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13.『やめてくれよ』

読む自己で。

 現在12時50分。

 うへぇ……と内心で呟いた。

 みんながワイワイ盛り上がる中、俺だけは突っ伏し寝ようと頑張っていた。

 だが、こういうのは意識すればするほど、寝られないという悪循環で。

 おまけにうるさくて、頭が痛くて、だるくて、動く気になれなくて。

 ただ、俺が去るべきなのは分かっているから、頑張って教室から出た。

 ただただ適当に屋上を目指して、ダラダラと階段を上って。

 着いたら備え付けられたベンチに寝転ぶ。

 大丈夫、利用者はいない。仮にいたら譲るつもりだ。

 目を腕で覆って、数分そのままにしてみたものの駄目で。


「駄目だ……」


 語彙力のなさを露呈させつつ、片方の手でガシガシと頭を掻いた。


「高柳くん」

「ん? ……ああ、よお」


 足音が聞こえなかったぞ、どんな能力者だよ彼女はよ。


「どうしたの? お昼ごはんは?」

「もう食った。教室は昼寝に向かない場所だろ? だからこうして屋上来た」

「みんなが使うのに転んじゃダメだよ」

「そうだな……なら地面にでも転ぶわ」


 わざわざ中央に移動して寝転んだ。

 先程の場所と違って青白い空がダイレクトに見える。

 ところが残念、景色を見て楽しんでいる場合じゃないんだよ。


「ね、今日も行っていい?」

「ま、いいんじゃね……」

「もう、どうしてそんなにやる気ないのっ」

「悪い、ちょっと静かにしてくれないか」

「もういいっ、バカ……」


 って、好き勝手ワガママ娘かよ。

 すぐに不機嫌になるしどっか行くし、女って大変そうだな生きるの。

 元気だったらもう少しまとまな対応をしてやれたんだけどな、悪いな浜野よ。

 にしても、どうして近づいて来るんだろうな。

 会ったところで不満を感じるくらいなら、切ろうとか思わないのか?

 彼らみたいに切ればいいんじゃないのかねえ。


「中」


 みんな会得してて凄いなと内心で呟いた。

 どうすれば足音をここまで極限に消せるんだろうか。


「なにやってるの?」

「昼寝だ」

「突っ伏してること増えたよね……寝られてないの?」

「いや? こういうのんびりした時間が好きなんだよ。ひとりになって久しぶりな感覚でさ。あ、責めてるわけじゃないからな?」


 鷹翔は甘いな。どうして話しかけてるんだ俺に。

 邪魔とか気持ち悪いとかってぶつけた相手と話すってどんな気持ちだ?

 他人にぶつけたことがないから分からない。


「先輩とはどうだ?」

「うん……まあ、そこそこって感じかな」

「そうか」

「うん……」


 応援しないって口にしたから、事実を確認しても「そうか」としか言えない。


「中、顔色悪いよ?」

「そうか? まあ鷹翔がそう言うなら保健室にでも行ってくるかな」


 のろのろと立ち上がって、


「早く教室に戻れよ」


 声をかけて屋上をあとにする。

 なんで保健室が1階にあるのかね、遠くて困る。


「失礼します……」

「お、どうしたんだ?」

「あ、えっと……適当に入ってみただけなんですよね。保健室って全然行く機会がないので」

「はははっ! ま、たしかに健康なら来る機会は全然ないだろうな」

「はい。というわけなので、見れて良かったです! ありがとうございましたっ」


 よく考えたら先生とふたりきりとか緊張するし無理だ。

 おまけに、いまは悠長に会話をしている余裕はない。


「まあ待て、高柳」

「は、ど、どうして俺の名前を?」

「この学校の生徒なのだから覚えていてもおかしくないだろ?」

「まあ……」


 だからって全校生徒の名前を覚えようとするだけで骨が折れるというもの。

 

「高柳、最近ちゃんと寝られているか?」

「はい、寝られていますけど」

「ごはんは?」

「食べますよ、そうしないと死ぬじゃないですか」

「それじゃあ昨日はなにを食べて、何時間寝たんだ?」

「昨日は白米と味噌汁ですかね。睡眠時間は大体7時間くらいでしょうか」


 白米と味噌汁を食べたのは浜野だけどな。

 寝た時間が7時間とか、どっから出てきたんだよって話だろう。


「一昨日は?」

「同じですけど」

「その前は?」

「同じですね」


 徹夜徹夜徹夜+飯はなにも食ってないというのが最近の結果である。


「元気か?」

「はい、めっっちゃくちゃ! 元気ですよ!」


 やれてる。養護教諭相手でもバレない演技力。


「そうか。なら戻っていいぞ」

「はい、失礼しま――」

「なんて言うとでも思ったかお前!」

「ぎゃっ!?」


 俺を無理やりベッドに放り投げる先生。

 病人なんだからもう少し丁寧に扱ってもらいたいものだが……。


「おかしいなあ……この学校の生徒は体調が悪くないのに悪いフリをするというのに、本当に体調が悪いやつは隠そうするんだな、これは勉強になったな」

「あの……調子悪くないですけど」

「舐められたものだな私も。そんなヘタクソな演技で切り抜けられるとでも思ったのか?」

「いや、本当に元気ですから」


 病は気からって言うし、強気でいるのも大切だろう。

 なんでもかんでも保健室を頼ればいいわけではない。

 まあこれもあれだ、自業自得ってやつなんだろう。


「お前、本当は寝られていないんだろ?」

「そんなわけないですよ。さっきだって屋上で寝ていたわけですし」

「じゃあなんでここに来た?」

「友だ……クラスメイトに顔色が悪いと言われたので」

「なあ、別に私に隠す必要あるか? 言い方はあれだが、体調の悪い人間を看るために私はいるんだぞ?」

「いやあの、真剣に大丈夫なので」

「はぁ……こんなやつ初めて見たぞ……」


 先生の初めてゲットーとか喜んでおけばいいのかね。

 勉強になったと言っていたことだし、俺が来訪したことはマイナスではないと思いたい。


「出ていくのは勝手だが、誰にも迷惑をかけないと約束できるならにしろ」

「かけませんよ。破ったら死んでもいいですよ」

「はぁ、なら好きにしろ」


 失礼しますと保健室をあとにする。

 ダラダラと教室に戻って、着いたら席に座って。

 ――別に今日を乗り切るくらい全然楽勝だ。

 学校に行かなければならない、そういう考えから寝られなかったのでは?

 休日ならその点は心配しなくていい、爆睡してやろうじゃないか。


「中、保健室に行ったんじゃ……」

「ああ、行ってみたけど満室でな。それなら教室にいた方がいいと思ってさ」

「中……」

「おいおい、大丈夫だって。というかさ、どうして普通に来てるんだ鷹翔よ。やっと……重荷から解放されたじゃねえか」


 これは俺の日常。

 少し前までなら当たり前だった光景。

 だが、いまの俺と鷹翔にとっては違うんだ。


「悪い、ちょっと休みたいから」

「……うん」


 帰ったら食べ物くらいは胃に突っ込もう。

 あとは水分摂ってれば死ぬことはないだろう別に。

 で、俺はなんとも微妙な感じのままではあったが、授業を全て受けて終えることができた。先生よ、約束を守ってぜ、なんてな。

 だらだらと帰って、家に着いたら生の食パンをかじって。

 なんとか面倒くさいからソファに寝転ぼうとしたら、そのまま……。

 



 声が聞こえる。

 女子特有のぴーぴー甲高い声。

 うるさい。誰の家だと思っているんだって。


「高柳くん!」


 ああ、どうやら声の主は浜野のようだ。

 てか、俺もなんでうつ伏せで寝転がっているんだかね。

 いくら体調が悪かったとはいえ、せめてソファに転べよとツッコんだ。


「ねぇ! 大丈夫っ!?」

「……ああ、大丈夫だ」

「もうバカ! 心配したんだからっ!」


 どっか行ったり心配したり大変なようだ。

 とりあえず体を起こすと、少しだけマシになっていることに気づいた。

 浜野がいることには驚いたりしない。

 鍵を渡しておいて良かったと言える例かもしれない。


「……いま何時だ?」

「え? あ、えとっ、19時過ぎだね」

「ありがとな。ちょっと眠たくなってさ、ははは! 死んでるように見えたか?」

「笑いごとじゃないよ」

「お、おい」


 彼女もだいぶ参っているようだ。

 そうじゃなければ俺に抱きついてきたりなんかしない。


「……嘘つかないでよ、体調が悪いなら言ってよ」

「……悪い、2日前から寝られてなくてさ。ごはんも同じように食べられてない」


 あ、なんで俺も浜野には素直になっているんだ?

 あれか、やっぱり俺も精神的に追い詰められていたということか。


「2日前……え、ということは私が泊まった日……」

「ちなみに、2日前に寝られなかった理由は俺が浜野を間接的にでも泣かせてしまったからだけどな。昨日のそれは別に浜野が理由じゃない。色々あったんだよ、俺にもな」

「……色々って?」

「そうだな、鷹翔に迷惑って言われたり、小早川先輩から愛想尽かされたりな」


 静先輩に拒絶されたのもあったか。

 はは、どれだけ嫌われているのかって話だ。


「それでどうして浜野は来たんだ?」


 俺に抱きつくのをやめて床に女の子座りをした彼女がこちらを見てきた。

 そんなにじっと見られても困ってしまうが、まあ待つことにしよう。


「やっぱり鷹翔くんとは違うよね」

「それは悪い……分かってるよ俺でもさ」

「……心配だったからに決まってるでしょ! どうして全部言われてからじゃないとわからないのっ!?」

「心配って浜野がか? 俺を1番嫌っていたじゃねえかよ。対鷹翔、対先輩、対静先輩――そして対浜野、俺にとっては浜野とが1番関係性最悪だと思っていたけどな、違うのか?」


 いつも役立たずとか馬鹿とか言ってくれていただろ彼女が。

 俺も特に言い訳はしなかった。……怒鳴ったことはあるが……。

 で、今度は優しくしてくれる、と。

 ……信じられねえよ、どうせ裏切るに決まっている。


「なんか怖えからさ、やめてくれよ浜野」

「こ、怖い……って?」

「いままでみたいに俺の痛いところを突いておけばいいんだよ。悪口でもなんでもいい、浜野の言っていたことは実際にそうだったからな。だからさ、俺になんか優しくすんな。うんざりなんだ、信じて裏切られるのはもう。あ、別に逃げ込んでくることは構わないが、もてなしなんかできないからそこは分かってくれよ」


 とかく、口約束というのは簡単に破られることが分かった。

 それを馬鹿みたいに信じて安心しきっていた俺が悪いのは分かっているが。

 そして自分が物凄く面倒くさい発言や行動をしていることも分かっている。

 だからやめろって言うんだ。これは全て他人のために言っていること。


「……なんでそんなこと言うの」

「裏切られてみれば分かるって、俺がこう言いたくなる気持ちも」


 ま、裏切られないに越したことはない。

 だからこそ、周りに溶け込もうと頑張るのだろうが。

 俺はそれができなかった。

 変なプライドを持ち、いま満足していられればそれでいいと行動してしまった。

 なんでもかんでもそうだ、終わってから、なくなってから後悔するもの。


「わかんないよそんなの」

「それはいいことだろ?」

「でも! ……高柳くんは放っておけな――」

「鷹翔と同じ結果になるぞ。引っ張られるだけだからやめた方がいい」


 いまは良くても、きっといつか感情が爆発する。

 なんでこいつのために動かなければならないのかって、ふと気づいたらもう終わりだ。


「じゃあいい!」

「ああ」

「私が勝手にやればいいんだよね!? 自己責任だよね!?」


 彼女はバンッと立ち上がり、俺を見下ろしつつそう言ってのけた。


「お、おいっ、それは――」

「うるさい! 私の人生なんだから勝手にやったっていいじゃん! なにさ、あなたに止める権利があるっていうの!?」

「な、ないな……」

「でしょ!? だからいいんだよっ、変なこと気にしなくても!」


 なんでいまなんだよ……。

 もっと早くから優しくしてくれていたら俺だって真っ直ぐに信じられたんだ。

 鷹翔と小早川先輩に裏切られても、浜野だけはいてくれるからって平気でいられたというのに……。


「いやでもさ、浜野にメリットないから……」

「べつにデメリットがあるわけじゃないし!」

「俺は面倒くさいだろ? なんだっけか……あ、そう、メンヘラ? だっけか、そんなのじゃないかなってさ……」


 一緒に過ごしていると他人も引っ張るって言うし、質の悪い存在だ。

 あと、男のメンヘラとかクソすぎるだろう。需要がない、女子のもそうかもしれないが。


「いや、高柳くんのは単純に面倒くさいだけでしょ?」

「あ……はい」

「あー! ち、違くて! ……とにかくっ、私が好きでやるんだからキミは気にしなくていーの、わかった?」


 こちらをズビシッと指差しいい笑みを浮かべる彼女。


「……ま、浜野――」

「美波」

「……美波が言うなら」


 相変わらずよく分からない流れだが、味方がいないよりかはマシだからな。


「美波って頑固だな」

「高柳くんに言われたくないもん」

「とにかくさ、ありがとな」


 改めて感謝。

 溜まっていた感情を吐き出せたし、聞いてもらえて楽になった。

 誰かに話せることはめちゃくちゃ素晴らしいことだったんだなって、思い出せたから。「ふんっ、べつにたまたまだしっ」と美波は素直じゃなかったけれど。


「いや、それでもありがてえよ。今夜はちゃんと寝られそうな気がする」

「お、大袈裟だってば!」

「本当だって、マジでありがたかったんだから素直に受け取れよ」

「……ならさ、明日に返してよ」

「どうすればいいんだ?」


 なにか買ってやることはできるが……。


「商業施設に行けなかったし、明日行こうよ」

「俺が相手じゃつまらないだろ」

「いーから! 適当に歩いて回るだけでいいからさ!」

「なら泊まっていったらどうだ?」

「へっ!? な、なんでそうなるのっ!」

「は? その方が楽だろ?」


 いちいち慌てる理由が分からない。

 それに1度はもう泊まったじゃないか。


「いいよ……施設の前で集合」

「いや人多いし探すのに時間をかけるくらいならさ」

「……こ、こんなことを言うのあれだけどさ、男の子の家に頻繁に出入りとか有りえないから……」

「鍵を持っているのにか?」


 おまけに今日だって当たり前のように来たわけで。

 いやまあ、いつでもいいと言ったのだから、責めるつもりは一切ないが。


「う、初ちゃんから聞いたけど、家にいれるの拒否ってたって……なのにどうして私はいいの?」

「あ、そういえばそうだな……。んー、美波ははっきり言ってくれる人間だからじゃないのか? 知らないけど」

「……はっきり言えないし……」

「まあ、鷹翔が先輩のことを意識するようになったら言えないだろ」

「はぁ……バカ」


 ガーンッ!? ……って、分かってるけど。


「とにかく泊まってけ、いいな?」

「……そんなに泊まってほしいの?」

「おう」

「ふぇっ!? ほ、ほしいの?」

「そりゃ美波が味方だからな。おまけに家は寂しいからさ」


 暗闇とか怖いし……いい加減克服しないと将来恥をかくぞ。


「……着替えとか取ってくる」

「別に俺の貸すけど?」

「し、下着……」

「あ……悪い……」


 彼女は顔を赤くして少しの間モジモジとしていたが、「行ってくるね……」と残してリビング及び家から出ていった。


「って、危ねえじゃねえかよ夜にひとりじゃ」


 慌てて追って彼女の横に並ぶ。

 彼女は驚いたような顔でこちらを見ていたものの、割とすぐに「ど、どうして?」と聞いてきた。


「夜にひとりじゃ危ないだろ? 美波も女の子なんだからさ」

「う、うん……ありがと」

「いや、気にすんな」


 おかしな流れになったもんだが、こういう形も悪くないと割り切ったのだった。

俺系キャラが「お金」とか「ごはん」とか「女の子」とか言っていたらおかしいのかな。

中は僕系じゃないと思うからあれだけど、僕系の方が書きやすい。2回目だ。

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