12.『不眠症なのか』
読む自己で。
「うーん、なんで嫌われたんだろうかねえ」
家に帰って頭を悩ませてみても答えなんて出てこない。
そもそも起きたら「やっぱりいい」と伝える予定ではあったが、まさか向こうがあそこまで拒絶感を示すとは思わなかったから、俺は驚いた。
というか、この短期間で沢山の人間から嫌われすぎだろう俺は。なんかもう悲しいとか言うよりも、とにかくなんでだろうという気持ちしか出てこない。
「どうすっかなあ」
先程からずっと解除ボタンを押して、いいえぼたんを押してを繰り返していた。
もう必要のないものではあるが、もしかしたらという希望が捨てられない。
消すべきなのは4件。消さないべきなのも4件。
消したところで向こうにはノーダメージだし、ダメージを与えたいわけじゃないし、したところでダメージを受けるのは俺の方だし。
無駄なプライドがあって、逃げだと捉えられたくなくて。
時間が勿体ないのでスマホの電源を消し、風呂に入ることにした。
「はぁ……」
1日ぶりの湯船は俺に暖かさを与えてくれる。
誰も残らなくても、家に帰ればこれを味わえるんだからいいんじゃないか?
面倒くさいとも言えてしまう人間関係に悩むくらいなら、俺はこういう生き方なんだと無理やり割り切って生活をしておけばいいんじゃないか?
弱いからこそ、これ以上傷つけられないために動かなければならない。
この家だけは自分の味方だ――そう結論づけたときだった。
ガチャとここへと続く扉が開けられたのは。
「おっす中!」
「と、父さんっ?」
久しぶりに見た父さんは、まあ父さんだったけど。
「ああ、帰ってきたぞ!」と笑う父を見れて、いまは凄く嬉しかった。
俺の味方はいつだってこの父しかいないんだって。
いまの味方はこの父ちかいないんだって。
母と違って、こうして家に帰ってきてくれるんだなって。
「はははっ、おかえりっ」
「ただいま! まあでも息子の裸体見てても仕方ないし、リビングに行ってるからな」
「おう」
ありがたかった。
なんか凄い泣きそうになっていたから。
俺はお湯でそれを流して、でも止まらなかったから潜った。
目を閉じてるから当たり前だけどなにも見えない。
いまの生活、人生みたいだなと内心で呟いた。
「っはぁ! はぁ……」
このまま住んでくれないだろうか。
家で待ってたら父が帰ってきてくれるってだけで、気が楽なんだが。
出て、拭いて、着て、リビングへ。
「久しぶりに酒を飲んだな……」
「父さん」
「お、どうした?」
酒を神妙な顔、雰囲気で飲んでいる父には悪いが、言わせてもらう。
「家に……いてくれないか?」
「……悪い、明日の朝になったら戻らないといけないんだ」
「それなら仕方ないか。父さんが働いてくれているおかげで、ホームレスにならずに済んでいるわけだしな」
家があるだけマシだ。
お金だって全然使ってないから、余りに余っている。
「中、金は大丈夫か?」
「大丈夫」
「ちゃんと飯とか食ってるか?」
「それも大丈夫」
ごはんを炊いて、味噌汁を作って食べるとか、そういう簡素なものだけど。
「……悪いな、力になってやれなくて」
「いやいや、父さんは十分に支えてくれてるよ」
「ならいいんだがな。……駄目だ酒は、久しぶりすぎて……もう寝るわ」
「おう、おやすみ」
父には申し訳ないが、そういうお金のおかげでライトノベルを買えてるしな、現実逃避をするには十分だ。
「あ、先輩に貸したままじゃねえか」
まあもう読み終わったやつだし、最悪なくても困らないか。
返ってこないと分かって、必要になったら買えばいい。
関係と違って買い直せるって凄い話だよなあ。
――俺は玄関に行き扉を開ける。
「高柳くん……」
「あ、浜野……」
「……なにも聞かずに、今日は泊めてほしい」
「まあ……客室があるしな、いいぞ」
興味もないから湯を沸かして、ティーバッグの上から注いで。
蒸らしてからバッグを取り出し、ソファに座っている彼女にカップを手渡した。
「ありがと……」
「ああ」
両手でカップを掴みちびちび飲む浜野を見て、なんでだろうなと内心で呟いて。
ある意味、俺らは一番仲が悪いと言えるのに、どうして俺を頼ってくる?
こんな大して信用もできない人間の家になんか彼女は来るんだ。
鷹翔はどうした? あ、そういえば初に向き合うって言われたんだっけか。
彼女の所属しているクラスを知らないから、もしかしたら今日は休んだとか?
……分からない。それになにも聞くなと言ってきたんだ、聞かないでおこう。
「……なにも聞いてこないんだね」
どうするのが正解なんだろうか。
ここで聞いたらどうせ「だから君は!」と怒るだろう。
で、聞かなかったら「だから君は!」と怒るのだろう。
どうすればいいのかって話だ。
「そうだ、風呂には入ったか? いまはまだ温かいから、入ってないなら入ってきたらどうだ?」
「……襲うでしょ」
「襲わねえよ。服は俺ので我慢してくれ」
もうリビングに置いてあるので、内側に着る長袖と、ジャージを渡しておいた。
「……入らせてもらう」
「おう、ゆっくりすればいい」
彼女は去り、リビングには俺ひとりとなる。
ん、どうやら浜野よりかは俺の方が強いようだ。
好きな人間が違う同性といたらそりゃ傷つくのかもしれないが。
というか、加藤を頼ればいいってのに、俺の家に着てしまうくらい追い込まれていたということだろうか。
それから30分くらい経過した頃、リビングに浜野が戻ってきた。
静かに俺の横に座って、「はぁ……」と溜め息をついて。
「……ごめんなさい」
「いや、俺も余裕なくて冷たい言い方になったからな」
謝らなければ、なんて考えていたくせに、結局できていなかったからな。
「静先輩とはどうなの?」
「ああ、嫌われたよ」
「え……」
「なんか知らないけど、『来ないで』なんて言われたからな。またなにかしてしまったんだろ俺が。それかもしくは、いるだけで相手を不快にさせる人間なのかもしれないな」
死にたいなんて絶対に思わない。
それどころか、だったらひとりでやってやるよって闘志に燃えるってもんだ。
ま、家では様々な感情を吐くつもりだから、外弁慶ってやつだろうか。
「浜野は? 加藤と仲良くしているか?」
「最近は違う子と一緒にいるんだあの子」
「そうか」
「……ねえ高柳くんっ、どうすればいいかなっ?」
彼女はこちらの袖を掴み、泣きそうな顔で聞いてくる。
いや実際に涙を流していて、ズボンにシミを作っていた。
「俺に聞いたって意味ないだろ? どうすればいいかなんて俺が聞きたいくらいだよ浜野」
いるだけで嫌われるんじゃどうしようもないじゃないか。
そんな俺に聞いたところで、得られるのは惨めさだけだろうに。
「キミは――」
「分かってるよ! 俺が馬鹿で使えないことくらいは!」
「……じゃなくて、泣かないの?」
「え? 俺がか? 家では泣くぞ」
悲しさで泣くことはないが、暖かさに触れると不意に零れるときがある。
「とにかくさ、もう今日は寝ろよ」
「……うん」
客室に連れてって、彼女の代わりに布団を敷いてやった。
「暖かくして寝ろよ。おやすみ」
「……おやすみ」
俺はリビングに戻って、飲みかけの紅茶を飲んでからカップを洗う。
そうしたら後は部屋に戻って寝るだけだから、戻ってベッドに寝転んで。
「泣いても惨めさが出るだけだからな」
そんなんで満足させたところで、環境が変わるわけでもない。
だったら無駄なことはしないで大人しくしておいた方がマシというものだ。
とにかく寝ようと決めたのだが――寝られない。
一生懸命に寝ようとすればするほど寝られずじまい。
そして、
「……また眠れなかったじゃねえかよ」
朝がやってきてしまい、体を起こした。
これで2日連続の徹夜となる。
なんでだ? 不眠症なのか俺は。
外の明るい光が嬉しいような複雑なような。
とりあえず洗面所に行き、顔を洗いスッキリとさせる。
鏡に映った俺の顔は全然スッキリしていなかったが、気分はマシになった。
「……おはよ」
「おう、おはよ」
同じ空間に少女がいるというのはあれだな、慣れないなやっぱり。
「ちゃんと寝られたか?」
「うん……おかげさまで」
「そうか、なら良かった」
「高柳くんは?」
「俺も寝られたよ、ぐっすりとな。家の中に他の人、浜野がいてくれたからだろうな」
父はもう出ていってしまったと分かったし、こうして浜野と会えただけでも気が楽になったというものだ。
「そ、そんなこと……」
「いや、マジで真剣に」
「……ありがと」
「だから俺が言うべきことだろそれは、ありがとな」
偉そうに頭をポンと叩きリビングへ向かう。
朝食を作る気は起きないので、学校までの時間をゆっくり過ごしていく。
「ごはんは?」
「悪い、適当になにか作って食べてくれ」
「作ってあげよっか?」
「いやいい。食欲がないんだよ」
「……なら私もいいや、同じで食欲ないんだ」
「駄目だろ、しっかり食べておかないと倒れるぞ」
お前が言うなって話だが。
しゃあない、味噌汁くらいは作ってやるか。
というわけで、至ってシンプルな油揚げと玉ねぎの味噌汁を作ることにした。
とはいえ、切って水に突っ込んで、沸かして、やっぱり豆腐と味噌とダシ突っ込んだら終了。そして白米も茶碗に少量盛って、お椀に味噌汁を注げば完了だ。
「ほら食え」
「食欲ない……」
「駄目だ。食わないと家から出さないからな」
「……うぅ、いただきます」
見ているのはなんとも気恥ずかしいので、部屋に戻り制服に着替えることに。
「浜野、これ鍵な。それじゃ先に行くから」
「えっ!?」
終わったら合鍵を渡して、家を先に出た。
ダラダラと学校を目指し歩いて行く。
教室に着いたら速攻で席に突っ伏して寝る。
――が、全然寝られないままHRの時間になってしまったが。
休み時間だけでなく、授業中にも頬杖をついて寝ようとしたが上手くいかず。
あっという間に放課後を迎えて、周りが去っても帰らずにいた。
「……なにやってるの?」
「お、浜野か。よ」
「うん、よ」
彼女は彼女達がしたみたいに前の席に座る。
俺は頬杖をつきつつ、少しずつ暗くなっていく窓の外を見続けていた。
「これ、返すね」
「別に持っていればいい。逃げたくなったらいつでも来い」
「ダメだよ、そんなの……」
「いらないなら返してくれればいい」
鍵を彼女の方に押す。
「……甘えたくなっちゃうじゃん」
彼女は鍵をギュッと掴んで、そう呟いた。
「なにも浜野のためになるようなことはしてやれないし言ってもやれないが、客室くらいだったらいつでも貸してやるよ」
「……泣いちゃうからやめて」
「泣けばいいだろ? ここには俺しかいないし、既に見せてるんだしな」
嬉々として見る趣味はない。
泣き顔なんて見ないに越したことはないのだ。
そういう同情心で近づくのは失礼なことで、彼女もまた望んではいないだろう。
だからもし泣いたら俺はそこで帰ると決めて、窓の方に視線をやった。
「……キミが泣いてくれたら泣くよ」
「無理だな。浜野の前では泣き顔なんて死んでも見せない」
「……信用できないから?」
「語弊があったな、他の誰の前でも泣き顔なんて見せない」
同情してもらいたいわけじゃないんだ、そんなことは無意味なこと。
それになんとも恥ずかしいだろう、男なのにメソメソしていたら。
十分女々しいとは自覚しているが、だからこそ頑張ろうとしているわけで。
「なら……私も泣かない」
「そうか」
「帰ろ」
「ああ」
夕闇に包まれながら俺達は歩いた。
その間、特に会話というものはなかったが、不思議と落ち着けはした。
別れ道がやってきて、俺達は1度、足を止める。
「……また逃げたくなったら、行かせてもらうよ。鍵を貸してもらったけど、一応行く前に連絡するね」
「ああ、好きにすればいい。あそこは寂しい空間だからな」
「……来てほしい?」
彼女はまた俺の袖を掴み、上目遣いで聞いてくる。
「浜野にか? ま、来られて迷惑ってわけじゃないからな」
そうじゃなければ鍵なんて渡さないだろう。
不思議なもんだな、会話すれば言い争いになっていた俺達がだからな。
「ありがと! じゃあね!」
「おう、気をつけろよー」
彼女と別れて残りを歩いて。
家に着いたらいつもどおりソファに寝転ぶ。
心地いいが寝られる気はやはりしない。
ごはんも食べる気が起きない。
だから湯を溜め、風呂に入ることにした。
「今日も徹夜はしんどいぞ。頼むぞ俺」
眠いのに寝られないってどういうことだろうか。
精神がそこまで参っているようには感じないが……。
ベッドに寝転べば解決するのか?
「出るか……」
今日はなにもなかったし寝られることだろう。
不安になっていたらそれこそ寝られなくなるからな。
メインヒロイン……誰だ……。




