閑話「一方その頃魔王は」
「……っ!あれ?こ、これってもしかして……」
「……?魔王様、如何なさいましたか?」
ここは魔王城、そこの執務室で小さい手を忙しなく動かしていた少女がその手を止め、軽く身震いした。
彼女は人族で言うと12歳ほどの見た目をしており誰にでも敬語で話すため誤解されやすいが、魔王である。
魔族に多い褐色肌にクリーム色に近い白髪、紋様が薄く浮かんでいる赤目。
彼女が現魔王『サラ・シュリアス』であった。
「うーん…セバス、貴方って私が幹部だった頃から魔王軍にはいましたよね?」
「はぁ…下っ端でしたが…」
「今『懐かしい』魔力を感じませんでしたか?」
「私は魔力感知出来る範囲が狭いため何も…して、懐かしいとは?逃げ出した人間の捕虜とかですか?」
「勘違いかもしれませんが…『蛇神』様かなーって…あはは…」
数十年ぶりに聞いた名称に、セバスの声が大きくなる。
「『蛇神』様……っ!?」
歴代の魔王の中でも特に強力だった魔王、それが『蛇神』である。
6つの不思議な力を駆使し、幾人もの勇者を屠った最強の存在。
魔族の国が一番力を持っていたのがいつかと聞かれれば、間違いなく魔族はみな蛇神様が魔王だった時と答えるだろう。
「そ、そんなぁ…」
だが、普通であれば強力な魔王の復活に喜ぶはずの魔族であるセバスの顔は絶望に染まっている。
普通では無いのだ。
蛇神は目に付いた者を殺し、強者は食い、その後も満足するまで暴れ回る。
魔族も人族も関係なく。
そのため魔族の中ですら蛇神の復活を望んでいる者は極小数であった。
「あんまり長い時間感じられたわけではないですから、間違いかまだ完全には封印が解けていないかのどちらか……でしょうね」
「どうしましょうか……」
どうしましょうとは言うもののこのまま無視というわけにはいかないだろう。
復活しているなら被害を減らすように策を練る、まだ封印が生きているなら魔力が漏れていると人族に伝える必要があるだろう。
どちらにせよ誰かが確認しに行かなければならない。
「はぁ……これ私が行くしかないですよね……セバス、仕事は頼みましたよ」
「は、ひゃいっ!お任せをっ!」
見て来いと言われるかもと怯えていたセバス、声は少し裏返ったがいい返事であった。
「出来れば封印されている間に理性が発達していて私達がお仕えできるというのが理想なんですけどね。まぁ無いでしょうが、もし万が一そうなれば使い魔を飛ばします」
「はい……はい。くれぐれもお気を付けて」
「ありがとうセバス」
サラはセバスに軽く感謝しすぐに窓から飛び立つ。
魔力を感知した場所は覚えている、確か人族の街『アンター』だろう、狼の魔王であるサラであれば数日で到着する距離だ。
(セバスの前では言わなかったですけど、もし人族が蛇神様を支配する魔術の開発に成功していたら…お、終わりですねそれは)
当たらずとも遠からずなサラの想像であった。
▲▲△△▼▼▽▽
「よっ……と、あそこの街ですね」
サラが止まったのは『アンター』の近くの草原だ、ここから耳や尻尾等人族には無いものを引っ込める、この状態だと『狼』の筋力強化の力や魔力等が使えなくなるため普通の人族の少女くらいの力しかないが、まぁ大丈夫だろう。
ふふっ、それに人族の街を歩くのは久しぶりです。お金も少し持ってます、ついでに食べ歩きしちゃいましょうか。
サラは世界の危機より食欲を優先するタイプであった。
〜1時間後〜
「み、水……水……」
この補助も強化も使えない状態で歩くこと自体が久しいことを失念していたため街に到着した時には肩で息をしており、汗で身体中の水分が無くなり脱水症状で死にかける現魔王。
持ってきた水は途中で飲み干してしまっていた。
そして魔力以外は引きこもりの人間とあまり変わらないのである。
サラは水が買えそうな店を探していたところ宿屋という看板を見つける。
「宿屋……水……?」
宿屋、なんでも寝床と食事を提供する店らしい。
既に意識を失いかけてたサラは両手を上げつつ走った。
「や、やったー!優勝だー!!」
何が優勝かは普通の人間にはわからないが嬉しいといことだろう、街の人も喜んでる少女を見てほっこり。
「水!水下さい!」
「うおっ!?水ね、ちょっとお待ちを……はい、どうぞ」
「……っ!あぁ〜〜!美味しかったですっ!ありがとうございます!」
「お粗末様、気にしなくていいよ〜」
丁寧な口調の少女がちゃんとお礼を言えてるのを見ておじさんもほっこり。
可愛いが最強の世界であった。
▲▲△△▼▼▽▽
「あ〜黒い蛇ね、あの魔法使えるお嬢ちゃんなら昨日この街を出たよ」
「つ、使える……?それは従えていたという意味ですか?」
「うん?まぁ使ってたしそうだと思うよ、まぁ途中で気絶したから全くわからんな!あっはっは!」
「あはは…」
(最悪の事態です〜〜〜〜〜!!!)
このおじさんの反応からしてそれが蛇神と知っている人間はいないか、いても極小数なのだろう。
それはまだいい、蛇神を支配する魔法が成功したことを公表してないということだからだ。
だが、そんな力を個人で所有しているその女性は間違いなくこの世で最も危険な存在だ。
国が所有してる方がよほど話は簡単だ、求めてるものがはっきりわかるため交渉しやすい。
旅なんてさせずに国の中で囲うだろうから気まぐれで国を滅ぼされるなんて心配も少なくなる。
それが個人となるとどうなるか。
……個人では交渉自体にそもそも発展しない可能性があるのだ。
彼女は何を求めているのか、地位は?男は?金は?
そして地雷がどこにあるか、極論今挙げた3つを口に出した途端交渉決裂になるような潔癖な性格の可能性すらある。
「は、話を聞かせて頂き、ありがとうございます……」
「大丈夫か?なんだかフラフラだが……」
「はい……」
大丈夫ではない。
とにかくその女性を見つけよう、しばらく細心の注意を払って観察して交渉の糸口を見つけるのだ。
もし交渉出来ないとなれば、それは仕方ない。
「刺し違える覚悟です……うぅ、無理です!絶対犬死にです!」
現魔王、大変である。
総合評価ポイント200超え!感想2件目!!
どちらももーーーーーーーのすごく嬉しいです!
今日は1話しか更新出来ませんが、明日からたくさん更新でお返し出来ればと思ってます。
もちろん自分の趣味もありますが、反応を楽しみに楽しく書かせて頂けてます…!
2章も頑張りますのでどうかよろしくお願いします!




