。

 相手が自分のことを友達としてすら見られないならそれで終わりだ、そしてこれは別に諦観をしているわけじゃない。

 相手がそうなら仕方ないなって俺はそう割り切っているだけの話だ。

 湯を沸かして温かい紅茶を用意――できたらそれを飲んで、鷹翔に本選びを失敗したというメッセージを送って数分待って。


『もう、どうして初さんといなかったのさ』


 なんて返ってきたメッセージに適当に返して、会話を続けていく。


『あ、初さんがIDを教えてくれだってさ』

「は?」


 よく分からない少女だな彼女も、メリットがないので駄目だと返しておいた。


『なんでさー!』

『デメリットしかないだろ、それに小早川さんは鷹翔のことを気にしているし』

『本当に?』


 あくまで俺の憶測だ、でも、可愛いとか言われた時にあからさまに喜んでいたからなくはないと思うが。


『僕らは普通だよ? あんな可愛い子が求めてくるわけがないじゃん』

「またこいつは……」


 二人から求められておいてなにが普通だよ、というか、二人以外にも鷹翔に興味を抱いているやつを知っている身としては複雑な気持ちになるのは抑えられなかった、鷹翔こそ気づいていないだけだ。

 小早川さんよ頼む、そいつに気づかせてやっておくれや。

 俺には無理だ、鷹翔は鈍感すぎるからな……。


『なにコソコソしているのって怒られちった』

『堂々としておけばいいだろ、別にやましい会話はしていないんだから』


 そこで一瞬間が経過した。

 スマホでも取られたのかと想像していると、


『やあやあ、非モテの高柳くん』


 鷹翔のスマホが乗っ取られてしまったようだと気づく。

 俺は適当に『はいはい、非モテの高柳くんでーす』と返しておいた。


『そういうのつまらないよ?』

『つまらなくて結構だ』

『高柳くんってホントにモテなさそう』

『その通りだ』

『だから異性のお友達すらいないんじゃない?』


 よく鷹翔のスマホを使ってこんなことを送ってくるな。

 幻滅されたらどうしようとか考えないのだろうか? それとも彼女にはそう考える能力すらないのか?


『あれ? 黙っちゃった』

『それくらい一生懸命鷹翔に向き合えよ』

『キミみたいな子ってすぐに話を逸らすよね~』


 おいおい、どうしてここまで今日は煽ってくるんだ浜野は、俺がなにかしたか? もしかして鷹翔に一生懸命になれ的なことを言ったからか? 雑魚野郎には応援すらさせてもらえないのかよ、そろそろ泣くぞ、真面目によ。


『中、ごめん! 取り返したからっ』

『俺、君に惚れていいか?』

『ちょっ、え? えと……』

『真面目に受け取るなよ。ありがとな、泣きそうだったからさ俺』


 メンタル糞雑魚だから真剣にそうなりそうだったんだ、そこら辺の女子よりよっぽど乙女みたいな弱さがある、それこそ鷹翔が言っていたようにクラスの強そうな女子連中よりかはよっぽどな。

 浜野のやつは恋敵が近くにいて落ち着かなかったんだろう、そう考えたら不満を誰かにぶつけたいというのも分かる気がする。

 ただ、もう少しくらいは柔らかく煽ってほしいものだな、俺の弱さを分かってほしいとも言えないし、困ったものである。


『びっくりしたよ……』

『おいおい、そんな反応をされたら本当に好きになっちまうぞ』

『え、ちょ、困るよ、乾くんが気になっているんだから……』

「は」


 ぎゃあああ!? そ、そんなことってあるのかよ! ……一応言い過ぎたと思って流れを断ち切るために鷹翔のフリをしたってことか? その罠にまんまと引っかかって、俺は冗談で――考えたくもないな……。

 ましてや相手は浜野だぞ、小早川さんならまだ分かるが流石に彼女の相手をするのは荷が重い。

 求めてこないということは分かっている、それでも俺は滅茶苦茶後悔していた。


『わ、悪い、……鷹翔かと思ってな』

『そ、それも不味くない? だって同性なんだし……』

『じょ、ジョークだからな!? 誤解してくれるなよ浜野!』

『……高柳くんも初ちゃんが好きなの?』

『は? んなわけないだろ』


 も、ってなんだよ。

 彼女の中では鷹翔が小早川さんを好いていると決まっているのか? それとも、自分も含めてということだろうか。

 唐突だが百合はいいものだし、彼女達は見てくれがいいので目の保養になることだろう――が、小早川さんが振り向いてくれる可能性は限りなく低いんだよな、そこは浜野に頑張ってもらいたいものだ。

 そこで新しく通知が鳴って確認をしてみると浜野から直接メッセージがきているようだった。

 『協力して』とだけ書かれたもの、どうするべきだろうか。


『非モテの俺にできるわけがないだろ?』


 とりあえず友達登録をしてから返信し少し待つ。

 安請け合いをしたら鷹翔が小早川さんへの気持ちに気づいた時に面倒くさいことになるだろう、どちらかと言えば彼に協力したいと思うし、言ってしまえば浜野はどうでもいいのだから。


『協力してくれたら女の子を紹介してあげる』

『お前の友達なんてみんなお前みたいなものだろ、そんなんいらないわ』

『失礼な! 大人しい子だっているよ?』

『そんなのどうでもいい。お前が好きなのは誰で、その人間を振り向かせるためにどういう協力をしてほしいのかはっきり言え』


 また間があく、即答――即返信ができないなら協力しろなんて言うべきではないと思う、というかよくボロクソに言った相手に協力してもらおうなんて考えになるよなって話だ。

 ましてや俺は彼女が言うように非モテ野郎だ、異性の友達すら一人もいないから大して力になれないと思うのだが、そんなんでももう一つ頭があれば少しくらいは役に立つということなんだろうか。


『……私が気になっているのは乾くんだよ、二人きりになれる機会を複数回作ってくれたらいい。そうしたら非モテの高柳くんに女の子を紹介します』

『その子の気持ちはどうするんだよ、俺みたいな人間に興味を持たれたら可哀相だとは思わないのか? というか、勝手にお前の物みたいな扱いをされるその子が可哀相だろ』

『……じゃあ無償で協力してくれるの?』

『鷹翔が小早川さんのことを好きじゃないと分からない限りは無理だ、俺の中では鷹翔の気持ちの方がお前の鷹翔への気持ちよりも優先されることだからな』

『やっぱりホモなの?』

『お前さ、協力してもらおうとしている相手によくそんなことを言えるよな。さっきだって鷹翔のスマホで自由にしてさ、本気で好かれたいと思っているのか? 俺には適当にそう口にしているようにしか感じられないけどな』


 つかメッセージを打つのが本当に面倒くさい、なんで俺も律儀に返信して付き合っているんだ。


『電話でいいか?』

『え、でも、ふたりはすぐ近くにいるし……』

『じゃあ終わりだ、どちらにしろ協力はできないしな』

『役立たず!』


 彼女はそのままトークルームから退出。

 はは、役立たずねえ、最初から役に立てないって言っていたはずなんだがな。


「そう言ってくれるなよ浜野」


 頼りないことぐらい自分でも知っている、自分が知らないわけないじゃないか。

 でもまあ、確実に後に面倒くさいことになっていただろうし、この選択が正しいと信じておこう。




 翌日、俺は珍しく時間をつぶすために読書をしていた。

 内容は依然として合わないが、なにもしないよりは退屈凌ぎになるからいい。

 だが、


「おい、美波を虐めたのはお前か?」


 変な絡まれ方をして無理やり中断という流れになった。


「待て、そのみなみって誰だ?」

「浜野美波だ、しらばっくれるな糞野郎」


 あ、ちなみに言っておくと男に絡まれたわけじゃない、なんというか全体的にだらしない女子、と言うのが妥当な感じである。

 あと百七十後半はある俺と同じくらい背が高い。


「待て、虐められたのは寧ろ俺の方だぞ?」


 好き勝手に言われた、役立たずとまで言われた、なのにちょっと協力できないと言っただけで“虐めた”はないだろう。


「お前っ!」

「待て待て待てっ! 暴力は良くないぞ!」


 一応まだ他の人間は残っているんだ、問題になったらお互いに面倒くさいから分かってほしいところだが……。


「加藤さんっ、中に暴力を振るったら許さないからね!」


 字面だけで見ればメインヒロインみたいな感じではあるが中性顔だとしても鷹翔は男だ。


「そうだぞ加藤、高柳に手を出したら許さないぞ?」

「乾と小早川か。……ちっ、命拾いをしたな糞野郎!」


 さ、山賊かよこの女子は……。


「そんなに怒ってどうしたのだ?」

「こいつが美波を泣かせたんだ!」

「それは本当のことか?」

「……俺はただ協力できないって言っただけだ」


 泣かせたかどうかは分からないので昨日したやり取りのことを適宜ぼかしつつ三人に伝える、ちなみにそこだけは嘘をついていないと分かったのか加藤も怒鳴ってはこなかった。


「正しいのは高柳なのではないのか? 中途半端に受け入れて途中でやめるくらいなら最初から『無理』だと言われた方が私としては気が楽だがな。ましてや加藤は美波じゃない、勝手な自己満足で高柳を責める権利はないだろう? いや、仮に貴様が美波だったとしても高柳は間違ったことはしていないのだから責める権利はないぞ。貴様がしていることは美波の印象を悪くしているのと一緒のことだ、勘違いをするな」


 か、格好良すぎるだろ小早川さん、危うく真面目に惚れるところだった。

 でもできない、だって彼女を見る鷹翔の目がキラキラしていたからだ。

 格好いい男子を見たヒロインみたいに、それはもう新鮮なくらい。

 そして俺はいつだってそれを眺める側の人間でしかない。

 昔からずっとそういう人間だ、誰かに支えてもらわないと生きていけない糞雑魚野郎だ。

 悪口が怖いし、暗闇が怖いし、メンタルが弱いし、普通以下だし――ふぅ、何度も問いているがどうして俺はここまで弱く育ったんだろうか。


「で、でもこいつは間接的にでも美波を泣かせたんだぞ?」

「自分勝手というものだろう、あと、貴様が責めるのはお門違いというものだ」

「わ、わたしはただ美波のためにって……」

「なるほどな。まあ、そういう気持ちは素直に素晴らしいと思うが、高柳を責めるのは違う、そうだろう?」

「……悪かったよ」

「いや別に……」


 はぁ、やばいやばい、優しくされると勘違いをしそうになる。

 もう加藤が俺に怒っていることとかどうでもよかった。


「ありがとな、小早川さん」

「高柳も少しくらい自分で言わないとな」

「……それは無理だ。ま、どうでもいいよそんなことは。もう帰るわ、気をつけて帰れよ。鷹翔、頼んだぞ」

「任せて!」


 怒る、怒鳴るのは簡単だ、後を考えなければ加藤みたいに勢いに任せればいい、適当に自分の本当のところをぶつけて、なにか言われたら言い返すのを続ければいい。

 ただ、俺のメンタルじゃ無理だ、相手が女だというのに泣くのは俺の方だ。

 だったらまた泣き寝入りをしておけばいい、理解をしてもらおうとしなければいいだろう。

 俺のことを信用してくれていれば誰かがきっと助けてくれるはずだ、もしそんな人間がいなかったら言い返さずに家で泣けばいい。

 幸い父は全然家に帰ってこないし、それがどういう理由からの涙なのかも聞かれずに済むのだから。

 万人に認めてもらうなんて無理だ、先程みたいに理不尽な絡み方をされることも沢山あるだろう。

 その度に心にダメージを負い、ひとり無様に泣くのだとしても俺の人生――俺らしい生き方だと心から言える。


「だっせ、ごちゃごちゃ考えすぎだ」


 モテない、求められない、情けない、これだけで済むのに延々と考えたって仕方がないだろう。

 現状は変わらないし、変えようともしていない。

 いつだって傍観者、他人を頼るだけの役立たずの童貞野郎ってだけだ。

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