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22話 化け物に遭遇しました

 宿屋での乱闘騒ぎから逃げる様に寝室へと向かった後、エリスは直ぐに眠ってしまった。

 思えば、俺と出会うまでもダンジョンの調査クエストをしていたらしいし、そらからも洞窟の魔物狩りや村を助けたりと少々オーバーワーク気味だったのかもしれない。


 そんなエリスを横目に、俺は夜の街へと出ていった。

 これと言った目的がある訳では無かったのだが、何となくこの世界の文明レベルを知っておけば後々役立つだろうと思ったのも理由の一つである。

 が、それよりも単純に興味があったというのが大きいかもしれない。


 中世的な世界観のだと思ってはいたのだが、意外と道は舗装されていた。

 馬車がすれ違っても通れる程の広さを確保している事から、スキルや魔物と言った物が存在しているこの世界でも、やはり馬こそが物流の基本なのだろうか。


 そんな通りの両端には古びた家屋が並んでおり、その近くで馬車を避ける為だろう、僅かな道幅を所狭しと人が歩いている。

 あれだけ密集していても問題無く人の行き通りが出来ている辺り、普段からこれ程の人口密度なのだろうが、何だか都会の日本人に少し似ている気もする。


 それでもやはり中世的な世界観なだけあって、何というかここら辺にある建物や道全てが薄汚れていて不潔そうだった。

 本来ならある程度の衛生状態を保たなければ疫病などが発生するのだろうが、スキルを使用するだけで重傷の人間を癒やす事すら出来るこの世界ではその必要も無いのだろう。

 それ故に、あまり衛生観念と言った物が発達していないのかもしれない。

 とは言っても、歩いている人間からは別段その様な背景を感じなかったのだけれども。


 魔道具という存在もそうだが、魔物やスキルと言った概念があるこの世界ではまた違った文化や価値観が発達しているのだろう。


 そんな街並みを眺めながら、俺は狐の仮面を付けながら月に照らされる夜の空の中を宛もなく飛んでいた。

 ……うん、ここら辺は少し飽きてきた。


 国の中央に行ってみようかな。

 中央へと向かっていくにつれて、明らかにその家屋の質や土地の広さまでもが向上している事が、遠目から見てもはっきりと理解出来た。

 流石に王城の周辺にまで見て回るつもりは無いけれど、それでも綺羅びやかな光で照らされている貴族街という物に興味を惹かれた。


 そしてある建物を見つけてしまった。

 そこは一際高い壁で囲まれた屋敷であった。

 何も考えずに歩きながらその側を通るだけではただ高いだけの壁に映るだろうそれは、空を飛んでいる俺からしたら明らかに、外部の者には決してそこで起きている事を見せないという意思の現れのようにも思われた。

 まあ、ただ単に外から見られたくないというシャイな人間が住んでいる可能性もあるけれど。

 んーしかし、貴族という物は見栄を張ってまで豪華な器具を買い、それを見せつける事で己の権威を知らしめる生き物なのではないのか?

 なら、どうしてそこまで高い壁を作る必要があるのだろうか?


 そんな風に考えて、つい興味本位で俺はその壁の内側の敷地を覗き込んでしまった。

 だがそこには、異様としか呼べない光景が広がっていた。

 中央には病的なまでにやつれた少女の人形が磔にされており、その周りには松明を掲げられたメイド達が佇んでいた。

 皆一様に血の気が引いた様な青ざめた肌の色をしたそのメイド達は、磔にされている人形を虚ろな目で見つめていた。


 ……えっと、これは何かの儀式かな?

 まさか貴族様がこの後出てきてメイド達に見守られながら――って言う変態プレイの一環なのかもしれないけれど。

 かなり適当な予想ではあるが、あの人形に何かを憑依させるのではないだろうか?

 仮にそうだったとしてもそれがどうしたという話にはなるが、まだ知らないこの世界の勉強にはなるだろうし見ていこうかな。

 幸い俺は空を飛んでいる、そうそう気付かれる事もあるまい。

 それに仮に気付かれたとしても、仮面もしているし影に戻ってしまえば俺が誰なのかなど誰にも分からない。


 そして直ぐに、屋敷の中から一人の少女が出てきた。

 黒を基調としたドレスを羽織り、肩まで伸びる純白の髪の毛をなびかせた美しい容姿の少女だった。

 そんな彼女の姿に見惚れていると、彼女は突然その真紅の瞳を俺に向けて、ニヤリと残忍な笑みを浮かべた。


「あら珍しい、可愛い女の子が遊びに来てくれるなんて~。」


 そして俺は悟った。今の俺だと確実に殺されるという事を。

 明らかに魔力の質も量も桁が違う……逃げないと殺されるだろう。それもいとも簡単に、赤子の手を撚る様に。


 その瞬間俺はそう判断し、俺は踵を返すと同時に、何かによって俺の身体が真っ二つになっている事を理解した。


 影の身体に俺の意識が引き戻される。

 が、恐らくこいつは俺が影に戻った所で、逃がしてはくれまい。

 再びダンジョンからこの街まで戻ってこなければならないが仕方があるまい。

 ダンジョンへと一時撤退だ。


「【帰還】」

「【ディスターブマジック】。ざんね~ん、失敗しちゃったね~。魔物だったんだね~。じゃあ興味無いかな~?」


『スキルの使用に失敗しました。』


 ……はい、この作戦は失敗しました!

 って言うかそんなのありなの? まずなんでこんな化け物がこんな所に潜んでいるんだよ!

 何で最初の街にこんな最強クラスのは魔物が潜んでいるべきだろ!

 ふざけんなよ!!

 ああ、糞がっ!!


 ……俺が使える切り札、【真なる影(トゥルーシャドウ)】を使うしかない。

 たったの7秒という限られた時間の中で、最低でも俺への追跡ができない程のダメージを与えなければ、俺は死ぬ。

 だが、覚悟を決めるしかない。やらなければ、やられる。

 幸い、こいつは人間では無いようだ。安心して殺せる。


「【真なる影(トゥルーシャドウ)】」


 俺の本体が顕現したと同時に7秒の時が動き始める。先に動いたのは少女の方だった。

 彼女は目に見えない程の細い糸で、俺の体を横に引き裂こうしてくる。

 そして俺は【魔力感知】の精度を上げて、その攻撃を把握する。

 人間の体故に【魔力感知】を怠っていたが、今は直感的に使用していた。

 指の動きに合わせて動く広範囲のその攻撃を、俺は軽く跳躍して回避する。

 先程まで見えなかった宙に煌めく糸が、今では手に取る様に分かった。


「あら、思ったよりも強いのかしら?」 


 攻撃の正体が分かった今なら、余裕で殺せるっ!

 今の俺の身体能力なら確実に。


「あまり時間は無いんだ。悪いがこれで逃げさせて貰う。」

「……そう、その自信が一転して絶望に染まるのが楽しみね~。」


 この身体には、俺の前世で修練してきたのであろう、ステータスに存在していた【剣聖】の称号に恥じぬ剣技が染み込まれている。

 だから俺はこの身体に刻み込まれている記憶に身を任せるだけでいい。

 圧倒的な身体能力と剣技の前に敵はいない。

 ただ少女の正面で、知覚すら出来ない程迅速に、剣を振るうだけ。


「【影刈り】」


 少女の肉体を真っ二つにしつつ、そのまま影を刈り取った。

 どうしてただの剣聖の記憶の中にこんな技があるのかは知らないが、こんな影を刈り取る剣技があるのだから使わない手はあるまい。

 これを受けた対象者は、本体と影が切り離されて、暫くの間本体は廃人になる。

 放っておけば意識を取り戻した本体と影は互いに引き付けあって元に戻ってしまうが、それだけの時間があれば逃げ切れるだろう。


 7秒という時間の中では流石にこいつの生命を削り切れない可能性もあるし、それなら確実に逃げられる手段を選んだのだ。


 という事で、後は全速力で逃げさせていただきます。

 真なる影(トゥルーシャドウ)が解除されても今の俺には翼もある。

 とっととエリスの所へ戻って、グータラしていようっと。


 これからは興味本位で危なそうな所に近寄らないようにしようと思いました。

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