天使になっちゃった
目が覚めるとテントの中で寝転がっていた。
(いつの間にか寝て……昨日のは……夢か)
昨日の夜中、怪しげなマジックアイテムに願いを込めた。
ただあれが偽物だったのか、それとも願いが明確では無かったため失敗したのか、どちらにせよ何も変化は感じられない。
(ハズレか……あんなものに頼るなんて、心のどこかで本物だったらいいなって思ってたんだろうな)
そう自嘲気味に笑いつつ顔を洗うため湖の前で屈む。
すると水面に見慣れない顔が映っていた。
(あれ……?そう言えば髪、なんでこんなに長く……)
顔は違和感あるし髪は明らかにおかしい、青年(?)は鏡の魔法を使った。
「ミラー!」
使い慣れない魔法なので声に出さないと使えない、これからは使用頻度も増えるだろうし練習しよう。
魔法で出した鏡は練度にもよるが数分しか持たない、急いで自分の姿を見る。
「なんっ……だこれ!」
鏡には『驚いた様子で顔をぺたぺた触ってる天使』が映っていた。
短くしていた銀色の髪は腰より更に伸びていてキラキラ光っていた、顔は以前の面影を残しているものの少し儚げな印象を受け女性にしか見えなくなっている。
まさかと思い男の象徴の感覚を探すがこれは『無い』
(もしかして…!)
昨日の夜なんと願ったか
『この姿のままでは目立つ』
あれが『いぇーい!女に変えてくれ!』って解釈された……?
(そ、そんなぁ…)
青年は地味な姿に変えて欲しくてああ願ったのだ、というかこの姿だとより目立ってしまうだろう。
ただ奇しくも結果だけは意図していた物である。
王子とバレる可能性を考える必要はもう無いだろう、少し面影はあるがまさか王子が王女になっているとは思いもしないだろうから。
(なったものは仕方ない、か。それよりも)
そう、それより確かめておかないとならないことがあった。
『一流の冒険者に』
これが叶えられているならば何か変化があるはずだ、それにこれも叶えられているとわかれば最後の願いも叶えられているだろうと安心出来る。
よっ、ほっ
ジャンプしたり正拳突きしてみたりするが変化は感じられない。
「となると残りは剣と魔法かなー」
先に使える魔法が増えていないか確認する。
確認する方法は簡単、自分に鑑定を使えばいいのだ。
そして自分の使える魔法を確認していると…見つかった。
『アイテムボックス』
対象を保存出来る、容量に際限は無い。
アイテムボックス内では時間等を経過させるか保存したまま時を止めるかが個別に設定出来る。
『ブラウザバック』
致命傷を負った場合や死亡した場合自動で発動、その場に新たな身体を作り蘇生する。
自信以外に使用する場合自動では発動せず、対象者が死亡してから24時間経過すると発動しない。
(これは…あのマジックアイテム本物だったんだね…)
流石にここまで強力な魔法は急に発現したりしない、間違いなく昨日の願いの効果だろう。
ブラウザバックという言葉の意味がよくわからないがきっと凄い意味があるに違いない、神様へ感謝。
そして安心する、ここまで来ると最後の願いも無事に届いたであろう。
これが罪滅ぼしになる訳ではないだろうが、目標へ1歩進んだことは間違いないだろう。
少し清々しい気持ちになったところで出発するためさっさと後片付けを始める。
このあと指輪を付けた魔法の威力と聖剣の効果を確かめなければならないのだ、時間はこの世で最も貴重なものである。
ぼんっ!
テントに魔力を込めるとまた小さな玉に戻る。
ただ一晩寝てただけなので後片付けはこれで終わりだ、すぐに魔法の火力を確認する。
「はっ!」
手から炎の玉を出す、初級魔法ファイアーボールだ。
本来であれば人1人に火傷を負わせるくらいが関の山なのだが
ばじゅぅぅぅ!
もしもの時のために湖に撃ち込んだのが正解だった、マグマの塊のような物が湖の一部の水を蒸発させまだぶくぶく言っている。
「なるほど…」
これは使えない。
どう考えても火力が高すぎるのだ。
(強敵と戦う時以外は封印だね)
そっと指輪を外しアイテムボックスに収納する。
さっさと街へ向かいたいため早速次の聖剣の能力を確認しにかかる。
魔力を込め…
がちゃんっ
レイピアのように細く槍と剣の間くらいの長い剣が地面に落ちる。
手に取り更に魔力を込めると能力が確認出来た。
『聖剣』
切れ味が落ちない、壊れない。
「うーん、当たりの方なのかな?」
もっとしょぼい能力しか持たない聖剣は多い、手入れの必要の無い剣というだけだが当たりの部類と言えた。何より刀身がとても綺麗で気に入った。
「よろしくね、相棒。」
これから命を預ける聖剣に声をかけアイテムボックスに仕舞う、ついでに聖剣という名前は寂しいので『デュランダル』と名付けておいた。
「よし!今日は街に行くぞ!」
朝から女に変わり、強力な魔法が使えるようになり、剣が手に入った。
指輪は残念だったがどこかで使えるだろう。
天使は昨日よりも断然軽い身体で街を目指す。