動物マスク
玄関の呼び鈴が鳴る。
出てみると、リアルなワニのマスクを被った宅配便の人が立っている。
サインをして荷物を受け取る。
「ワニですね・・・・・・」
「はい、マスクが切れてしまったので」
「・・・・・・効果、ありますかね?」
「無いよりマシですから」
「はあ・・・・・・お疲れ様です」
届いたのはスリッパで、少し暖かくなってきたし、ネットをブラウズしているうち、ついポチっと押してしまったものだ。麻編みで素足に気持ち良いがまだ足下が冷える。
食品の買い出しのために外に出てみると、動物のマスクを被った人をチラホラ見かける。象のマスクを被って自転車に乗っている人はさすがに大きな耳が風の抵抗を受けて漕ぎづらそうだ。
スーパーのレジの店員は、パンダのマスクで僕にPaypayのQRコードシートを差し出す。
マスクの不足は深刻なのだ。
仕事で会議があったので出席してみると、みんな動物のマスクを被っている。猫、馬、羊。リスは可愛い。 瞬きしない鳩はちょっと怖い。オランウータンは本当に賢そうに見える。動物ではないがスパイダーマン。効果がありそうだ。
人間は僕だけで、なんだか恥ずかしい。
「次回はZoomでやりましょうか」
チンパンジーが提案する。
帰りの電車で斜め前に座っているのはプレデター。メタルのマスクを取った生のプレデター。とてもリアルで緊張してしまう。ひょっとすると本物かも知れない。
これは負けていられない。僕は夢中になってマスクを探し始める。しかしどれも売り切れていて、僕が一番気に入ったフレンチブルドッグのマスクは半年待ちの状態。すごく残念だ。でもこのまま人間で居るのはいけないと思って、なんとか即納できるものを探し出して注文する。
日本の配送網はすごい。翌日に届けられた。配達員は鹿になっている。
「気分変えてみました」
同じ配達員だった。彼はマスクを幾つ持っているのだろうか・・・・・・
梱包を解いてマスクを装着。鏡の前に立ってみる。
エイリアンの子供が飛びついてきて顔を覆っているマスク。ロングテールが少し邪魔な感じもするけどネクタイみたいなものか。
ちょっと息苦しいけど気に入った。