ついに上陸!
やっと仏谷の集落が間近に迫ってきた。しばらく小さな防波堤の内側や集落の様子を観察してから、少し離れた砂浜に上陸する事に決めた。
何故なら、キャンプ禁止の大きな立て看板が海上からも見えたからだ。やはりこの土地も、一部の心無い人達のせいで悲しい方策を取るようになったみたいやなあ。
そしてついに、小さな入江になった浜に上陸。
ほんのしばらくの間離れていただけだが、大地に再び触れて無上の喜びが込み上げてくる。
出航してから約2時間、午後10時を回っていた。俺は今、何故こんなにも気持ちが充実してるんだろう?嬉しさのあまり叫び出したくなった。
もしもあの時、傍から見る者がいれば…イソイソと必死で浜に上がる漂流難民みたいに思えたやろなあ。
しかし上陸したは良いが凄まじい風雨が叩きつける状況の中、そんな事を考える余裕もなく急いで愛艇を引き上げてキャンプの設営を始めた。
まるで風雨と競争するかのように、必死で浜の立木を利用してタープを張りテントを組み立てる。
設営が終わり一息ついたら無性に腹が減ってきた…タープの下に腰を降ろし、愛艇から引っ張り出したハムをワイルドターキーと一緒に貪るように食べる。
腹が少し落ち着いてくると、またなんとも幸せな気分になってきた…ほんまに俺って単純で判りやすい奴やなあ…と薄笑いしながら思ったりする余裕も出てきた。
腹立たしい事に、こっちが必死でやっと居心地が良いねぐらを設営したとたん、風雨のやつはまるで見計らったように収まってきやがった。
まあ自然現象にいつまでも腹を立てても仕方ないよな。
ナイロンの薄い布切れ一枚なのに、何故か不思議な安息感のあるテントに入り、体を包んでくれるシュラフに潜り込んで寝よう。
でもその前に、少しだけ本を読みたいな。今夜は野田さんの本にしようか、それともSFにしようか…幸せなひと時の迷いの内にいつしか充足した眠りに入っていた…。