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15.『怖くて無理だ』

読む自己で。

 夜。

 なぜかみんなが泊まることになって、美波と初先輩が寝た後のこと。


「中、これ続きないの?」

「あるぞ、ほら」

「ありがとっ」


 俺と鷹翔は部屋でライトノベルを読んでいた。

 凄く久しぶりに感じる。鷹翔とこうして読むのも、ライトノベルを読むのも。


「あのさ……」

「ん?」


 本を受け取ったというのに開こうとせず、こちらを複雑そうな顔で見ている。

 そんなに心配しなくてもその作品は面白いぞ、そう言おうとしたときだった。


「中って優しすぎるよね」

「急だな」

「だってあんなことしたのに、また友達になってくれるとかさ」

「そんなこと言ったら鷹翔は支えてきてくれただろ? 母さんが出ていった後は本当に参ってたからさ。優しいのは鷹翔だろ」


 俺が可愛い女の子ならともかく、俺はそこら辺にいる普通の男だ。

 なかなかできることじゃない。俺だったら多分できていなかったからそう思う。


「んー、そうじゃなくて……だって僕を責めなかったでしょ?」

「鷹翔の言うとおりだったからな」

「……もやもやする」

「責めてほしいのか? でも、するつもりはないからな」

「うぅ……」


 友達に戻ってくれた時点でチャラというものだ。この点は初先輩にも当てはまることで責めるつもりもないため、鷹翔にだけなんてするわけにもいかない。

 というか、俺は既に責めてしまっているのだ。ひとりででしゃばって恥ずかしい思いをしたけれども、それが該当しているわけで。


「中……」

「M属性かよ……」

「怒られないことの方が辛いんだよ……それも自分勝手だけど」


 一応分かるような気がするので鷹翔の額を突っついておいた。


「ほい、これで終わりな」

「馬鹿中……」


 なんか雰囲気が危うくなり始めてきているため無理やり部屋を出て、1階に移動しリビングのソファに座る。

 友達に戻れたのはいいが、自惚れでもなんでもなく鷹翔のこちらを見る目が少し変化してしまったような感じがして落ち着かない。


「……まだ起きていたのか? 夜ふかしは良くないぞ中よ」

「そっちこそ起きていたのか」

「ずっと美波に付き合っていてさっき寝始めたところだったのだが……寝られなくてな」

「無理矢理にでもちゃんと寝た方がいいぞ。徹夜はきついからな」


 横いいかと聞いてきたので頷くと、初先輩は静かに座った。

 完全にふたりだけの状況というわけではないが、こうして先輩とゆっくりふたりきりでいるのも久しぶりな気がして、新鮮な感じが強かった。


「美波から聞いたぞ」

「あ、寝られなかったことか? 大したことなかったけどな」

「強がるな馬鹿」

「最近はよく言われるよ」


 先輩がいてくれれば静先輩も落ち着けるだろうか。と、考えればこの状況はありがたいことにも思える。


「初先輩、月曜日の放課後に付き合ってくれないか? 静先輩に謝りたいんだけどふたりきりでは無理だと言われてな」

「ああ、大丈夫だぞ。シズは私のところにも来なくてな、心配だったわけだし丁度いい」

「ありがとな」


 そこで会話が止まってしまった。

 やはりというかまだ少しの気まずさがある。とはいえ、それは向こうの方が強いのかもしれないが。


「た、鷹翔のやつはどうしたのだ?」

「部屋でゆっくりしているだろうな。寝てるかもしれないけど」


 どうやら先輩の相棒である美波はぐーぐー寝ているらしい。

 男の家だというのによく寝られるもんだよな。まあ、初めてじゃないから普通のことなのかもしれないけども。


「中、少し頭を撫でてくれないか?」

「俺がか? まあ……」


 亜麻色の髪に触れ、優しく上から下へ撫でていく。

 こうして異性の頭を撫でるのは初めてな気がする。美波にしたのは1回触れたくらいだけだし、それに先輩のやつに触れるなんて思ってもいなかったから内心は大暴れだった。恋愛とかに積極的ではないとはいえ、俺は非モテの童貞16歳だからな……。


「ん……気持ちいいぞ」

「や、やめてくれよ……」


 ただ、よく分からないが美波への罪悪感を抱いていることに気づく。

 俺の中ではすっかり彼女の存在が大きくなっていたらしい。


「もうやめるぞっ」

「な、なぜだ?」

「なんか……美波に申し訳ない気持ちになるんだ」


 味方をしてくれたからか? 単純すぎる、手前が1番雑に扱っていたというのに最低野郎だろう。


「……ん、中は美波のことが好きなのか?」

「いや、たまたま申し訳ない気持ちになっただけで、異性として好きとはまだ言えないな」

「そうか……」

「おう」


 問題なのは向こうがどうか分からないことだろう。

 仮に俺が好きだと自覚したとして、勢いで告白――そして玉砕、という流れになる可能性は高い。もしそうなったら今回の件ほどではないにしろ、俺は寝られなくなるかもしれない――そういうリスクを考えたら告白しないという選択肢も選ぶべきなのかもしれない、と。……まあ好きになったら話ではあるが。


「中よ、もし好きになったら一生懸命になるのだぞ」

「でもさ、ひとりで盛り上がって、告白して振られるって考えたら怖くないか?」

「だからって素直になれないのは勿体ないことだ。無駄なことは決してないぞ」

「まあ俺もそう思うけどさ」


 ぶつかり合うことで深まる関係というのもあるって分かったわけだし、全て非情に無駄だと切り捨てるような人間はない。

 でも、情けないけど恐怖を抱く自分もいるんだ。自分の選択で壊してしまうくらいなら現状維持でいいと妥協してしまう自分がな。

 俺がもっと陽キャとかだったら「うえーい」と告白して振られて、だけど明るくいられたとは思う。が、残念ながら俺は陰キャラなのだ。


「はは、難しい顔をしているな。んー……はぁ、そろそろ寝る」

「おう、おやすみ」

「中、美波にも同じことをしてやればいい。そうすれば気付けるだろう、きっと」

「そういうもんか? ま、求めてきたらやるよ」

「ああ、おやすみ」


 最近は甘えムードになるときがあるのでないとは断言できない。

 ただまあ鷹翔が先輩のことを好きではないと分かっ――いやこれも偽りなのかもしれないが……少なくとも美波にとっては朗報と言えるだろう。

 好きって気持ちを簡単に捨てられるわけがない。女子なら尚更のことだ。


「とりゃあ!」

「は……ハイテンションだな美波」


 彼女はこちらに聞くこともなく勝手にソファに腰掛けてくる。

「うん、ちょっと寝たからね」と言う彼女は碓かにスッキリしているようだった。


「高柳くん、頭を撫でてー」


 俺と一緒でシンプルな黒色の髪に触れると、自分から言ったくせにビクッと彼女は体を震わせた。


「なあ美波、鷹翔が初先輩のことを好きじゃないって分かったんだからさ、俺の部屋に行って鷹翔に撫でてもらったらどうだ?」


 彼女は依然として震えながらも距離を作ろうとはしない。てか、撫でるごとに耳が赤くなっていくので心配になる。


「好きなんじゃなかったのか? 俺のこれより満足感を得られると思うが」

「……気になってる」

「あ、まだ気になってる段階だったんだな。でもさ、それなら余計にそうした方がいいと思うけどな」

「……もう寝てるかもしれないじゃん? というか、どうしてキミは起きていたのかな?」

「俺か? 元々ふたりと別れた後も起きてたんだよ。鷹翔とラノベ読んでててさ、それでちょっと休憩のために1階に下りてきたら初先輩が来て、そして美波が来たってことだな」

 

 なるほど、気になっている存在だからこそ接触のタイミングを弁えたいということか。可愛げがあるじゃないか、彼女もやはり恋する乙女ということなのだろう。


「……最低な子だよね、初ちゃんのも撫でて私のもなんて……」

「おいおい、なんか俺が二股しているみたいじゃねえかよ……」

「そのとおりでしょ。鷹翔くんにまで手を出そうとするし」

「はいはい、美波の好きな人間に手を出すのはやめますよ」


 最低らしいので撫でるのをやめたら、彼女が小さく「あ……」と声を漏らした。

 鷹翔のことが気になっているなら他の男に望むべき行為ではない。――と、内側では結論づけていたことなのに自然と受け入れてしまったというのが現状である。


「てか、俺が狙っているかのような言い方だな?」

「ばっ――そんなわけないでしょ。高柳くんが私のことを意識するわけないもん」

「そうでもないぞ?」

「へ……」

「俺は非モテの童貞野郎16歳だからな」


 異性に優しくされたら簡単に意識してしまう。相手が可愛ければ尚更のことだと思うが、異性からしたらおかしなことなのだろうか。


「でもさ、美波を好きになったらライバルが多いよな。加藤とかそれこそ鷹翔とかそういう人間がさ」

「めぐちゃんは女の子だよ」

「女同士の恋愛ってのもあるじゃねえか」


 百合は至高だ。

 加藤は可愛いと言うよりも格好いい系だからお似合いにも感じる。


「俺、思ったんだけど、鷹翔って美波のことが好きなんじゃねえかなって」

「ふぅん」


 いや、ふぅんって……鷹翔のことを狙っているんじゃねえのかよ。

 彼女はこちらを無表情で見るだけだった。動揺を隠しているようにも見えない。単純に俺の察し力が引くだけなのかもしれないが、それにしたって美波はここまで隠せるような少女ではないことを俺は知っていた。そのため、極めて普通の状態ということになる、のか。


「そうなんだ」

「気になってるんだろ? どうしてそこまで冷めた反応なんだよ」

「それはキミの勝手な憶測でしょ」

「そりゃそうだけどさ……」

「いいから撫でてよ」


 で、撫でるとまたビクつかせると。

 女心は永久的に分からないまま人生が終わりそうだ。


「ビクビクすんなよ……いけないことしているみたいだろ」

「……だ、だって……」

「普通にしろ、そうしないとやめるぞ」

「うぅ……わかったからやめないで……」


 そういう言い回しをされると困ってしまう。

 ますますいけないことをしているみたいで、こちらもぎこちなくなる。


「好き」

「は」

「撫でられるの好きだよ」

「あ……そう、ま、ありがとう?」

「高柳くんもちょっとは役に立つね」


 偉そうな、とは思わなかった。

 ちょっとでも役に立てると分かって嬉しかったのだ。

 M属性なのは自分なのかもしれない。


「ね、他の子にするのをやめてくれたらまた撫でてもいいよ?」

「そもそも求められなければしないぞ俺は」

「だからそれをやめてって言ってるの。初ちゃんを撫でたとき罪悪感を感じたんでしょ? 私に申し訳ないって思ったんでしょ?」

「いや、それはあくまで俺がしたときはってことで、美波は望んでいないだろ?」「勝手に決めないでよ。なに? そんなに鷹翔くんのところにいってほしいの?」


 美波の望みならというか、相手が誰であれ相手が1番幸せになれる人といてほしいと願っている。現金な話だが、自分に優しくしてくれた人であれば尚更のこと。

 それに俺がいまの状態でも、仮に好きでも、止められるような権利はない。自分の気持ちのために、妥協されないためにこう口にしているわけだ。


「あくまで俺は美波のためを思ってだな……」

「余計なお世話だよ。……今日は寝るね、おやすみ」

「おう……」


 彼女はトタトタと歩きリビングから出ていった。


「俺も寝るか」


 明日も休日とはいえ、いつまでも起きているわけにはいかないしな。




 月曜日の放課後。

 俺は初先輩にだけ残ってもらうつもりだったのだが、なぜだか鷹翔と美波も教室に存在していた。それはともかく、約束どおり静先輩は来てくれたので一安心だ。


「高柳君……屋上でいいかしら?」

「あ、はい、俺は大丈夫ですよ」


 3人にお礼を言って先に帰ってもらう。

 俺は無言で階段を上って屋上へ。

 やはり10月というのはなんとも曖昧な気温で、なんとも微妙な気持ちにさせてくれると再びそう感じた。静先輩といるからというのもあるのかもしれないが。


「それで……会いたかった理由って?」

「あの、すみませんでした! えと、俺が不味かったってことですよね? 不快にさせてしまったということですよね……すみません」

「それは誤解よ……」

「え? じゃあなんで……」

「以前、あなたが浮かべていた笑みが気持ち悪かったの」


 ガーンッ!? お、俺の笑みって気持ち悪かったのか。それは申し訳ないことをしてしまった。


「語弊があったわねっ、無理して笑っているのが気持ち悪かったの。でも、いまはそんなことないわ。自然であなたらしい、いい笑顔よ」

「ど、どうも……」


 なにを言われているんだろうか俺は。

 大体、先輩は以前の俺を知らないはずだというのに。


「その様子だと仲直りできたのね、良かったわね」

「静先輩のおかげでもありますけどね、あのとき手を握らせてくれてありがとうございました。あれでめちゃくちゃ気持ちが楽になりましたから」

「……そう」

「はい。とにかく、すみませんでした! そして、ありがとうございました! ははは、なかなかどうして恥ずかしい感じがありますね。……ん? 静先輩?」

「ち、近づかないでっ!」


 えぇ……体を抱くようにして拒絶されるとまるでこちらが襲おうとしていたみたいじゃねえかよ。……俺が1歩近づいただけなのにそんな反応をされたことに悲しんでいると、「あ、ちがっ……そういうのじゃなくて……」と彼女は顔を赤くし慌てていた。


「静さん、こんにちは!」

「み、美波さ……ん」「あ、美波……」

「高柳くん、少し借りてもいいかな?」

「お、おう……」


 こちらとしてはもう謝罪もできたし構わないが、美波が浮かべている笑顔が怖いから心配になる。


「美波っ、静先輩に優しくしてやってくれよ?」

「ふぅん。ま、そういう人だよね高柳くんって。大丈夫だよ、任せてー」

「高柳君助けっ――」


 彼女達が消えた後、


「すみません、怖くて無理でした」


 ひとりでそう呟いたのだった。

加藤、全然出してないな。

他の友達といるって美波に言わせたし、もう好きの気持ちは捨てたということにしておくか?

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