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03話

読む自己で。

あたるー」

「……は?」

「へへへっ、ドキッとした?」

「……色々な意味でドキッとしたぞ……」


 目を開けた時に男の顔がすぐ近くにあったら誰だって驚くだろう、どちらかと言えば中性顔なのも影響が大きいのかもしれない。


「今は何時だ?」

「んー、七時半かなあ」

「はっ!? 今日も学校だぞっ?」

「はぁ、中君、今日は土曜日だよ?」

「あ、……だから俺も夜ふかししたんだっけか」


 最新巻をそのせいで全て読みきってしまったわけだが、今日か明日のどちらかで本屋に行って本を買えばいいだろう。

 幸い、父が結構な額を毎月家にいれてくれているし、そこからある程度は小遣いにしていいということになっているからそれでいい。


「中、今日はここに初さん呼ぼうよ」

「はぁ? 嫌だよ、それだったら家に帰ってから呼んでくれ」

「ははは、ごめんよ中君、もう一階にいるんだ」

「貴様っ! はぁ、なんで鷹翔と友達なんだろ俺……」


「酷いよ! 別にいいじゃん、普通の男二人でいるより華があるでしょ?」なんて言って笑みを浮かべているが、俺が連れ込んだみたいになるじゃねえかよ。

 とりあえず一階にいるということなので行ってみると、ちょこんとソファに座って目を閉じていた、寝ているのだろうか……?


「小早川さん?」

「……ああ、すまない」

「いや、別にいいけどさ、眠たいなら寝転んでもいいぞ?」


 どうせなにができるってわけじゃない、おまけに、彼女にとって俺はおまけでしかないので寝てくれた方が気が楽と言える。

 案外大人しく彼女も「少しだけ転ばせてもらう」と口にして静かにソファへと寝転んだ、置いてあった毛布を手渡してから俺は椅子に座る。


「あれ、初さん眠たいの?」

「……休日はいつも昼近くまで寝ているからな」

「あ、それはごめん!」

「いやいい、せっかくできた友が誘ってくれたのだ、なるべく参加したいからな」

「ねえ中聞いた!? 見た目もそうだけど性格も可愛いよね!」


 適当に相槌を打って方杖をつく。

 はぁ、自分の家なのにいづらい、……こうなったらしゃあないか。


「鷹翔、俺はちょっと外にいってくるから」

「え、なんでさ! 別に走る日課とかやることないよね? 本屋さんだってまだやっていないし」

「なにかなくたっていいだろ、どっちにしろ騒げないんだから」

「……すまない、別に起きていても大丈夫だぞ?」

「いや、俺がいづらいだけだから、また後でな」


 家を出て歩いていく。

 とはいえ目標の場所なんてないので、ただただ散歩をするだけだ。


「あれぇ? ど、どうして乾くんいないんだろ……」


 鷹翔の家の前を通ろうとした時のこと、昨日絡んできたあの女子がいて引き返そうとしたのだが、


「あ、高柳くん発見っ!」


 まあ真っ直ぐな道だし発見されるよな、俺は諦めて彼女の方へ向く。


「高柳くん、乾くんはどこ?」

「……俺の家にいる、昨日泊まったんだ」

「え~? あ、もしかして高柳くんは同性が好きな人なの?」


 こういうタイプの相手は面倒くさい、二次元の美少女とは雲嶺の差だ。

 が、俺の気持ちが顔に表れているのか「ちょ、顔っ!」と指摘してきたものの、努めて冷静に「鷹翔になにか用があるのか?」と聞いておいた。


「休日に会いたいって思うのはおかしいこと?」

「いや? 好きな人間に会いたいって思うのはおかしくないだろ」

「す、すす、好きぃ!? な、なにを言っているのかなちみは!」

「え、違うのか?」


 小早川さんと仲良くしているのを快く思っていなかったみたいだし、てっきり俺はそうだと思ったのだが……。


「変なこと言わないでよっ、このバカ柳くん!」

「おい、いい加減にしろよ」

「……ごめん」

「鷹翔に会いたいなら家まで連れてってやるけど、どうするんだ?」


 人数が多くなればなるほど、鷹翔に用がある人間が多くなるほど、彼の方から俺に迷惑をかけてしまうからと帰ってくれる可能性が高まるわけで、だから別にこの少女が来ようが問題はなかった。


「……もしかして小早川さんもいる?」

「ああ、だからこうして俺が外に出てきたわけなんだ、あのふたりがワイワイしているといづらくてな」

「わかる! むっちゃいづらいよね!」


 そりゃいづらいだろう、彼女は鷹翔のことが好きなんだから。

 目の前で好きな相手が他の異性と仲良くしていたら複雑な気持ちにもなる。


「でも、鷹翔を求めるなら積極的にならないとやばいぞ、小早川さんは魅力ありまくりだからな」

「べ、べつに出会ったばっかりでしょ?」

「そうだけど、出会ってからすぐに気持ちが変わることだってあるだろ?」

「……負けちゃう、かな?」

「さあ? ただ、今から悲観していたって時間が無駄になるだけだ。鷹翔の彼女になりたいなら一生懸命になればいい、その頑張った時間は決して無駄にはならないだろうよ」


 なにもせずに後から悔やむことになるくらいなら、恥でも惨めでも真剣にやっておくべきだ。

 それで手に入ったら喜べばいいし、手に入らなくても頑張った結果だけは手元に残ってくれる。

 自己満足でもなんでもいい、それを咎める奴はいない。


「え、偉そうに言わないでよ! 非モテのくせに!」

「そうだな、別に否定はしないぞ、俺には異性の友達すらいないからな」

「……案内して」

「了解」


 離れているわけではないので家にはすぐに着いた。

 リビングに行くと小早川さんはソファで、鷹翔は机に突っ伏して寝ていた、……なんで彼らは俺の家にいるんでしょうかね。


「おい鷹翔」

「……ん?」

「鷹翔に用があるって少女を連れてきたぞ」

「あ、浜野さん、おはよ」

「お、おはよ……」


 まだまだ鷹翔のことを好いている女子は沢山いるだろうし、下手をしなくてもハーレムができそうだ。


「……浜野も来ていたのか」

「わ、悪い?」

「そうは言っていない、鷹翔に用があったのだろう? 二人でどこかに行ってきたらどうだ?」


 おいおいいいのか? 鷹翔が取られてしまうぞそんなことをしたら。

 一応彼女も見てくれだけはいい、油断をしたら終わりだと思うんだが。


「へっ!? ふ、二人きりとかまだ早いよ……」

「僕は別にいいよ? 浜野さん、どこか行きたいところとかある?」

「え、な、なら……家とか」

「いいよ、行こっか! そういうわけだから中は初さんの相手をよろしくねー」


 これもそういう作戦に思えてきてしまう、なにもかも鷹翔の目論見通りってのも複雑だ。


「行ってしまったな」

「なにをやっているんだよ、鷹翔のこと気になっているんだろ? なのに他の女子に譲るようなこと……」

「き、気になっているとかそんな事実はないぞ!?」

「はぁ、素直にならないと後悔することになるからな」


 ふたりきりになりたくなかったんだが、彼女からも「非モテのくせに!」とか言われたらショックで寝込む自信があるぞ……。


「高柳、どうしてそこまで他人のことを気にするのだ?」

「いや、俺も分からないんだけどさ、気になるんだよな」

「自分のことに集中したらどうだ?」

「迷惑って言うならやめるよ」


 自分はまるでできていないのに他人にそう言うのは自分勝手だと思うし、不快にさせてしまったのなら申し訳ないと思う心はある。

 でも、そこをはっきり言ってくれないとミスを重ねそうなので、もしそうならここで告げてほしかった。


「そ、そういうことではなくて、異性の友達すらいないのは不味くないか?」

「そうか? あまり不都合ないからな」


 関わった結果「童貞」「キモい」「非モテ」などと言われるくらいならひとりでいた方がマシではないだろうか? 積極的に関わっていない分には悪口を言われようが構わないわけだし、本でも読んで心を癒せばいいだけだろう。


「というか追わなくていいのか?」

「鷹翔の家は知っているが……」

「小早川さん、興味がない男の家にいるよりかは浜野と二人で鷹翔の家にいた方がいいと思うんだけどな」

「じゃ、邪険に扱ってくれるなよ」

「そういのじゃないさ、なんとなく君の鷹翔への気持ちが分かったからその方が有益だろって言いたいだけなんだ。ここで無駄な時間を過ごすよりかは、そうだろ?」


 みなまで言わすな恥ずかしい、なんか構ってちゃんみたいじゃねえかよ。

 冷たく対応をしているとかではなく、ここにいられてもなんもおもてなしができないからというだけだ。

 その点、鷹翔ならそこらへんがしっかりしているわけで、彼女もきっと寝なくても済むことだろう。

 つまりまあ、回りくどくなったが時間の無駄にならなくなるというわけだ。


「ふむ。だが、無駄とは思わないぞ? そこだけは誤解しないでほしい」

「ああ、そう言ってもらえるのはありがたいからな」

「今日のところは行くつもりはないぞ」


 女子が苦手だと感じるのはこういう頑固さ、自分勝手さがあるからかもしれない。 自分も人のことを言えないが、素直に従ってほしいものだがな……。


「前々から感じていたのだが女絡みのことでトラウマでもあるのか? それでも私が悪口を言ったとかではないと思うのだが……」

「トラウマ? 別にないぞ、小学生の頃に母親が出ていったのはショックだったけどな。ただ単に異性から好かれないってだけだ」

「異性から好かれない、か」

「ああ、そのことで浜野からは散々馬鹿にされるけどな」


 別に恋愛が全てというわけでもないし、指摘されても痛くはないが。

 それに別に他者が他者に恋をすることを馬鹿にしたわけでもない、押しつけもしていない。

 そういうのもあってそっとおいてほしいものだがな、と内で吐く。


「それは高柳が周りに意識を向けていないからではないのか? 例えば本ばかりを読んでいるから気づけないというか」

「いやいや、俺はライトノベルを嗜むような人間だぞ? それっぽい言動や態度を耳に、目にしたら気付けるだろ。そしてそれが一切起こらないということはつまりまあそういうことなんだろ」


 土曜日の朝におかしな会話をしている自覚はあった、彼女もどうして俺の家に来てこんな会話をしているんだろうと不思議に感じているかもしれない。

 ……止めてくれる人間がいないとこういう時に困るもんだ。


「ライトノベルを読むの、やめたらどうだ?」

「そういう偏見は良くないぞ。別にいいじゃないか、誰に迷惑をかけているわけじゃないんだから」


 それが最高の時間なんだ。

 授業中も読んでいるとか、協調性がないとか、「これいいから読めよ」と勧めているとか、そういうのではないんだから放っておいてほしい。

 大体、他人の趣味に口を出せる権利はないだろ、おまけに彼女だって読んでたって言っていたじゃないか。

 魅力があることは分かっているだろうし、やめてほしいものだがな。


「それはそうだが……」

「もうこれ以上この話題を続けるのはやめてくれ、やりたいなら鷹翔達としてくれよまじで」

「ふぅ、高柳がそう言うなら仕方がないな、奴の家に行ってくる」

「ああ、じゃあな」


 というわけで俺も一緒に出て本屋に行こう。

 いいのがあればいいが、果たしてどんな結果になるだろうか。

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