天使、悪魔になる
じろじろ
じろじろじろじろ
「うーん……」
どうにもこの視線に慣れない。
女が珍しいというわけではない、と思う。
少ないがそれなりに女性も歩いているし、その人達がそれほど視線を集めている様子はない。
(やっぱり目立つよなぁ…)
自分で見て「うわー天使みたーい」なんて言っちゃったのだ、理由はわかってる。
けどだからってじろじろ見るのは、ねぇ…と半眼になりながらユニは我慢していた。
そうしてしばらく歩いているとギルドに到着した。
だがそこでユニの足は止まってしまう
(人多いなぁ……)
今は昼も昼、真昼間というやつなのだが、ギルドの中からは大勢の人間が騒いでいる声が外にも聞こえていた。
声の大きさから酒を飲んでいる者も多いのだろう、そしてこの容姿だ、よぉよぉねーちゃんと絡まれるイベントが発生するだろうし、酔った男の躱し方など聞いたこともない。
(ええい!僕も今や女だ!女は度胸だろ!)
ここで宿に帰るなんて愚かな行為は出来ない、ユニは意を決して中に入る。
からんからん
ビクッ!
入ると音が鳴るなんて聞いたことが無かったのでびっくりしてしまう、あーそういうのもあるのね理解理解。
視線が集まっているが「私が用があるのはこの世で受付だけですわよおほほ、あと今のはびっくりしたんじゃなくてよ」と言わんばかりの表情で背すじを伸ばし受付に進む。
だがやはりというべきか、イカつい男がユニを呼ぶ。
酔っては無さそうなのでナンパだろうか。
「よおよおねーちゃん!」
本音で言えばもちろん無視したい、無視したいが…。
(下手に刺激する意味が無いよね、しばらくはこの街にいるつもりなんだし)
出来るだけ敵対する人間は少ない方がいい、仕方なくということは起きるかもしれないが。
「はい?私のことですか?」
「おうおう、ねーちゃんお前だ。…わかるぜぇねーちゃん……お前、やれんだろ?」
「やれる……とは?」
なんだろう、これがナンパというやつだろうか?
きょとんと首を傾げると男は笑う
「ぷっ…がっはっは!カマトトぶったって無駄だぜねーちゃん!その身のこなしは只者じゃねぇってここの連中は全員気付いてんだ、手合わせ願うぜぇ!」
言うが早いかイカつい男は殴りかかってくる、得物は持っていないが拳に強化の魔法がかかっている気配がするので普段からそういうスタイルなのだろう。
それにしてもいきなり殴りかかってくるなんて普通では無い、受付の人や周りの人間は止める気配が無いどころか面白そうにこっちを見ている。つまりは『そういう場所』なのだろう。
「ちょっ!」
上体を反らしそれを避けるとイカつい男はヒューと口笛を吹く。
「やっぱな!そら死にたくねぇなら反撃してこいや!ええおい!?俺の拳は鉄よりかてぇぞぉ!!がーはっは!」
一瞬もう逃げちゃおうかとも考えたが、周りの人間がいつの間にかわらわら集まって来てリングのようになっているため逃げ場は無い。邪魔だし危ない。
体を反らして拳を避けつつ周りを観察し……逃げるのを諦める。
「剣出してもいい?」
「あー?どっかに仕込んでんのか?いいぜ出しても、だが言っちまったら仕込んでる意味ねぇだろ」
男が怪訝そうな顔をしているため種明かしをしてやる。
アイテムボックスに保管していた鞘に収めたままの聖剣を手に取り腰に下げ、居合の構えを作ると男はたまらんといった表情になった。
「おいおい…やりそうなやつだとは思ってたが『ボックス』持ちかよ!俺のもんにしてえ俺の俺の俺の!!みなぎって来たぜええええ!!」
男の強化魔法の出力が上がった気配がする、さっきまでのは手加減モードだったということだろう。言動から察するにレアスキルを持ってたから屈服させてこき使おうとでも思ってるのだろう。
これは良いものが見れるぞと周りは熱狂するが、それを見てユニは心の中で舌打ちする。
(なんか盛り上がってるけど、今日はこんなことをするためにここに来たわけじゃ無いんだよね)
ただ冒険者登録を済ませに来ただけだったのだ、入る前にそれだけでは済まないような気もしていたが、予想していた物とは別の面倒が起きてしまっている。
(そうだ、これからこうやって絡まれなくなるようにこの場の人達におまじないをかけよう)
予想していた類の面倒とは違ったが、これはこれで
「楽でいいや」
少し剣が長いのは気になるが、問題ない。
パチン
剣を鞘に収める音が響く
ユニはその場の全員の時を置き去りにし、男の後ろに立っていた。
「う、あ、ぎゃあああ!」
先程までの威勢のいい態度とは一転、男は泣き叫びながら崩れ落ちた。
それもそのはず、男は手首と手足を全て切り落とされていた。
「ありえねぇ……抜いたのが見えなかったんだが」
「あいつ100人抜きのブンだろ…しかも天使みたいに可愛い顔してやることがえげつねぇよ……」
「悪魔だな……だがむしろ悪魔の方が興奮するな……」
最後のは聞こえないフリをする。
さて、そろそろ良いタイミングだろうか。
「ふぅ、少しは懲りましたか?では治しますので我慢しててくださいね」
内心見慣れない血に少し慌てていたが、気持ち悪いのを我慢しなんとか「反省しましたか?」という顔を作り男に近寄る。
「っひっ…ぁ…っ…」
どうやら痛みもあるが血が流れすぎて気を失いそうになっているらしい、ゆっくり縦に首を振るのが限界な様子であった。
(まぁここまでやって反省してないなんてことはないかー…それにしてもこれ、切れ味が半端な物じゃない気がする)
そういえば能力ばかり見ていて切れ味を見ていなかった、また今度実験しよう。
剣に移ってしまった意識を戻し、男が死ぬ前に魔法を使う。
「ブラウザバック」
ユニがそう唱えると男は一瞬で先程の一切傷すらない状態に『戻る』
改めて見ても反則級の魔法であった。
「あれ?俺、なんで、手!足も!」
「はい、これでよし!もう怪しい人に声かけちゃダメですよ?」
最後にデコピンをして男に微笑み、ユニは受付で冒険者登録を済ませギルドを出る。
「なんとかなったぁ…!」
ギルドを出た瞬間小さくガッツポーズを決める。
そしてお腹が空いた、どうやら登録手続きに時間を取られいつの間にか夕方になっていたようだ。
「先にお風呂入るぞ〜」
城に居た頃から風呂が好きだったユニは軽くステップしながら帰る。
ちなみにユニがギルドを出た後は、彼女の名前を教えてもらうため男たちが受付に群がっていたのであった。
気力が持てばもう1話投稿します!
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