天使、名前を借りる。
活動拠点を手に入れた天使(?)は考えていた。
名前が無いのだ。
当たり前だが王子としての名前はある、だが今は女の姿だし王子としての自分は捨ててきたのだ、あの名前は使えない。
「うーん……このままじゃ冒険者登録も武闘会の登録も出来ないよ……」
冒険者登録も武闘会への参加ももちろん名前が必要だ、というかこの宿も本来名前が必要であるが、おじさんのうっかりである。
というか名前なんてササッと適当に決めれば良いのだが、天使は名前を決めるセンスが皆無なのか中々決められなかった。
「そろそろ決めないと日が暮れちゃう……」
既に軽く2時間は経っている、このままじゃ自分の名前を決めるだけで一日終了、そんな愚かな真似はしたくないので最終手段に出る。
「うーん…もうこうなったら知り合いから名前を拝借するか…」
最終手段のお陰で方針(?)は決まったが知り合いと言ってもそう大した数はいないため対象は限られる。
だからか自然と、とある人の名前を呟いていた。
「ユニ」
その人物は小さな頃から身の回りの世話などをしてくれ、人から受けた恩は裏切るなと口を酸っぱくして教えてくれていた執事であった。
彼はとにかく義理に厚く、そして誠実であった。
楽しい話を何度も聞かせてもらったし、その話の数以上に叱られもした、兄のような存在だ。
構ってもらうため「女みたいな名前だー」とからかってはすぐに捕まり、笑顔でゲンコツを繰り出されていた頃が懐かしい。
あの頃の出来事が全て。
「はぁ……結局ユニから受けた恩は返せなかったし、教えてもらったことも守れなかったな……」
いつか恩返しをするつもりだったが、それは叶わなかったのだ。
とある日の朝、ユニは殺された。
正確には攫われていた、であるが。
ユニの寝室には魔法を使用した痕跡があり、そこで何かが起きていたのは明白だった。なのに不自然な早さで調査は打ち切られ、元からここにはユニという使用人はいなかったかのようにみんな普通に振舞っていた。
その時の自分の不甲斐なさったら無かった。その頃既に嫌がらせが続いており、それらに対する対処で精一杯だったため余裕が無く、ただユニとの思い出を辿っては泣くだけであった。
だがそういえば、結局ユニは死体すら見つからなかったのだった。
その時は既に自分はユニはもう死んだのだと絶望するだけでユニがどこかで生きているとは一切考えなかった。
もし本当に死んでいるならその時はその時だ、いずれ自分があの世に行った時に謝ろう。
だがもし…もし生きているなら?
微かな希望を見つけてしまうともう駄目だった、期待してしまう自分を抑えられない。
だが優秀な冒険者達を集めて捜索させたのだ、きっと自分が探したところでユニは見つけられないだろう。
でも、自分がユニという名前で活動していればいつかユニの方から姿を現してくれるのでは?
姿は変わってしまったが、きっと僕だとわかってくれるだろう。何故だかそう確信出来る。
「ははっ、君が女みたいな名前で良かったよ…ユニ」
決まりだった、これからはユニと名乗り行動する。
ユニは、冒険者登録に向かうのであった。
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もう1話投稿する予定でしたが、推敲出来なかったので夜に投稿します。