14.『意味深な反応』
読む自己で。
帰ってきたら美波を風呂に入らせたり、調理して一緒にごはんを食べたりした。
もう完全に後は寝るという状況で俺らはリビングでまったりとしていたのだが。
「あれ、美波さんも来てたんだ」
じゃなくて、どうして鷹翔も来てるんだって話だが。
「う、初ちゃんとはどうなの?」
「うん、普通かな」
「普通……」
こいつも残酷なことをするやつだな、俺は内心で溜め息をつく。
仮にも美波は鷹翔のことを好きなんだぞ、もう少し慌てたりしろよ。
……って、いつの間にか美波にもっと優しくしてやってほしいって願っているじゃないか俺。前は正直後回しだったんだけどな……。
「美波さん、明日どこか行く予定とかある?」
「え? いや……」
1回俺を見てすぐに顔を俯かせて。
鷹翔もこちらを見て、「そういうことか」と小さく呟く。
「ね、僕らも行っていい?」
「僕……ら?」
「初さん、僕、美波さん、中でどうかな?」
「私は――」
「やめろ鷹翔」
興味を抱けないならせめてそっとしておいてやってほしい。
どこに好きな人間が他の異性とイチャイチャしているのを見たいと言うのか。
「これ以上追い詰めるな」
「別にそんなのじゃないよ」
「いいや、お前のしていることは残酷な行為だ」
そういうのを見させて現実を知らしめたい、そういうことなのだろうか。
勿論ただ俺の勘違いという可能性もある。なんか美波が好きそうな店とかに案内してくれるとかそういうのかもしれない。俺はそういうのが全く分からないから彼女にとっては鷹翔の方がいいのかもしれない。
「美波の気持ちを踏みにじるなよ!」
だが、小早川先輩に向き合うと言っておきながらすることではないだろう。
それともあれか? 俺が非モテだから分からないだけで、こういうのが当たり前なのだろうか。別に他の異性が好きでも、相手が自分のことを好きだと分かっていても遊びに行くのが『普通』なのだろうか。
「なにをそんなに必死になっているのさ。まさか美波さんが僕に取られるかもしれないとか考えているの?」
「違うわ馬鹿! だってこいつはお前のことを――」
「いいよ高柳くん、べつにただ出かけるってだけじゃん」
「美波……」
ただ出かけるって言うけど複雑だろうが。
あ、でもこれが先輩が言っていたことなのか。俺は美波じゃないから言う資格がないと、そういうことなのか。
それに本人がこう言っているなら食いつけば食いつくほど、美波が惨めな気持ちを味わうことになるってことだ。
「中、いいよね?」
「……鷹翔の目的はなんなんだよ?」
「ただのお出かけだよ。ちなみにふたりはどこに行くつもりだったの?」
「商業施設だよ! ま、適当に歩き回るだけなんだけどねっ」
「なるほど! いいよね、行くお店が決まっていないというのも」
なんかこれじゃあ俺が馬鹿だったみたいじゃねえか。
ひとりではしゃいで美波のためだなんて口実にして、ただただ鷹翔を責めたかっただけなんじゃないのか。
「……コンビニに行ってくるわ」
「行ってらっしゃい、気をつけてね中」
「ああ……」
コンビニなんかどうでもよかったし、いまになって眠気がどっと訪れたので外に出た形となる。
――結論から言えば10月のなんとも言えない空気は俺をよりもやもやさせてくれただけだ。家に着いても入る気にはなれなくて、玄関前の地面に直に座る。
「高柳くん、なにやってるの」
「あれ、鷹翔は?」
「もう帰ったよ。心配……させないでよね」
せっかく風呂に入ったのに横に座ったら意味なくなるだろうが……。
「いや、なにでしゃばっているんだと思ってさ。おまけに眠かったから歩いてみたんだけど、複雑な気持ちになっただけだったよ」
「……嬉しかったよ? 高柳くんがああ言ってくれて」
「本当かよ……」
客観的に見ても無様だったが。
だからこそ鷹翔は煽ってきたんだろうし、恥ずかしくてしょうがない。
「なあ……明日、行かなくてもいいか?」
「え、どうして?」
「ガッツリ寝たいし……鷹翔や小早川先輩に会いたくないんだよ。悪いな、メンタルが弱くてな」
さっき寝られたのはいいが、それが猛烈に響いてきているんだ。
おまけに家はゆっくりできるし落ち着く場所、人目を気にしなくていいのは大きいわけで。
「やだ」
「は……俺はふたりきりだったら良かったんだが……」
「私だって……そうだよ」
「は? 無理するなよ」
「無理してない! ……寝たいなら家でもいいよ?」
家でもいいよって……家にいたら俺は間違いなく寝るはずだ。
それじゃあなにも返しにならないし、彼女は退屈な時間を過ごすことになる。
「駄目だ。美波だけ行ってきてくれ」
「……高柳くんが行かなかったら意味ないもん」
「俺が行っても美波を満足させてやれないからな。寧ろ悪い空気や気分にさせて駄目な状態で終わるだけだろ」
そりゃ俺が返さなければならないから俺に拘る気持ちは分かるが、まるで彼女が俺を求めているみたいじゃないか。……勘違い、と断言ができなくなってきた。
「おっと! 鷹翔の方がいいとか言わなくても分かっているからな?」
「……はっきり言っておくけどさ、もう鷹翔くんのことは諦めたからね? 初ちゃんには敵わないし、鷹翔くんが向き合うって言ったんだから無理だからさ」
「敵わないってことはねえだろ。美波はこんなのに優しくできるし、容姿だっていいだろ? スタイルもいいし、なにより笑った顔が魅力的だからな。言葉遣いはたまにあれだけど……小早川先輩に負けないくらいの魅力があると思うぞ」
味方をしてくれたから言うわけじゃない。
純粋に見た目やその他諸々も大差ないと思うんだ。
「ばっ――ばっかじゃないの!?」
「そういうところはマイナスだな。褒めたんだから素直に受け取れよ」
「もう最悪っ! 家の中に入る!」
「俺も入るよ」
「ふんっ、バカ柳くん!」
うんまあ先輩もこんな感じだったわけだし、負けるってことはないだろ。
鷹翔が先輩を見るって言ったからなんだよ。
まだ決まってねえじゃねえか、諦めんなよ。
その優しさや見た目の良さとかあれば負けてねえよ。
「あ、やっぱり明日行くわ、行こうぜ」
「はぁ? あ! 初ちゃんがいるから!?」
「いや、あれから話してないからな」
どんな感じの雰囲気になるのかも分からない。
案外普通かもしれないし、野良猫みたいにキシャアッと怒る可能性もある。
「美波をサポートしてやるよ。鷹翔が振り向くようにな」
「いらない! そんなサポートいらないよ!」
「弱気になるなって、美波なら小早川先輩にだって勝てるぞ!」
「だからもういいんだって……」
そこであからさまにしょんぼりとしてしまう美波にどう言ったらいいのかが分からなくなってしまった。少なくともこれ以上を口にしたら帰ってしまう可能性があるので、この話題はとりあえずお終いにする。
「鷹翔となにを話してたんだ?」
「え? うーん、明日楽しもうねとかそういうのだよ?」
「あいつ……」
「高柳くんはなにをそんなに気にしてるの?」
「はぁ? とうとう頭がおかしくなったのか?」
ポコポコ叩いてくる彼女の頭を押さえて攻撃させないよう対策。
「美波は鷹翔のことが好きなんだろ? そしたら複雑だろうが」
「もう大丈夫だよ?」
「無理するなって! あ、信じられないってことなのか?」
「本心だよ?」
「あーもう分かんねえ……美波は泣いてたじゃねえかよ。申し訳なくなって寝られなくて徹夜したってのに……」
頭をガシガシ掻いて言ってみるも、彼女は楽しそうに「あははっ」と笑うだけだった。
「あのね、鷹翔くんにはっきり言われたとき、あ、このままじゃダメだなって思ったんだ。でさ、まあすぐに消えたわけじゃないけど、ちょっと心境の変化が起きたんだよね」
「ふぅん、特別な意味で好きって気持ちをすぐに忘れられるのか」
「そんなわけないじゃん。だからすぐに消えたわけじゃないって言ったでしょ?」
そりゃそうか。
俺だったらいつまで経ってもウダウダと悩み続けることだろう。
「で、心境の変化ってどういうふうにだ?」
「うーん、そんなことどうでもいいじゃん」
「はいはい、信用に値しないってことですよね、すみませんでした」
「もう、卑屈にならないでよー」
分かんねえな。家に泊まりたがったり、出かけたりたがったりしても、本当のところは全然話してくれないというのは。
家に行くのも出かけるのも、相手を信用していなければできない行為だと思う。ましてや相手が男なら尚更のことだ。
「ま、早く寝よ? 明日、9時に集合らしいし」
「はや! そんなに急いでどうするんだよ……」
行くとか言っておいてあれだが、ウインドーショッピングとかっていうのが1番苦手なんだ自分としては。目的の店にパッと行って、買って、帰る! これが理想だと言えた。
「いいじゃん! 暇になったら帰ってきて家でのんびりすればいいんだから」
「は? 俺の家に来るつもりなのか?」
「高柳くんはちょっと自意識過剰だねー、まるで来てほしいみたいじゃん」
「美波が来たいなら別にいいけどな」
「来たくありませーん」
「はは、まあそうだろうな。まあいい寝るわ、おやすみ」
「うん、おやすみー」
これまた自分で言っておいてあれだが、美波が家にいるのは違和感を覚えるな。
はぁ、とりあえず早く寝よう。
「久しぶりだな」
「そうですね、お久しぶりです」
「敬語はよせ」
「はは、元気だったか?」
「ああ、元気だったぞ」
既に商業施設に訪れてから2時間は経過しようとしていた。
現在は鷹翔と美波が小物を見たいということだったので、俺らは店の外のソファに座って待っているという形になる。
どうして今更こんな話をしているのかと言うと、朝の時点ではゆっくり話ができなかったからだった。
「どうだ? 鷹翔と上手くいっているか?」
「それなんだがな……」
「え、どうした?」
「中! ちょっといいかな? 初さんはちょっと美波さんといてくれない?」
「了解だ」
なぜか腕を掴まれ強制的に移動させられる。
「鷹翔、勘違いするなよ? 別に俺は先輩をどうこうしようとしたわけでは……」
「ごめん!」
「は?」
どうして俺はいきなり謝られているんだろうか。
あ。あのときのを悔いていて、友達に戻りたいとかだろうか。
俺としては歓迎だが、いまは少し素直に信じることができそうにない。
「信じてもらえないだろうけど、あの夜に言ったことは全部嘘なんだ……」
「え?」
「だから……気持ち悪いとか邪魔とか相応しくないとか思うわけないじゃん?」
「はあ!? いやあのときの鷹翔の顔は正にゴミ虫を見るときのそれだったぞ!」
「こ、声が大きいよっ」
「あ……俺はさ、そのせいで3日も寝られなかったんだぞ? いやまあ、これは単純に俺の心が雑魚だっただけだけどさ」
今更そんなことを言われても困る!
なんのメリットがあるんだよ、俺を傷つけて遊びたかったってことか?
ストレスの解消をしたいってことなら、十分達成できたのだろうが……。
「……言っておくけどめちゃくちゃ痛かったからね?」
「はぁ……で、理由は?」
「……それは言えないかな。あと、初さんを狙っているとかもないからね?」
「あの、自分もう帰ってもいいっすか?」
「駄目だよー」
「情報量が多すぎて、そうでなくても徹夜が続いていた俺にはきついんだよ」
あれが全て演技――嘘だったのだとしたら、俺はどうして静先輩に拒絶されたんだろうか。手を繋いだことが悪いのか? それなら謝りたいと思うが。
……じゃなくて、どうしてこのタイミングでネタバラシなんだ。先輩も鷹翔がいなければこう言っていたのか? ……あーもう分からない、頭が痛くなる。
「……自分勝手だけどさ、中と仲良しに戻りたい!」
「声がでかいぞ……誤解されたらどうする」
「教室で抱きしめてきたじゃんか……今更これくらいでどうってことないよ」
信じられないとか信じたくないとか置いておいて、友達に戻れるならそれに越したことはない。ずっと付き合いを続けてきたんだ、鷹翔が望むなら別にいいような気がする。
「まあ、いいんじゃないのか――」
「ありがとっ、大好き!」
「ばっ……かじゃないのかお前……」
商業施設ってのは沢山女子供がいるんだよ。
そんな中で男同士抱き合って、片方が「大好き」とか言っていたら誤解される。
「はぁ、ふたりだけの世界に浸ってほしくはないな。というか、人目を気にしろ」
「そうだよ! 勝手に抜け出したと思ったらイチャイチャして!」
ほら、早速誤解されているじゃないか!
「べ、別にそんなんじゃ……」
「おい待て! 意味深な反応をするな!」
「……中は嫌?」
「……勘弁してくれー」
嫌われるよりかはいい――なんて言えるわけがない。
俺は鷹翔の腕を掴んで美波に渡し、先輩の腕を掴んで連れ出した。
数十メートル進んでから足を止めて、先程の話が本当かどうかを確認する。
「ああ、鷹翔の言うとおりだ、それは」
「おいおい、下手をすれば俺の心が壊れていたぞ?」
「……信じてもらえないかもしれないが、私は大丈夫だと信じていたぞ」
「……で、静先輩が俺のことを拒絶してきた理由は?」
「は? それは知らないぞ?」
「えぇ? じゃあ純粋に嫌われたってことかよ……」
地味にショックを受けた。
そりゃそうだろう、みんなが演技なのにマジだったら誰だって傷つく。
「すまなかったな。謝って済むことではないが」
「いやもういいだろ」
「で……だが、美波のことが好きになったのか?」
髪と同じ亜麻色の瞳がこちらを捉えた。
なにか心配事があるのか、その瞳は少し潤んでいた。
「いや? ただ、味方でいてくれたから嬉しかっただけだよ。誰かさんも味方でいてくれていたときは格好良くて魅力的だったんだけどなあ」
「くっ……す、すまない。中!」
「ど、どうしたっ?」
そんなにおかしなことを言っただろうか。
けど、あのときの俺は碓かに格好いいと感じたんだよな、先輩のことを。
「……友達に戻りたいのだ」
「はははっ、いいぞ! って、偉そうか?」
「いや……中はお人好しだな」
「そうか? ひとりじゃなにもできない弱い男だよ」
んー、でもこれで色々な意味で振り出しに戻ったということか。
先輩が好きな人、鷹翔が好きな人、美波が好きな人、静先輩が俺を拒絶した訳。
――ちょっと待て、これなら美波は鷹翔を好きになってもいいのでは?
「もう勝手に行かないでよー」
「美波、鷹翔のことを好きになれ! で、初も鷹翔を狙えばいいだろ?」
「「「は?」」」
「え、だって鷹翔は初が好きなわけじゃないんだろ?」
「「「はぁ……」」」
それとも照れ隠しで言っていただけなのか? それなら猛烈に悪いことをしたということになるし、3人が溜め息をつきたくなるのも分かる気がする。
「悪い」
「中とはそういう男だよな」
「うん、高柳くんはこうだから困るよね」
「中は鈍感だからね」
鈍感キングの鷹翔に言われたくないぞ!
もう施設や店の人に申し訳ないので、帰ってからワイワイ喋ることになった。
問題なのは当たり前のように俺の家だということ。
「なるほどな、合鍵を貸してもらっているのか」
「うん、もう2回泊まったかな」
「私は1度だけだな。あの日も家にすら入れてくれなかったぞ」
色々な意味で硬かったんだと思う。
それか単純に、雰囲気負けをしてしまったのかというところ。
「僕はもう100回ぐらい泊まったことがあるよ!」
「はぁ、当たり前だろう、私達とは関係を続けている年数が違うのだから」
「そうだよぶーぶー!」
「あ、いまの美波さん可愛い!」
「あははっ、でしょー?」
どうして照れないのか。
以前とは違う彼女の様子が気になり始める。
鷹翔も明るいし、先輩だって同じように――いや、苦笑しているが落ち着かないというわけではないようだった。
「中、どうしたのだ?」
「あ、いや……」
「うん? 高柳くんがおかしいのはいつものことでしょ?」
「美波さんっ、中を悪く言わないで!」
「ごめーんっ」
駄目だ、調子が狂う。
「ちょっと部屋に行ってきてもいいか?」
「「おっけー」」「ああ、構わぬぞ」
というわけで部屋に移動し、もうひとりの先輩に連絡をさせてもらう。
「……もしもし?」
「静先輩、いまから会えませんか?」
「む、無理よ……ごめんなさい」
「じゃあ月曜日の放課後にふたりきりじゃなくていいんで」
「……それなら。……さようなら」
「はい、さようならです」
んー、どうにかして仲直りがしたい。
月曜日は真剣に挑もう。
1話の文字数、今作品は5000~6500文字だけど、いつもは4000~なんだよなあと。




