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転生したら影でした ~死なない身体は最強なのかもしれません~  作者: 咲良 伊織
洞穴の中の影 駆け出しのダンジョンマスター
6/21

6話 ちょこっと本気を出してみよう

 いそいそいそ、いそいそいそ、俺は影に戻って、ヘルハウンドへ忍び寄る。

 まあ隠れながら進んだ所で、このヘルハウンドは俺の気配を察知する事が出来るのだろうけど。

 それでも気分的に、正面から向かっていこうとは思えなかった。


 どれだけ逃げても追跡され、排泄物を掛けられるというあの忌まわしき記憶が今も俺を蝕んでいるのだ。

 正直、ドラゴンなんかよりもずっと怖いと思う。

 怖いというよりは嫌悪感という方が正しいか。


 ヘルハウンドは俺が隠れている岩陰を凝視している為か、動きを止めていた。

 スライムくんも一応は居るというのに……本当に、どれだけ俺の事が嫌いなんだろう?


 はあ。

 取り敢えず俺は二重の影(ドッペルゲンガー)を使ってこのヘルハウンドを倒す。

 あわよくば、スライムくんとは反対の方で戦いながら、弱らせてから止めの一撃を譲る。

 まあスライムくんでも倒せるくらいにまで弱らせるなんて非現実的だろうし、普通に倒す事を目指すけど。

 正直、倒すだけなら出来そうだと思う。

 こんな犬っころに負ける気なんて微塵もしない。

 まあ負けた所で何度でも復活してリベンジマッチに挑むんだけど。


 よし、やるか。


二重の影(ドッペルゲンガー)

「グルウゥゥゥゥ……」


 俺はヘルハウンドの姿をと形を変える。

 そして俺が変身した途端、露骨に敵意と殺意を剥き出した。

 でもヘルハウンドが敵意を向けてきた所で何も怖くない。


 何故なら変身した事により、俺の身体能力は物凄く上がっていたからね。

 体の体重を感じない程にこの体は軽かった。

 重さをまるで感じさせないこの筋力……少しだけ懐かしいなぁ……

 まあ今はそんな事を懐かしんでいる場合じゃないか。



 俺はヘルハウンドの死角へと軽く跳躍してから、喉元目掛けて牙を走らせる。

 結構な速さだった筈なのだが、普通に躱された。

 うーん、この体は確かに優秀なんだけど、やっぱり同じくらい向こうも速いのね。

 まあ二重の影(ドッペルゲンガー)は明らかに相手の能力をコピーする類いの能力だし、仕方が無いか。


 なんて俺が考えていると、ヘルハウンドは口元に炎を収束させ始めた。

 えっと、さっきのブレスを見る限りは直撃は避けるべきだろうけど、岩陰に隠れればやり過ごせるかな?

 少なくともヘルハウンドの周りを高速で走り続けるとかだと躱せそうに無いだろうし、岩を盾にするべきか。


 いつブレスが来るのかとヒヤヒヤしながら、急ぎ足で厚さ3m程もある巨岩の後ろへと隠れた。

 うむ、これなら大丈夫だと思う。


 あれ、でも溜めている時間がさっきより、長い様な――

 ――熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱い、熱いっ!!!


 あっ、消えた。

 物凄く全身が熱くて痛かった!!

  死ぬかと思ったわ!!

 って、気が付いたら二重の影(ドッペルゲンガー)の体が消滅していた。


 でも、スライムくんに変身した時は何にも感じなかったのに……

 もしかしてスライムくんには痛覚が無かったからのかな?

 少なくとも何度も味わいたい痛さでは無かった。


 まあ勝つためならある程度はウェルカムだけどね。

 あ、決して俺に被虐趣味がある訳では無い。


 ……でも考えてみると、別に避ける必要は無かったかな。

 寧ろ炎を口に集め始めたその時こそ攻撃のチャンスなんだ。


二重の影(ドッペルゲンガー)


 だって、この通り、直ぐに再生出来るんだから……

 俺は決死の突撃を何度でも繰り返せばいい。

 この糞犬が死ぬまで――それだけで本当に倒せるのかな?

 少しだけ不安になってきた。

 でもまあ俺が選べる選択肢なんてそれくらいしかないし、失敗する事なんて考えても仕方がない。

 何度でもこの体を再生出来るんだから、駄目ならまた後で考えればいい。

 一応はMP切れの不安は付きまとうけれども。



 取り敢えず、ヘルハウンドへ真っ直ぐ、頭から突っ込む!!!

 そして一瞬で噛み殺してやる!!

 おりゃあああ!!!!


 ヘルハウンドは回避行動を取ると思っていたけれど、回避行動を取ろうとする動きすら無かった。

 いいのかな、あと一秒と経たずに俺の牙はこいつに到達するよ?


 それでも、ヘルハウンドは動かない。

 それなら、そのまま突っ込むだけだ。

 首を少しだけ擡げて噛み切って――


 ――がぁっ!?

 俺の首から血が吹き出している!?

 動きを読み切られて、首を裂かれたんだ!

 流石に直線的な攻撃では簡単には倒せないか。


 ……それでも、俺は何度でも復活出来る。

 こういう戦闘方法の経験は無いけれど、同格の相手なんだから、捨て身で攻撃をし続ければ――それだけで倒せる? 慣れないこの体で? 本当に?

 ……無理かもしれない。

 少なくとも俺なら、負けはしないだろう。

 がむしゃらに振られる剣筋など、目を瞑ったって避けられる。

 もしも剣さえあれば――

 剣が無くたって、ヘルハウンドの様にスキルさえ使えれば――


 ……あ、もしかして、俺もヘルハウンドのスキルを真似したり出来ないかな?

 えっと、口を開いてメラメラさせてから、一気に吐き出すだけだよね?

 肺に空気を流し込んでから一気に吐き出せば、俺だって同じ体なんだから――

 フゥゥー、スゥーッッッッッ。

『スキル【影真似】を獲得しました。』


 スキルを獲得出来たっ!!!

 そして俺が口を開いた隙に、ヘルハウンドは突っ込んでくる!!


 この時を狙ってくると思ってたよ!!

 それでも、相打ちなら俺の勝ちなんだよ!!!

 今度は俺がこの炎をお返しする番だ!!!


「焼け焦げろ、消え失せろ、ヘルブレスっ!!!」


 ヘルハウンドの体を地獄の業火が包み込む。

 そして、それと共に焼け焦げた臭いが漂ってきた。


 炎に焼かれたヘルハウンドの様子を伺うっても全く動き見られなかった。

 どうやら絶命したらしい。


 よし、これで復讐完了だ。

 MPを確認してみると、残り13しか無かった。

 意外とギリギリの勝負だったらしい。


 まあ変身していた時間を省みれば、寧ろ残っている事の方がだけ意外なのかもしれないけれど。


「スライムくん、終わったよー。」

「え、本当に勝っちゃったんですか!?」

「もちのろんだよ、ヘルハウンドなんかに負けはしないのさっ。」


 俺は親指を立ててスライムくんに余裕を見せつけた。

 一応はダンジョンマスターなのだから、これを機に少しは頼りにしてくれればいいんだけどね。


 そんな事よりも、スライムくんのレベルが上がったかどうかの方が大切か。

 ヘルハウンドの魔力をスライムくんが吸収したら、いきなり進化とかもしそうだと思うけど――


「それよりもスライムくんのレベルは上がったかい?」

「さあ、分からないです。特に身体能力の向上を実感したりはしていませんし。レベルが上がった際にテレレレッテッテッテー、とか音が鳴るんですかね?」


 もの凄く独特な効果音だな。

 どういう思考をしたら、レベルアップした時にそんな音がすると思うんだろ?


「いや、知らないけど、何その効果音。」

「知らないなら別にいいです。あ、僕のステータスはどうなっていますか? そしたらレベルが上っているかは分かると思うんですけど。」


 俺が確認するのか? 上司である俺が確認するのが普通なのかな? まあ別に面倒臭くは無いからいいんだけど。


「ステータスオープン。」


 ……って、あれ?

 俺のステータス画面が出てきた。

 つまりは自分のステータスしか見られないってことなのかな……?


「ごめん、見れないっぽい。スライムくんが自分で見てよ。ステータスオープンって言えば開けるでしょ?」

「そうなんですか!? ステータスオープン! って、本当じゃないですか!! うひゃー、やっぱり異世界なだけありますね!!」


 何か知らないけど、感激して体をぷよぷよさせ始めた。

 そして喜び方が少しだけ気色が悪いと思いました。

 魔王軍の守護者の品格としては失格だと思います。

 まあ軍を指揮したりしたら威厳も自然に出るしいいか。


「で、どうなの? レベルは上がってたの?」

「レベルは1ですね……。そんな事よりも僕のスキルの種類が少ないんですけど。5つしか無いです。」


 内容は知らないけど、ダンジョン関連のスキルを抜くと、確か俺は8個だったっけ? 

 でもまあ、俺とスライムくん以外の事情は知らないけれど、5個もあるなら十分なんじゃないのかな?

 俺のスキル数は増えてきているから、最初は少なくてもそんなに心配する必要は無さそうだし。


「俺の場合は色々スキルが増えていってるし、スライムくんも直ぐに増えていくと思うよ。俺だってそんなに多くなかったし、それだけあれば十分でしょ。」

「そうは言いますけど、基本的には視力とか音とかそういう系統の日常生活で必須レベルのスキルしかないんですけど……。」

「日常生活で必須レベルのスキルすら持ってなかった俺がここに居るんだけどね……」


 俺なんて変身していない時は相変わらず視界が無いからね。

 そろそろ新しいスキルが出てきてもいい頃なんじゃないかな?

 視力の獲得を出来たりはしないかな?


『スキルの獲得に失敗しました。魔力量が不足しています。』


 へっ?

 突然出てきた!

 えっと、もう少し魔物を狩って魔力を増やせばスキルを増やしていけるって事だろうか?

 つまり魔王として魔力を集めまくれば、何でも出来る万能な影になれるってことなのかもしれない。


 まあ、今はそれよりもこの事をスライムくんに教えてあげよっと。


「スライムくん、魔力量次第でスキルって増やせるらしいよ。」

「突然どうしたんですか?」

「いや、スキルが欲しいなーっと思ったらそういうメッセージが出てきてさ。」


 って言ってもこの前では出なかったし、条件がよく分からないけどね……

 もしかして出てたけど気付かなかったのかもしれないかな? まあいいや。


「つまり僕も飛ぶスキルが欲しいと思ったら獲得出来るってことですか?」

「いや、無理じゃない?」

「……ですよねー、もう少し簡単な事から始めればいいんですかねー?」

「そんくらいは自分で考え――」


 ――背後から、殺気?


 しかし背後を振り返ってみても、相変わらずヘルハウンドは焼け焦げているままだった。

 ヘルハウンドの目が開いている訳でも無いが、それでも確かに殺気は感じる……

 もしかしてヘルハウンドが瀕死で何とか意識だけは取り戻したのかもしれない。


「マスター、ヘルハウンドの死体がどうかしたんですか?」

「あ、いや、瀕死ではあるけれど、生きているみたい。止め、刺す?」

「えっと、体当たりでいいんですかね?」

「そんくらいは自分で考えてよ。ステータス見た訳でも無いんだから。」

「了解です。」


 そう言うと、スライムくんはポヨポヨと倒れているヘルハウンドの所まで近付いていった。

 今のヘルハウンドにはスライムくんの体当たりを耐えるだけでの体力が無かったようで、体が徐々に塵となって崩れていき、消え去った。


『守護者のレベルが成長限界へと達しました。ダンジョンコアに近付いて進化させて下さい。』


 おお、今のでスライムくんのレベルがカンストしたらしい。

 あっ、でも経験値が勿体無かったのでは……?

 何度も進化して成長していくシステムなら、スライムがカンストする経験値なんて少なめだろうし……

 ヘルハウンドを倒すのはもう少し後の方が良かったか。

 勿体ない事をしてしまった。


「マスター! レベルが上がりましたよ! 進化出来るそうです!!」


 そう言いながら近付いてくるスライムくんは、心做しか胸を張って偉そうに見えた。

 でもまだスライムなんだけどね。


「そう、良かったね。じゃあ一度帰ろっか。」

「はい!」


 帰り道、浮足立ってスライムくんはぷよぷよ跳ねていた。

 少しだけ可愛いと思ってしまった。

 でもよく考えてみると、スライムってマスコットキャラだもんね。

 だから可愛さにめんじて放っておく事にした。


 因みに帰り道、スライムくんは他の魔物に見つかって死にました。

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