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17.『へえ、そっか』

読む自己で。

「えと……下に行かないのか?」

「うん、まだ本を読んでるしね」


 俺は内心で溜め息をついた。

 現在時刻は23時を越えているというのに全然戻ろうとしない。

 徹夜したせいか22時を越えたくらいにはもう眠くなってしまうようになっていたため、正直に言えば戻ってほしいのだが……明日も学校があるし。


「美波、寝たいんだけど」

「寝ていいよ? 出ていくときに電気を消すから」


 そういう問題じゃないんだよなあ……。

 ……もうここは勢いで言ってしまおう。


「それとも、一緒に寝るか?」

「うん、それでもいいよ?」


 これは読書に夢中で分かっていないだけだ。

 そもそも俺のベッドに寝転んでいる時点でやばさが理解できていないが。

 このまま抱きしめたりしたら戻ってくれるだろうか。

 もしそれで嫌われてしまっても、再発防止になると思えば大丈夫なはず。

 ――というわけで体重をあまりかけないようにして覆いかぶさってみた。


「なっ!? な、な……なにしてるの!」

「い、言ったろっ? そんなことをされてたら間違いを犯すからって!」


 勿論、俺の方が恥ずかしかったし犯罪臭かったのですぐに離れた。

 具体的に言えば部屋の入口近くまで移動し、ワナワナと震えている美波を見ていた。……さっきの俺は女子を見るとすぐに興奮するエロガキみたいなものだったよなと後悔。 


「悪かった……でもさ、俺ももう寝たいんだよ。……美波がいたら寝られないんだよ」

「え、あ、寝たかったの? だったら早く言ってよー」

「……一緒に寝るかって言ったら『いいよ』って言ってたぞ」

「そ、そんなべつの世界の私の言葉を参考にされても……」


 あ、こいつ! 全部しっかり聞いたうえで返事をしていたということか。


「あのさ、もしかして……期待してた、か?」

「な、なわけないじゃん! 自意識過剰すぎ!」

「だ、だよな!」

「……いや」

「……とにかく寝ろよ」

「でも、さっきトイレに行ったときに確認しに行ったら、乾くんが部屋でぐーぐー寝てたから……」


 鷹翔らしいと言えるが、いまは全然嬉しくない。

 ただ、鷹翔の横で寝られるくらいだったら……こっちの方がいいな。

 って、ナチュラルにこういう思考になったことが気持ち悪い。

 美波は別に俺の彼女ってわけじゃねえのに……。


「ベッドは貸してやるから早く寝ろ」

「え?」

「俺が床で寝るから美波はそのまま寝ればいい」

「う、うん……ありがと」


 毛布を3枚くらいかけておけば風邪も引かないだろう。

 強制的に電気を消して床に寝転んだ。


「ほんとにいいの?」

「ああ、変に遠慮されて美波に風邪を引かれるくらいならこれが最善だ」

「……おやすみ」

「おう、おやすみ」


 まだ完全に冬ってわけじゃないし大丈夫だ。

 さっさと寝よう――数十分くらい努力としていたのだが。


「美波は寝てるな……」


 毛布を持ったまま静かに部屋をあとにして、リビングにソファに寝転ぶ。


「異性と同じ部屋で寝られるわけないだろ……」


 ラノベも持ってくれば良かったと後悔したが、こうして逃げられただけでも十分というものだ。


「鷹翔と寝るのも昔は――」

「昔は?」


 最近は質の悪さが増しているような気がする。

 というかなんのために嘘をついていたのだろうか。

 俺の心を破壊したかったのなら、その目論見ははずれたわけだが。


「寝てたんじゃないのか?」

「そうだけど、下りてきた音が聞こえたから。酷いよね、美波さんの相手ばっかりしてさ」

「美波が居座っていたからな、俺はすぐに寝たかったぐらいだぞ」

「座ってよ、僕も座りたい」

「了解」


 俺が体を起こすと横にすぐ鷹翔は腰掛ける。


「中」

「ん?」

「ちょっと手、見せて」

「はいよ」

「ありがと」


 俺の手を見て時間つぶしができ――なるほど……そういうことか。


「一応言っておくと、応えることはできないぞ?」

「分かってるよ。だからせめてってこと」

「いつからだ?」

「うーん、中学2年生くらいかな。別の男子に絡まれたとき助けてくれたときからかな。中は一方通行みたいなこど言ってたけど、僕は十分中に支えてもらっていたから」

「なるほどな。ふーん、ま、嬉しいな。マジで助けられてたからな鷹翔には」


 あれがなければ大袈裟でもなんでもなく不登校になっていた。

 鷹翔に支えられてもなお、いまもこれだけ弱いわけだしな。


「……気持ち悪いとか思わないの?」

「思わねえけど?」

「……拒絶してよ」

「ま、家だからな、問題ねえだろ」


 流石に堂々と人前でできるようなメンタルはしていないが、これで鷹翔が満足できるというのなら構わない。

 

「言っておくけど、中は残酷なことをしているんだよ?」

「自分からしてきたのにか?」

「うっ……うん」

「じゃあやめたらいいだろ?」

「酷いよ……」

「はははっ、だったら言うな」


 どんな形であれ人に好かれるって嬉しいもんだな。

 ただま、あまりにも壁が大きすぎたな。

 なんなんだろうなこの差は。


「ぐっ……うぅ……」


 それから1時間くらいはそのままだった。

 俺は横を向くでも、目を閉じてやり過ごすでもなく、ただ前だけを向いて。

 嗚咽をもらす彼になにかを言うこともせず、黙ってそのままで。


「……ご、ごめん……学校だよね今日も」

「そうだな」

「中、……親友ではいてほしい」

「当たり前だろ」

「ありがとっ……も、もう寝るね!」

「ああ、おやすみ」

「うん……」


 ただ、好かれるってのもいいことばかりではないと学んだ。

 だってめちゃくちゃ苦しいんだ。

 自分の選択によって相手を泣かせるってのは。

 俺がモテまくりじゃなくて心底良かったと思う。


「はぁ……寝よ」


 ――勿論、メンタルクソ雑魚野郎が寝られるわけもなく。

 チュンチュンと鳥の鳴き声が響く中、だらだらと学校に向かうことになった。




「はぁ……」


 昼休み。

 俺はあからさまに溜め息をついた。

 理由は単純にまた寝られなくなってしまったからだ。

 ただ、昨日のあれは悪いことばかりではなかったと思う。

 俺は決めた、どんな結果が待っているかは分からないが美波に集中すると。

 

「中……」

「鷹翔、ちょっと屋上に行かないか?」

「ど、どうして?」

「一緒に昼寝しようぜ。昨日、あ、今日か、寝られなかったんだよ」

「うん……」


 屋上へ移動し、着いたら中央にごろりと寝転がる。


「はぁ、陽が気持ちいいなあ」

「なにそれ」

「やっと笑ったな」

「そんなに辛気臭い顔をしてた?」

「ああ、それはもう、な」


 鷹翔も寝転がったタイミングで美波の急襲。


「こらあああ!」

「うるさい……寝るから少し静かにしてくれ」

「いや……そうじゃなくて、どうして乾くんは中くんの手を握ってるの?」 

「スキンシップだ、なあ?」

「そ、そうだよ!」

「あ、ふぅん、抜け駆けじゃん」


 抜け駆けって……あ、まあ間違ってはいないのか?

 もっとも俺は、


「俺、美波って決めたからよろしくな」


 もう決めたことだ。

 同情で鷹翔と付き合ったりなんかはできない。

 苦しい思いをさせるだけだろうしな。


「は……?」

「美波さんを好きになるってことだよ、良かったね」

「……そっか、へえ、そっかっ!」


 本当によく分からない結果になったもんだよなあ。

 鷹翔が俺を好きになったり、俺が1番仲が悪い、相性が合わないと思っていた浜野――美波を好きになるって決めたり。それでも嫌というわけじゃない。誰かに好かれたり、誰かを好くために行動するとか、いいことだから。


「そこまでニマニマされると嬉しいけどな」

「はぁ!? ニマニマなんてしてませんけどね!」

「めちゃくちゃしてるよな?」

「うん、してるっ」

「う、うるさい! というか片方の手は私がもらうからね!」

「怖いな……俺の手は美波の物になるのか」

「そうだよ! 当たり前じゃん!」


 わーわーはしゃいでいると屋上に初先輩も現れた。

 俺と鷹翔を見て驚いていたようだったが、美波と手を繋いでいるのを見て微笑みを浮かべる。


「やっと決めたのだな、中よ」

「おう」

「それじゃあ最後に言わせてくれ。私も中のことが好きだったぞ」

「はは、ありがとな」

「ああ、聞いてくれて感謝するぞ」

「おう」


 流石、俺より1年早く生まれてきた人だ。

 余裕がある、俺も初先輩みたいな人間になりたい。

 少なくとも表では平気でいるみたいに振る舞いたい。


「それで美波とキスぐらいはしたのだろうな?」

「ぶっ!? してるわけないだろっ!?」


 即落ち2コマじゃねえかよこれじゃ……。

「はぁ!? なぜしないのだ!」と先輩は怒り、転んでいる俺の腹を踏んでくる。

 勿論、優しくではあったが、特殊なプレイをしているようで複雑な気分になってくるのでやめてもらいたいものだ。ちなみに口撃――質問には「いや、まだ確証をもって好きだとは言えないし」と答えておいた。


「はぁ……中がヘタレだとは分かっていたがここまでとは……」

「いや、流石にホイホイ決められないだろ」


 手を繋ぐだけでドキドキしてるんだぞ、こちらからはまともに抱きしめられてないんだぞ。キスなんかできるわけがない。それに、美波の気持ちはまだ聞けていないからな。……一応、それとなく想像はできるが。


「……というか、どうして鷹翔と手を繋いでいるのだ?」

「スキンシップだよ、ねえ?」

「そうだな」

「ふむ、そういう関係かと思ったのだが違うか、誤解してすまなかったな」

「「あ、あんまり誤解じゃないなあ……」」


 もし俺らの性別が違ったら、俺も鷹翔をそういう目で見るやつだったら。

 そうしたら本当になったが、そんなことを想像したところで意味はない。

 いまこの現実が紛れもなく俺の人生なんだから。いくら願ったところで変わらないし、俺はもう美波を見るって決めたんだ。

 だからスキンシップをしたところで鷹翔は傷つくだけだ、できることならやめた方がいい。ただまあ……それでもと言うのなら拒みはしないけどな。


「寝るなよ美波」

「……んー……だって気持ちいいんだもん……」

「寝かせておいてやれ中。さて、私も寝るかな……」

「そうだな、まだ時間あるしな」


 この決断が誤りとなり、俺達全員が5時間目の授業に遅刻したのだった。

もう9万になるのか。

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