31話 テストと罰ゲーム2
夕里から電話があった後、僕はすぐに荷物をまとめて夕里の家に向かった。
その時、僕は机の上に置いてあった紙によく目を通しておかなかった。その紙には目の前にまで迫っているテストのことではなく、また別のことについてのことが乱雑な筆跡で書かれていた。『夕里ちゃんには気を付けて!』と。
自宅から徒歩1分。僕は夕里の家の玄関前で夕里が扉を開けるのを待っていた。インターホンを押してから30秒ぐらい経った頃だろうか。さっきまで無かったはずの気配が夕里の家を囲んでいた。僕は何か嫌な予感がし、扉に手をかけるとあっさりと扉は開いた。まるで、推理モノの漫画でよくある既に被害者が出ているかのような感じがした。
家の中に入ると、先ほどまで外でしていた気配は2階の一室。そこは夕里の部屋だった。僕は予め体全体に鬼の力を入れてから、部屋の扉を開けたと同時に1本のナイフがとんできた。
(あっぶね~。飛び出てたら刺さってた。……なんで今、部屋からナイフなんてとんできたんだ?しかもこのナイフ、漫画で目にするような暗殺者が使うかのような物だ。だとすると、夕里は死んでる可能性が……いや、まだ生きてるな。僕に電話してきたのは5分ほど前。電話してきた時すでに、敵は家の中にいて夕里を脅して僕を呼んだ。そうすると、電話で言ってた「両親はいない」は既に殺されていると考えていいか。もし、僕が部屋に飛び込んで敵を抑えるとしても、向こうにはナイフという投擲武器を持ってる。能力をフルで使っても多分、刺さる。……ハァー行きたくねーこういう時に天邪鬼がいればなー。……そんなことを思っても助けなんて来ないし、僕が解決しないと)
僕は持っている荷物を静かに置いて、体に力を入れる。体は一気に筋肉質になり、普通の人間の打撃は効かない程度の硬さになった。
(よし!あと3秒で飛び込む!3……2……1!今だ!)
部屋に飛び込むと予想通りナイフがとんできた。それを左腕で受けると、驚くことにすべて弾くことが出来た。それが分かった僕は標的を確認しようと前を見ると、部屋には夕里しかいなかった。
(どういうことだ!?夕里しかいない。だとすると、さっきと今のナイフは……)
僕が驚いていると、夕里はどこからかさっきと同じナイフを今度は10本を同時に投げてきた。最悪なことにナイフは全て人間の急所を狙ってきた。
(顔に2本、首に1本、上半身に3本、足に4本か。マズい、これはマズい。足の4本を跳んで避けたとしても、残り6本は当初の場所とは違うところに来る。しかも、ガードし損ねると即死とはいかないが大ダメージになるかも。……やるか)
僕はその場で跳躍し、足に向かってきた4本を回避したあとすぐに腕をクロスし上半身を守るが1本だけだが、腹に刺さってしまった。
(クソッ!腹は腕と比べたら防御力は高くないから刺さっちまった。多分、腸には届いてないから問題ないけど、動くたびに痛たい。とても痛い。ハァーどうしたものか。彼女と戦うって、案外気が引けるなぁ。仕方ないか、ここでやらないとこっちがやられるからなぁ。ごめんな、夕里。あばら骨と腕の骨を貰うよ)
僕はナイフが刺さったままの体で夕里に近づき、人間では見えない速さで右腕を折る。続いて左腕も折ると、やっと夕里が声を上げた。その声は自分が知っている夕里の声ではなかった。声は掠れ、男みたいな低い声が聞こえた。
(操られているのか?だとすると、僕では倒しきれないかも。エクソシスト、日本だと陰陽師が近いかな?その人を連れてこないと無理だなぁ)
その時、頭の中ではある人物が浮かんだ。僕はその人がいる家に電話を急いで掛けるとすぐに出てくれた。
「もしもし?日當瀬先輩ですか?」
「そうだよ。どうしたの?」
「すぐに九尾を貸してください!僕の彼女の夕里が何者かに操られたんです!」
「君の彼女は知らないけど、そっちの状況が何となくだけど分かった。今すぐに行く。で、場所は?」
場所を伝えて電話を切った瞬間に、夕里?の足が鳩尾に入った。
(息ができないし苦しい、気持ち悪い。今すぐにでも吐いてしまいたいが、隙が生まれて先輩たちが来る前に僕がやられる。骨は天邪鬼に治してもらえばいいし、今は残った足を折るしかないか)
僕は足に力を入れ、夕里の右足の関節にしがみつき普段曲がる方と逆の方向に曲げる。あたかも手羽先を食べる時に見たいに思いっきり。
足は簡単に折れ残された左足で立とうとするもバランスを崩し転倒した。
『とりあえず、今はこれで大丈夫だろう。残った左足ではもう何もできない。……にしても、先輩たち遅いなぁ』
僕がそんなことを思っていると、家のチャイムが鳴った、やっと先輩たちが到着した。
急いで階段を降り玄関の鍵を開けると、勢いよく扉が開いた。
「ふぅー、ごめんね。遅くなっちゃった」
「申し訳ない」
2人が謝っていると、もう1人いることに気づいた。その人物は夕里の部屋がある2階を見つめていた。
「先輩、なんでこの人も?」
「いやー、九尾に付いてきちゃったんだよ。まぁ、居たら居たで心強いしね。さて……九尾、やるよ」
「了解」
九尾は廊下で変身すると、すぐに青の扇を手にした。そして、先輩はあの鎌を広げて立っているが、一緒についてきた百鬼夜行は特に準備もせずに僕の横にいた。
先頭を進んでいた九尾は部屋の入口に青の扇を投げ、投擲武器防止の壁を築いた。そのうちに九尾と先輩が入口の両サイドを囲む。
氷の壁に今度は赤の扇で少し穴を開けてそこから小さく丸めた紙を投げ入れた。その紙は夕里の近くに落ちると、徐々に広がっていき左足に張り付いた。僕は張り付く瞬間に、紙に書かれていたものが見えた。それは今の字体、すなわち楷書ではなく英語の筆記体みたいな字体をした文字が並べられていてすぐに『札』だと分かった。
札を張られた夕里は禍々しい声をあげると、気を失ったのかだらんと後ろに倒れたのを見計らって九尾は壁を消し中に突入した。




