16.『同じで非モテ』(美波
読む自己で。
午前中の授業を終えてお昼休みに突入したのはいいんだけど……。
どうしよう! 高柳くんに会いに行くべきなの!? と悩んでいた。
彼に言ったように恵美ちゃんは他の子と関わるようになってしまったので、相談することもできない。
だからああだこうだ考えて結局、5分くらい動けないでいた。
「美波さん、ちょっといい?」
そしたらなぜか鷹翔くんが現れて、私は了承し彼に着いて行くことにしたわけだったのだが……残念ながら彼らの教室が目的地ではなかったようでがっかりした。
かわりに選ばれたのは屋上だった。昨日ぶりなので新鮮な感じはしないし、それどころか寂しさを感じるような場所だ。
「もうちょっとで11月だね」
「そうだね」
こうしてふたりきりになるのはすごい久しぶりなことだ。
私は鉄柵によりかかり鷹翔くんが話し始めるのを待つ。
「ねえ鷹翔くん、キミは私が好きなの?」
「え? はははっ、誰がそんなことを言ったの?」
「えと、高柳くんが」
彼は「中らしいね」と口にし笑みを浮かべた。
無理しているようにも、困ったような顔にも見えなかった。
「ごめん、は正しくないよね? だって美波さんは中のことが好きなんでしょ?」
どうして私は即答できなかったんだろうか。
碓かに高柳くんが言うように、現在のところ鷹翔くんはフリーな感じに見える。
そして実際に私は鷹翔くんのことが気になっていた。
だから彼が初ちゃんと向き合うと口にしたとき、悔しくて高柳くんに電話をかけて、こちらが勝手に怒って、こちらが泣いて、高柳くんに切られて。
その日の遅くまで考えて出た答えは、敵わないなら諦めるしかないということだった。
べつにそれで高柳くんに近づいたわけではない。
でも、恵美ちゃんはべつの子といるし、他に頼れる子がいなかったから高柳くんを頼ったという形になる。
私はとことん自分勝手だったし、お前とか馬鹿とか言われていたから断れると思ったのに、普通に泊めてくれて、優しくしてくれて、朝にお味噌汁だけだったけど美味しいのを用意してくれて。
合鍵とかもバカみたいに渡しちゃうし、持ってていいとか言っちゃうし、いつでも来ていいとか……簡単に口にしちゃうし。
だけどだからこそかな、寝られていないこととか、体調が悪いこととか、そういうのを言ってくれなくて悔しかった……悲しかった。
「美波さん」
「あっ……もう、急におかしなこと言うから驚いたよ」
「君のもだいぶ急だけどね」と今度こそ鷹翔くんは複雑そうな笑みを浮かべた。
「で、どうなの? 中のこと好き?」
「友達としては好きだよ?」
「そういうのが聞きたいんじゃないんだよ。だったらメッセージアプリとかいくらでもやりようがあるでしょ?」
「べつにそういうのもアプリで聞くの普通だと思うけど」
「いいから、教えてよ。僕は口が堅い方だと思っているし、絶対に言わないよ?」
好きなのかどうかわからないんだ。
ただ、頭を撫でられたときは、頭がぼうっとして熱くて恥ずかしくて仕方がなかった。初めて異性に撫でられたから、というだけでは絶対ない。そもそも信用していなかったら撫でさせもしないし。
だからやめられたときは急激に寂しくなったし、彼のちょっとぎこちないながらも優しい手つきで撫でてくれないかなって望んだものだ。
ま、彼の中には私=鷹翔くんが好きという印象ができあがっているので、全然いいムードとかにはもっていけなかった。
私が何回も鷹翔くんへの気持ちはないって言っているのに……信じてもらえないって辛いなぁって……。
「め、メリットはっ?」
あ、いつの間にか彼みたいな考え方になってる……。
「はははっ、中みたいだね!」と鷹翔くんにも笑われて、かあと顔が熱くなった。
「そうだね、メリットは中と美波さんを応援できることかな。デメリットはまあそれはいちいち言わなくていいでしょ?」
「で、デメリットは?」
「んー、じゃあ正直に言うけど、中を取られたくないんだ」
それはもうすごい真面目な顔。
基本的に笑みを浮かべている子なので、ギャップがすごくて閉口するしかできない。
「って、デメリットと言うよりも僕の願望かこれは。はははっ、そんな顔しないでよ、中の1番でいたいと思うのはおかしいことかな? まあ中にとっての1番はお父さんだろうけど、2番ではいたいんだよ。そして実際に高校1年生の今月までそうであれたと思うんだ僕。だけど初さんや君が現れて変わった……ま、親友としては嬉しい変化なんだけどね」
以前から怪しいと疑ったことがあるけど、これはもう本当に好意を抱いているのだと断言できる。いや、するしかないだろう。
「高柳くんが好きなんだ」
彼はたっぷりと間を作ったあと、静かにゆっくりと頷いた。
気持ち悪いとかそういうのは一切感じなかった。高柳くんも信頼していたわけだし、頼って頼られてを続けていけばそういうことも起こり得るのかなぐらい。
が、それと同時に負けたくないという気持ちが出てきて、そして私は高柳くんへの気持ちに気づく。いや、気づいていたのに見ないフリをしていただけだ。
「私は中くんが好きだよ。小早川先輩にも乾くんにも負けるつもりはない!」
ライバルなんだし名字呼びが妥当だろう。
「……良かった! 僕がこの気持ちをぶつけたら関係が終わっちゃうからね……そんなの耐えられない、それだったら誰かが中をとってくれた方が嬉しいから」
「いやいや、真剣に戦おうよ!」
「酷なことを言うね……」
「ライバルに勝って中くんを手に入れたいんだよ!」
「はははっ、負けるつもりがないんじゃん」
当たり前だ、好きだと自覚したからには負けたくなんかない。
負ける前提で挑んでいたら絶対に手に入ることはないだろう。
ま、まあ、中くんは物じゃないんだけど……細かいことは置いておいて。
「それでも気持ちはぶつけないけどね。だって気持ち悪がられるでしょ……」
「そんなことないんじゃない? 中くんならそんな対応はしないと思うよ」
「あちゃあ……いつの間にか中理解度が負けちゃってるのかな?」
「そんなことないって! いいから戻ろ! 私たちが行ってあげないと中くんひとりになっちゃう」
「そうだね、戻ろっか」
階段を下りつつはぁと内心で溜め息をついた。
ライバルが多すぎる、ほんとに勝てるかなあ。
「美波ちゃーん、一緒に帰――」
「ごめん! 今日も無理ー!」
放課後になった瞬間に私は教室を飛び出した。
1秒も無駄にできない、これは中くんの寂しさを解消してあげられることでもあるんだから、欲望だけではないはずだ。
そしてクラスに行くと、乾くんと出てこようとしているところで、私を見つけた彼が「よ」と声をあげる。私も「よ」と返しておいた。
「中くん!」
「ん?」
「えへへっ、なんでもないよー」
「なんだそりゃ……」
学校から出て、あの別れ道に着いても別れる気は起きない。
彼も「帰らないのか?」なんて無粋なことは聞いてこなかった。
「あれ、美波さん帰らないのー?」
……ニヤニヤした感じが複雑だけど、「うん、中くんの家に行くから」と冷静に対応。勝負するって言ったのは自分だ、これはなんらおかしなことではない。
案の定、乾くんも家に帰らずに中くんの家まで着いてきた。後ろで待っている私たちを見て複雑そうな表情を浮かべていたが、中くんは鍵を開けて私たちを入れてくれた。
「はぁ、この家に来て面白いか?」
「「うん!」」
「そうか、俺は未だに寂しいところだと思っているけどな」
私もひとりでここに住んでいたら似たような気持ちになると思う。
自分以外に誰もいない家なんて寂しいよ。家に帰ったら誰かが迎えてくれたり、誰かが一緒にいてくれるから嬉しいのに。
「中、僕が住んであげよっか?」
越された!?
「鷹翔がか? はは、それも面白いかもな」
「でしょ! じゃあ早速今日から――」
「ダメだよそんなの! 私が住んであげるから満足して!」
「「いや、それこそ駄目だろ」」
「な……」
くっ、付き合いの長さが違うだけで拒まれるのか……。
「美波は女の子だから自分を大切にしろ」
「べ、べつに襲えなんて言ってないでしょ!」
「あーまあ……泊まりならいいからさ」
「それって同じ意味じゃん。私、中くんが作ってくれるごはんが食べたいの」
「って、味噌汁ぐらいしか作らないぞ?」
「ダメだよそんなの! 私のために頑張ってよ!」
さっきから痛い発言をしているような気がする。けど、もう自覚したんだから一生懸命になるだけ。悔やんだり恥ずかしがるのは終わってからでいい。終わっちゃ困るけど、彼に選ばれてからにすればいいだろう。
「鷹翔くんもいればいいでしょ?」
「うーん、そうかもな」
はい? どうして乾くんもいればいいんですかね……。
本当のところは相思相愛なんじゃないのかな。意外と中くんが受けだったりしてね――なんてことはどうでもいい!
「そうすれば鷹翔と向き合えるもんな美波が」
「「はぁ……」」
「た、溜め息をつくなよ……」
「でも、ねえ?」
「うん、ねえ?」
訝しげな眼差しでこちらを貫く。ついでに「相思相愛なんだろ」とか訳のわからないことも言いだした。
もうあのお昼のやり取りをいっそのこと彼に見てもらいたかった。でも、見ていなくて良かったとも思うし、正直複雑なところではある。
だって恥ずかしいじゃないか。あとから感じればいいで片付けられる問題じゃない。好きだって自覚して、中くんにもそれが気づかれてたらうまくいかなくなる、
「まあいいや。ゆっくりしようぜ」
「ね、部屋に行きたい」
「俺の部屋にか? ラノベくらいしかないぞ?」
「いいよ、行きたい」
「まあいいけどさ。鷹翔はどうする?」
「このソファでゆっくりしてるよ。美波さん」
ウインクをされてしまった。優しさなんだろうけど余裕がむかついたので、ぷいと顔を背けておいた。
「ま、こんな部屋だよ。女子的に見れば気持ち悪い、のか?」
「べつに問題ないでしょ。えっちな本が本棚に堂々と置かれていたらちょっと引くけど」
彼の部屋に入れたということと、本が多いなくらいにしか感じていなかった。
「あ、そういえばさ、読んでいる本のメインヒロインが美波に似てるんだよな」
「え、か、可愛い子?」
「ああ、作中で1番可愛いんじゃないか? 個人的にはだけ――顔が赤いぞ?」
「ばっ――み、見ないで……」
今度は彼から顔を背ける。
自分がなにを言っているのかわかっているのかな、と内側は大暴れ。
それに創作作品の女の子は基本的に可愛いどころか可愛すぎるくらいだ。
しかもモブではなくメインヒロイン級とか……ああもう!
「どうしたんだよ、いいから座れよ」
よくこんなので乾くんが鈍感とか言えたものだ。
自分なんて鈍感及び天然じゃないか!
「とはいっても、特にやることないよな」
「……そうだ、頭を撫でてほしい」
「いいのか?」
頷くと自分よりは大きい手が頭に乗っけられる。
優しく上下にナデナデされていると……顔がもっと熱くなるんだけどやめてほしくない。続けてほしい。甘えたい。
「中くん……抱きついてもいい?」
「いやそれは……というか、名前呼びにしたんだな」
「うん、心機一転ってことで」
「またなにかあったのか?」
「……手が止まってるよ」
「悪い」
牛歩っていうか、このままではずっとこのもやもやする距離感で終わりそう。
だから、ときには勢いも大切なのでは? うん、絶対にそう!
「中くんっ」
「おいっ!?」
がばっ、ぎゅー、それはもう全力で抱きついた。
それから耳元で「……ちょっと抱きつきたい気分だから……だめ?」甘く囁いてみる。
「……不意打ちだけはやめてくれ、間違いを犯しそうになるからな」
間違い……中くんのほうから抱きしめたりとかしてくれるのかな?
「寂しがり屋なのか?」
「うん、そうかも」
「はは、俺と一緒だな」
うーん、慌ててたのは最初だけか。
非モテとか言う割には頭を撫でるのもなんか慣れてる感じがするし……。
「ね、ほんとに女の子と縁がなかったの?」
「当たり前だろ? ずっと鷹翔とだけいたよ。つか、初めて自分で動いて友達を作ろうと頑張ったのに、美波が『やだ」って即答してくれたんだろ……」
「あ! あはは……あれ? でもなんで頑張ろうと思ってくれたの?」
「いや、いつも誰かのおかげで他人といられていたからな。俺の力で美波の友達になりたかったんだよ」
彼は「まあ話しかけてきてくれたからだけどな」とか言っている。
私はあのときの自分をナイス! と褒めてあげたい気分だった。
「ま、それからはなんか俺にだけ当たりが強かったけどさ、まあ……それがいまに繋がっていたと考えたらマイナスなことばかりじゃないけどな」
「え、え?」
「だからさ、そういう衝突がなかったら俺らはこうして一緒にいることもなかったわけだろ? ……それは嫌だから」
「嫌……私といれないと嫌?」
「ま、まあな……」
恥ずかしすぎて離れたいのに、まるでくっついたかのように動けなくて。
「は、恥ずかしいな……こんなの女の子に言ったの初めてだからさ」
「あ……ありがと」
「おう……」
……やっぱり私と同じで非モテなようだ。
でも、それならふたりで初めてを体験していけばいいわけで。
……痛い子だなあと彼の温かさを味わいつつ、内心で呟いたのだった。
もう8万文字だ。




