1/53
『プロローグ』
天高く背を伸ばす大樹のひしめくその森で、そこだけが赤く染まっていた。
抉られぶちまけられた血と、炸薬によって焼け爛れた肉の残骸が散乱する。下半身を失い双眸から光を失った遺体とモニター越しに目があった気がして、シュンは目を眇めた。
地獄の様相。閉鎖された多脚戦車のコクピット内にまで濃密な血臭がしみ込んでくるような。かすかに忘我し、不意に我に返る。
そうだ、こうしている場合ではない。思い直し、巨木の並ぶ森林へ視線を向けた。救援に行かなければ。
「──待ちなさい」
突然。
聞こえた気がして、シュンは操縦桿を引いた。回頭。
ホロスクリーンのメインモニターには、変わらぬ地獄が映るだけで──否。
立ち上る煙の向こう側。凛とたたずむ少女が一人、研ぎ澄まされて美しい剣を構えて佇んでいた。