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19.『大切にしよう』

読む自己で。

 翌日はきちんと登校した。

 揶揄されたのは言うまでもないが、実際に美波の体調が芳しくなかったのだから仕方ない。風邪を引いたときってのは寂しいだろうし、側にいてやりたいと思ったのだ。……まあ、彼女は今日も休んでしまったけれども。


「中ー、ごはんを食べようよー」

「おう」


 既に屋上が気に入っているため、俺らはわざわざ移動した。

 もう11月になろうとしているのもあり、少しだけひんやりとしているような気がした。それでもあまり気にならないのは、鷹翔がいてくれるからだろう。


「へえ、本当に体調が悪かったんだね」

「ああ、美波はな。風呂に入ったら余計に悪化して、昨日はずっと寝てたぞ美波」

「本当は側にいてあげたかったんでしょ?」

「まあな、俺の家にそのまま寝かしてるからな」


 朝だって「側にいてほしい」と言われた。生憎とそれはできなかったが……。

 とにかく、家に帰ったらひとりとか言われたら帰すわけにもいかない。そりゃ帰りたいって言われたら解放するつもりだが、言われない限りはいてもらうつもりだった。


「キスした?」

「ああ……あの日の夜にな」

「おぉ! 積極的!」

「ただ、それで体調が悪化したから、あんまり、な」

「そんなことないんじゃない? マイナスに考えなくて大丈夫だよ」


 というかもっと早く気づいてやるべきだったんだ。それなのに加藤と俺で彼女を振り回して、ファミレスに呑気にゆっくりとして、……とかく変に強がる性格じゃなくて心底良かったと思う。

 これでひとりの家に帰っていたら倒れて誰にも見つからず重症化してしまう可能性もあった。だから、そうならなくて良かったと考えておこう。


「……ね、美波さんが彼女になってくれて嬉しいのは分かるけどさ、ちゃんと僕らのことも相手してよ?」

「はは、いまこうして一緒にいるだろ?」

「そうだけどさ……中が人を――女の子を好きになるなんて初めてだし、ましてや付き合うなんてなかったからさ。傾倒しすぎてしまうんじゃないかって心配だよ」


 人を好きになるなんて初めてというのは語弊があるが、鷹翔の言わんとしていることは分かる。過剰なスキンシップをしているわけではないにしても、ついつい側にいたくなるし心配になるからだ。

 なんでもかんでも心配すればいいわけじゃない。まるで信じてないみたいに捉えられてしまう。だから適度にが最適なんだろうけども、初めて故に適度のラインが分かっていないのだ。

 それと抱きしめるとか手を繋ぐとか、どういうタイミングでしてやれば美波が喜ぶのかも分かっていない。いままでは全て彼女から求められたタイミングでしていたため苦労はなかったが、彼氏になったからには自分からも積極的に行動して彼女を喜ばせたいところだ。


「しかもさ、俺らまだ好きだって言えてないんだよな」

「はぁ!? な、なにやってるのさ!」


 唐揚げを箸で掴もうとした鷹翔はなにを思ったのか箸をぶっ刺した。おい、八つ当たりするなよ唐揚げに、罪はないだろ唐揚げに。


「普通はキスの前にすることだからね!?」


 俺は白米の他には卵焼きしか入っていない弁当を食べつつ、「そうなんだよな」と小さく吐く。

 結局なあなあになってしまったし、美波の体調が悪かったので、言えないままなのは引っかかっている。


「中、僕のことを好きだと言ってみて!」

「鷹翔のこと好きだぞ」

「…………」

「おおい! 黙るなよっ!」


 別に緊張して好きだと言えないわけじゃないんだ。

 後ろめたい気持ちがあるわけでもなし、俺は心から美波のことを好きだと思っているから。だからあるのはどのタイミングで言えばいいのか、ということ。


「……真っ直ぐ言われたらドキッとするじゃんか」

「乙女かよ……」


 なんか段々と可愛らしく見えてくるからやめてほしい。

 言動だけで見れば異性を相手にしているみたいだからな。


「んーでも、真剣な顔で同性にも言えるんだから、美波さんにも言えるよ」

「別に好きだと言えないわけじゃないんだ。ただ、適当に告白するわけにもいかないだろ? それは失礼だし、俺にとっては初めての相手だから大切にしたいんだよな」

「の、惚気てくれやがってぇ!」

「怒るなって……」


 少なくとも体調が良くなってからがいいだろう。

 ……しおらしい彼女も可愛いが、いつもの元気な彼女が1番好きだ。


「卵焼きちょうだい」

「いいぞ」

「……してくれないの?」

「それは流石にな」

「ちぇ、美波さんと幸せになればか野郎」


 馬鹿野郎か、色々考えて動けない方が悪い結果になるんじゃないか?


「ありがとな、鷹翔よ」

「え、罵倒されて喜ぶの? あ、アホー!」

「違うよ」


 雰囲気とかを気にして告白できないままでいる方が問題だ。

 というわけなので、今日帰ったら速攻、告白させてもらうことにしよう。

 変に飾る必要はない。ただただ「好きだ」と言えればそれでいい。

 なんでこんなときに怒られたら、その後の対応で満足してもらえばいい。


「ははっ、完璧だ!」

「うわ、ひとりで笑ってる……」

「馬鹿言うな、鷹翔に笑いかけてるに決まってるだろ?」

「嘘つき」

「ま、そうなんだけどな」


 白米を3口で食べて蓋をした。

 早く放課後よきてくれと願ったのだった。




「じゃあな鷹翔!」

「うん、じゃあね!」


 放課後になったら教室を飛び出して、家へと向かってひた走る。

 が、途中のコンビニで清涼飲料水やジェルシートを購入し、再び家へと走って。


「ただいま!」

「……おかえり」


 俺は家族みたいだなと内心で呟きつつも、無理やり彼女を抱いて2階へ移送。


「駄目だろ、動いたら」

「ちょっと喉乾いて……」

「ほら、これ飲めよ」

「えへ……ありがと」


 ボトルに口をつけてちびちび飲みだす美波。

 うーん、どうやらまだ調子が悪いようだが、飲み終わったようだし言わせてもらおう。


「美波」

「……ん?」

「好きだぞ、美波のこと」

「え……」


 キャップをしてからで良かった。

 ただまあ、やはり体調の悪いときに言うことではないと学ぶ。


「……寝る」

「おう、おやすみ」


 頭を撫でて部屋を出た。

 1階に行きソファに座っていると、玄関からガチャガチャという音が聞こえてきた。


「お邪魔するぞ」

「お邪魔します」


 すぐに現れる亜麻色と金色のふたり。


「こんにちは」

「ああ、こんにちはだ」

「こんにちは。ごめんなさい、いきなり来て」

「別に大丈夫ですよ」


 飲み物を用意し手渡し。


「それで、どうしたんだ?」

「美波が家にいると聞いたのでな。だが……トイレにでも行っているのか?」

「体調が悪いから寝ているんだ。俺の部屋で寝ているから行ってきたらどうだ?」

「ふむ、そうだな、少し行ってくる。シズはどうする?」

「私はここで待つわ」


 こうして残された俺らふたり。静先輩とこうしてふたりきりになるのはなんだか久しい気がする。


「ふふ、もう必要ないわよね」

「あー、大丈夫ですよ」

「敬語はいいわよ。ふぅ、あなたはすごいわね、きちんと人を好きになれて」

「静先輩だってできるだろ」

「そうかしら? ……私はずっとこのままでしょうね、友達は初やあなた達だけ」


 内心で美波に謝罪をし、彼女の頭を撫でさせてもらう。


「静先輩なら大丈夫だって。だって人の力になれる人だ、大して仲良くないのに俺を支えてくれただろ?」

「……驚いたわ、まさかあなたからされるなんて。でも、もうしたら駄目よ? あなたには美波さんという彼女がいるんだから」

「あのときのお返しだ。ま、静先輩のためになれたかどうかは分からないけど」

「ふふ、そんなことはないわよ。……ありがとう」

「おう」


 自分が撫でられたことがないからどれだけ効力があるのかは分からない。

 でも、少しでも力になれたら嬉しいと考えた。


「中よ、それは浮気行為ではないのか?」

「……中くん最低」


 せっかく寝かしたというのに連れて来たら駄目だろう……。おまけにあまり無理してほしくない。とりあえずソファに座らせる。


「……だから私を無理やり2階に連れてったんだ……『好き』って言ってくれて嬉しかったのにっ……」

「待て待て! マジな雰囲気を出すなよ! 悪かった、だけど静先輩は俺を支えてくれた人だからさ」


 あれがなかったら潰れていた、かもしれない。

 そして潰れていたら、いまこうして彼女と付き合うようなこともなかった。

 静先輩に感謝しているんだ。だからその人が弱気な雰囲気を出していたら少しでも力になってあげたい、返したいと思うのは当然だろう。


「ごめんなさい、私が甘えてしまったのよ。初、もう帰りましょう?」

「そう、だな、帰るか」

「気をつけて帰れよ」


 優しい人達だな。

 1年違うだけで雰囲気自体が違うというか、そんな感じだ。


「ああ、中は美波を見てやるのだぞ?」

「おう」

「高柳くん、美波さんを支えてあげてね」

「おう、それは大丈夫だ」


 ふたりが去り、リビングにはふたりきりになる。

 すると、俺が抱きしめようとする前に美波が抱きついてきた。


「だめだからっ」

「俺は美波のもの、だろ?」

「そうだよっ、他の子に渡したくない! ……でも、ちゃんと返そうとしたのは偉いと思うよ」

「はは、ありがとな」


 初めて彼女をまともに抱きしめた。

 柔らかくて熱くて、どれだけ力を込めていいのかが分からない。

 でも、分からないなりに彼女を満足させたかったから、そのまま続けた。


「好き」

「おう」

「……ほんとはね? あの頭を撫でられたときに『好き』って言ったことがあったでしょ? あのときの『好き』はもう特別な意味だったんだよ?」

「あれには固まったぞ、いきなり好きとか言われたらドキドキするだろうが……」


 美波はどうだか知らないが、こちとらずっと非モテでやってきたんだ。

 で、いきなり別の意味でも「好き」とか言われたら、ドキドキするに決まっているじゃないか。


「でもさ、他の子にも気軽にするんだから困っちゃうよね……」

「悪かったって。それより体調は?」

「実は中くんが帰ってきたときから平気だったんだよね。……お、怒る?」

「いや? 彼女が元気な方がいいからな、寧ろ嬉しいよ」

「えへへ、そっかっ」


 ……ということは「好き」だと伝えたときのあれは、恥ずかしくて無理やり寝ようとしたということだろうか。そう考えると猛烈に可愛く見える。


「早いけど夕食食べるか?」

「中くんが作ったお味噌汁が飲みたい」

「安心しろ、俺はそれくらいしか作れないからな」

「ふたりで覚えていけばよくない?」

「そうだな、さっきだってまるで結婚したみたいに思ったし」

「あ、わかる! なんか中くんに『おかえり』って言うの新鮮だったもん!」


 分かってほしかったが、分かってほしくなかった。

 乗られると恥ずかしいし、どうしても顔が熱くなる。

 ただし、この羞恥は自分の痛さの表れでもあるのが複雑なところだ。

 とりあえず作るのは玉ねぎと油揚げの入ったシンプルな味噌汁。

 切って入れて、沸騰しても入れて、そうしたら完了。


「ほら」

「ありがと! いただきます。ずずず……うん、なんか落ち着く味だね」

「そりゃ市販の味噌を使っているからな、誰が作っても同じだろ」


 俺も飲んで一息つく。

 碓かに温かくて落ち着く味だ。側に美波がいるのも大きい。


「ううん、きっと中くんが作ってくれたからだと思う」

「嬉しいこと言ってくれるな。ただ、美波のは彼女バカだな」

「そんなことないよ!」


 そんなことあるだろ。

 俺が作ったから~なんてそんな力は存在しない。

 仮に美波が作ってくれた味噌汁を飲んでも、同じような感想を抱くだろう。

 

「ごちそうさまでした」

「お粗末さまでした」


 鑑賞するのをやめてソファに座ると、彼女も横に座ってくる。

 そしてガバっと側面に抱きついてきて、俺は彼女の頭を撫でた。

 物凄く濃密な1ヶ月だった。

 最初はてっきり小早川先輩――初先輩とこうなるもんだと思っていたが、まさか美波が恋人になるなんてか投げてもいなかった。


「ね、キスしよ?」

「いましたら味噌汁味だぞ?」

「いいじゃん、美味しいし」

「……それなら緊張するから言いだした美波がしてくれ」

「わ、わかった! やるから向いて?」

「おう」


 ――とにかく、終わったら俺の方から彼女を抱きしめる。

 今回ばかりはギュッとかなりの力を込めてやった。

 恥ずかしさとか、愛おしさとか、そういうのを伝えるための行為。


「痛いよ……」

「いいだろ、離したくないんだ」

「……逃げないよ私は」

「メンタルが少女並だからな、こうしてないと不安なんだよ」

「そっか、じゃあ抱きしめて返してあげる」

「おう、ありがとな」


 でもまあ、どんな形であれ求められるというのはいいことだ。

 だから大切にしようって、ずっとこのままでいたいって俺は願ったのだった。

本編はここで終わりかな。

うん、俺も美波がメインヒロインになるとは思わなかったんだ。


とかく、読んでくれてありがとう。

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