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18.『朝から贅沢に』

読む自己で。

「勝負だ、高柳中!」


 少し低い少女の声が教室に響いた。

 が、人は俺と鷹翔、美波くらいしかいないので被害は少ない。

 美波なんかは「あ、めぐちゃん!」と楽しそうなくらいだった。


「美波は渡さないぞ!」


 そうだったな、自分が美波を狙うなんて思ってもいなかったからスルーしていたが、加藤というライバルがいたのを忘れていたぞ……。


「加藤さんは勝負の内容を考えてあるの?」

「当然だろ? どっちが美波を赤くできるかどうかだ!」

「「あ、赤くできるかどうか?」」


 血祭り――というわけではないだろうし、照れさせられるかってことか。


「わたしからいかせてもらうぞ! 美波の右胸の下にはほくろがある! ちなみに右胸の方が左胸より若干大きいぞ!」

「あー……美波さん顔が凄く赤くなってるね」


 碓かにさっきまでの余裕はそこにはなかった。

 待て、俺が美波を照れさせることなんてできな――いや、できるかもしれない。

 俺は顔を赤くしてあわあわしている彼女の手を握ってから、


「美波は可愛いぞ、ライトノベルのキャラよりもずっとな」


 まっすぐに伝えておいた。

 が、赤くなるどころか美波は仏頂面になるだけだった。


「めぐちゃんの勝ちー」

「えぇ……」


 加藤が勝ちという判定を本人が下したのなら、俺はもう負けを認めるしかない。


「どうして中が負けなの?」

「……お、女の子の手を無許可で握るとか有りえないから……昨日だって私を襲おうとしたし……」

「なっ!? やはり糞野郎と言ったのは間違っていなかったようだな!」

「語弊がある……とは言えないんだよなあ……」


 普通に手を握るとかそんなんでも良かったんだ。それかもしくは普通に座らせてから抱きしめるでも良かったのに俺ときたら……。


「ふんっ、まあいい、なぜなら美波はもうわたしのものだからな」

「は? やらねえけど? 美波は俺のになる予定なんだよ」

「あぅあぅあぅ……!」「おおっ、中が積極的だ!」


 うわぁ、引くわぁ……なにが俺のになる予定だよ、物じゃねえんだよ……。

 こういう人間だからこそ負けたのだろう。ここは潔く認めようじゃないか。


「分かった、美波は加藤のだ。鷹翔、帰るぞ」

「えっ!? い、いいのっ?」

「ああ、だって美波が判定を下したんだから認めるしかないだろ? それよかファミレスにでも行こうぜ、たまには奢ってやるよ」

「え、ほんと!? 行くっ」


 ふたりで教室を出ようとして、でもできなかった。

 俺の襟首を美波が引っ張ってきたからだ。


「ぐぅぇっ!?」

「……私はそもそもめぐちゃんのでも最低野郎さんのでもないし、私は私のだし」

「ちくしょー!! 高柳中の馬鹿野郎ー!」

「えぇ!?」


 加藤は涙を流しながら走り去ってしまった。


「……ファミレス、私も行く」

「あいよ……」


 それから10分くらい歩いてファミレスにやって来た俺達は、まあドリンクバーは決まりとして、俺と鷹翔は生姜焼き定食、美波はドリアを頼んだ。で、運ばれてきたのを突っつきながら会話をし、楽しい時間を過ごして。


「……ごちそうさま」「ごちそうさま! ありがとね、中っ」

「おう。さて、もう帰るか」


 長居は迷惑をかけるので店を出て夜道を歩いていく。

 なんかフラフラしてんな美波のやつ。


「おい、危ないぞ美波」

「大丈夫ー……」

「ばっ! 危ねえって!」


 俺は電柱にぶつかりそうになった彼女を引っ張って強制的に回避させる。

 狙ったわけではないがその際、抱きしめる形になってしまい……。


「……は、離して」

「おう。……とにかく危ねえから、手は握っておくからな」

「う、うん……」

「はぁ……」


 あからさまに大きな溜め息をつかれて、ふたりで鷹翔を見ると、


「僕もいるんだからイチャイチャもほどほどにしてよね! このまま家にふたりで行かせたらキスまでしちゃいそうで怖い!」


 そんなことを言われてしまい顔が熱くなった。

 イチャイチャはしていないだろ? 危ないから手を握ってやっただけで。だって今日の昼だって手を繋いで寝ていたじゃないかって、どうして言えないのか。


「でもまあ、今日のところは家に帰るよ。邪魔はしないからおふたりでゆっくりしてねー!」

「お、おい! はぁ……帰る前に余計なことを言うなよ……」


 大体、ホイホイと泊まりを許すわけがないってのに! はぁ……。


「悪いな」

「……いいから家に行こ?」

「は? 泊まるのか? 親に怒られないか?」

「……家に帰ってもひとりだもん」

「は――分かった、行くか」

「うんっ」


 そこら辺は踏み込むべきじゃないから自分の感情を優先しておいた。

 あまり褒められた行為ではないが、彼女がいてくれると落ち着くからだ。

 家に着いたらソファに寝かしてやる。


「調子が悪いんだろ」

「……ちょっとね」

「水でも飲むか?」

「……手繋いで」

「あいよ」


 熱いな……熱が出ているのかもしれない。

 今日は色々と慌てさせてしまったからな、負担になってしまったんだろう。


「加藤がいないときに言うのはセコいけどさ、俺は美波の側にいるからな」

「……その割にはあっさり諦めて、乾くんとファミレスに行こうとした……」

「勝負だったからな、それに美波があっちを勝者にしたからさ」

「私の内側では中くんのほうが圧勝だったもん……」

「はは、そうかい、ありがとな」


 俺のは卑怯だ。物理的接触をした時点で負けたも同然なんだ。

 が、そこを加藤は咎めなかった。凄い女だ、加藤はよ。


「ね……今日はキスまでするつもりなの?」

「はっ!? で、できるわけないだろ、病人相手に……」

「だからこそしやすいでしょ? ……いつもの私はうるさいからさ」

「いや、いつもの美波が好――いつもどおりがいいんだよ」

「好き……なの?」

「そりゃ……調子悪くなんてなってほしくないだろ」


 そんなときに奪ったらそれこそ卑怯者じゃないだろうか。


「……しよ」

「……えと」

「……いいよ」


 彼女はそこで勝手にリモコンで電気を豆電球モードにしてから目を閉じた。

 数十秒経ってからも動けずにいると、片目を開けてこちらを見てくる。


「嫌なの?」

「そ、そんなわけないだろ……」

「……どうぞ」


 この時間を過ごすくらいならさっさとして気持ちを落ち着かせた方がマシだ。

 両肩を優しく掴んで彼女のそれに自分のを重ねると、自分のと違い柔らかくて少し驚いた。慌てて離そうとすると頭を抱かれてそれは叶わず。


「ま、待て待て!」

「ん…………あはは、これで中くんは私のもの……」

「お、おい? はぁ……」


 仕方ないので部屋にお姫様抱っこで運んで、ベッドに寝転がす。

 布団もきちんとかけてやって、数冊のラノベを持ち部屋をあとにした。

 客室の布団に寝かせなかったのは単純なエゴだ。


「なんかリビングにいるのお決まりになってきたなあ」


 こういうときに鷹翔がいてくれたら暇はなくせるんだが。

 とりあえずラノベをパラパラと流し読みをしていく、が、


「うぉっ、き、キスシーン……」


 メインヒロインが背伸びをして主人公に勢いでキスをするシーンの挿絵。

 次のページになればヒロインと主人公のやり取りが読める。

 どちらも余裕がなくて、慌てて、でも黙ることもできなくて。

 したら寝てしまった美波とは違う。やはり現実と創作は違うようだ。


「まさか……向こうからされるとは思わなかったが……」


 だけど本当に弱っているときで良かった。

 健常のときだったら気まずくなりつつも意識して、またやりかねないし。


「つか、俺らの関係ってどうなったんだ?」


 普通は付き合い始めてからする行為だろ? んーまあ、体調が治ったら聞けばいい。そのためには俺も体調を整えておかないといけないだろう。


「寝よう」


 別にもう非モテじゃねえしドキドキして寝られないなんてそんなことない。

 ――と、考えたら駄目だということを学ばない男、16歳。

 そのまま寝られず、今日も朝がやってきてカーテンの隙間から俺を照らしてくれる。諦めて体を起こして、自分の部屋に行くことにした。


「はよー」

「すー……すー……」

「美波、起きろ」


 肩を触るくらいちょっとドキドキするしかしない。

 全然大丈夫、なぜだか手に力が入って揺する力が強いけれども。


「……んあ……? うん……え」

「昨日あの後に運んだんだよ」

「……じゃなくてっ、き、キスぅ!?」

「朝からしてないぞ? 体調は大丈夫か?」

「うーん……体調は微妙なんだよね……」

「心配だな……なにができるってわけじゃないが休んでやるよ俺も」


 随分過保護になったもんだ。

 これはもう彼氏面をしていると指摘されてもNOと言えない感じだろう。


「え、いいよっ、1回家に帰らなくちゃいけないし」

「駄目だ、放っておけるわけないだろ」

「中くん……」

「……か、彼女の心配をするのは、おかしくないだろ?


 言っちまったあ!

 ……さて、美波の顔がまた仏頂面にならないことを願うのみだ。


「ばっ……ばか……」


 結果は真逆の反応だった。

 腕で顔半分を隠そうとしているが、こちらからは真っ赤なそれがよく分かった。

 寧ろ隠そうとすればするほど見えるのだから、可哀想なくらいである。


「え、い、いいのか?」


 本当に嫌なら「有りえないんですけど」で終わる話題だろう。

 だが、ここまで照れているなら、くれているのなら自惚れてもいいはず。


「はぁっ? き、キスまでさせたんだよ? だめなわけないじゃん!」

「そうか、ありがとな」

「……うん。……あ、でもさ、学校には行くよ?」

「大丈夫なのか?」

「大丈夫っ」


 なにを無根拠にとは思いつつも、本人が行きたいならと割り切って行動開始。

 家に帰りたいというので荷物を持ってやって行こうとしたのだが、


「お、お風呂入りたい……秋だけど入らずには行くのは嫌だよ」

「……んー、別にいい匂いだぞ?」

「だめだから! 余計にだめだから……」


 と言っても、昨日の夜に俺も入ってないから溜めてないんだ湯を。

 最近こういうこと増えてないか? たるんでるんじゃないのか?

 ただまあいまは早く溜めて、美波を風呂に入れてやりたい。

 父には申し訳ないがちょっとの遅刻は大目に見てほしかった。


「……やっぱりお風呂入った後にゆっくりしちゃだめ?」

「体調が悪いのか?」

「じゃなくて……恋人初日なんだから……」

「あー……それじゃあ連絡しておくか」

「私も先生に連絡する」


 一応俺は2階に移動し先生に連絡をして。

 戻ってきたときには美波も終えた後のようだった。


「お風呂、あ」

「ん?」

「一緒に入ろ、恋人同士なんだからおかしくない、ない……」

「……じゃあタオルでも巻いてくれよ、そうしないと無理だ」

「お、おぅ……」


 先に洗面所で脱いでもらって、後から俺も入る。


「あ、あはは……は、恥ずかしいぃ……」

「やめるか?」

「ううんっ、こっちのほうが効率いいもん」

「分かったよ。あ、先に洗えよ」

「うん」


 で、彼女が洗って湯船につかったら俺も洗う、と。


「い、いきなりこんなこといいのかな?」

「はぁ? 美波が言ったんだぞ? それにどっちも隠してあるから大丈夫だろ」

「だ、だよね」


 湯船にゆっくりとつかったら、俺達を沈黙が包んだ。

 ぴちょん、とどちらからか落ちた水滴の音が響き、ふたりでビクッと反応して。


「や、やっぱだめだよねー」

「ああ……駄目だなこれは」


 初日に焦りすぎだ。

 大体、俺らはまだ好きだと伝え合ってない。

 とはいえ、このままの流れで告白というのも、なんともおかしい気がする。


「で、出るよ!」

「そ、そんな慌てなくても大丈夫だぞ?」

「で、でも恥ずかしくて――きゃっ!?」

「あ、危ねえ!」


 ……支えるといつもよりダイレクトに柔らかさが伝わってきた。

 あとめちゃくちゃ顔と顔の距離が近くて、目を逸らしながらじゃないと「大丈夫か」とすら言えなくて。


「……ゆっくりでいいんだ、ほら」

「あ、ありがと!」


 普通に立たせたら後は自力で出てもらう。

 湯船から出た後はすぐに浴室から彼女は消えた。


「なにをやっているんだか」


 童貞だけど童貞野郎じゃあるまいし触れただけでドキドキすんなよ俺の心。

 こういう下品な反応ばかり見せていたら愛想を尽かされるぞ。

 それから5分くらいして「リビングに行ってるね」と美波が声をかけてくれたため、俺も湯船、浴室から出て適当に拭き服を着る。


「だらしねえ顔……」


 鏡を見て辟易とした。

 ずっと誰にも好かれたことがなかったから、好かれて調子に乗っているんだ。

 せっかく彼女になってくれたんだから、1秒でも長く関係を続けたい。

 こちらから手を出すということはほぼしていないが、俺にできるだろうか。

 ――リビングに戻るとソファに彼女が寝転んでいた。

 顔が赤くて心配になる。が、こちらに気づいた彼女は弱々しい笑みを浮かべる。


「大丈夫か?」

「……ぅん……ちょっとだめかも……」

「俺の部屋で寝るか?」

「寝る……」


 昨日みたいに移送してベッドの上に寝転がせた。


「俺はどうすればいい?」

「一緒に寝たい……お風呂より健全でしょ?」

「ま、いいか、徹夜だったしな今日も」

「うん、寝よ?」

「おう、おやすみ」

「おやすみ」


 そうして俺達は朝から朝寝をしたのだった。

輸送は間違いで、移送が正しかったのか。

今度からは気をつけよう。


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