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あの日から僕は  作者: 稲荷 里狐
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25話 狗神と九尾3

 前回のあらすじ。僕たち3人は百鬼夜行を封印した妖怪「狗神」と対峙していたところに、狐の耳を生やした女性「九尾」が現れた。どうやら2人には因縁があるらしく僕たちの代わりに戦闘を始めてしまった。百鬼夜行を賭けて。

 九尾が狗神にとどめをさす為に準備をしていると、九尾の主である女性が襲ってきた。その女性は僕の本質を見抜くと、手にしていた鎌で首を切り落とした。

 そして、死んだ僕を待っていたのは封印されていたはずの百鬼夜行だった。


 

 

 「なんで、ここに貴方がいるんですか?狗神によって封印されたはずじゃ……」

 「確かに、私はしっかり封印されたよ。でも、あの程度じゃ私を封印するには及ばないよ」

 百鬼夜行はそう言うと、立ち上がり壁に手を当てると何も無かったこの部屋に照明や机などの家具が急に出現した。僕は今のことに驚くと、百鬼夜行が「いいね~その顔。私としてもやった甲斐があるよ。ささ、イスにでも座りなよ。ここから解放されるまで話をしようよ」と言いながら、イスに座る。それに続いて僕も着席する。

 「君がこの部屋を知っているかどうか知りたいんだけど、どう?知ってる?」

 「知らないです。以前にもここに来たことが有る気がしますけど、思い出せません。夢だったのかもしれませんせんし……」

 「そう……ここは『死者の箱』って言ってね、現世で死んでもまだ生き返る余地がある者だけ来れる部屋。そして、ここは『第二の死』と言われている。この名前の由来はもう察していると思うけど、死を2回迎えたのに生き返る見込みがある者が来る。私はもう来ることなんてないと思っていたけど、まさか君に引きつられてくるなんて思ってもみなかったよ」

 そう言う百鬼夜行はどこか懐かしさ覚えた表情をしていた。

 (そうだよな。僕なんかよりもこの人の方が多く死んでるから懐かしくなるのも当然だよな……にしても、妖怪って死ぬんだな。不死身だと思っていたから死っていうのがないのかと思った)

 僕はなぜ百鬼夜行がこの部屋にいるのか聞くと、百鬼夜行は明るく「私や九ちゃんほどの妖怪でも簡単に封印されるけど、それは見た目だけ。効果は消し去ることが出来るから空間の行き来なんて簡単。でも、部屋からは抜け出せないんだよ」と言うとバナナを出現させてもしゃもしゃと食べ始めた。

 「貴方の能力は何なんですか?」

 「私の能力?名前は特にないんだけど、効果としては自分が想像した物が出せる。例えば……」

 百鬼夜行は立ち上がり、右手を前に出すと何も無い所から日本刀が現れた。百鬼夜行は日本刀を握ると、左手に出したリンゴを投げ、目に見えないほどの速さでリンゴを斬る。斬られたリンゴは地面に落ちる前に消えた。

 「どう?これが私の能力。かなり使い勝手がいい能力だよ」

 「そうですね。さすがランキング3位と言うのも納得です」

 「嬉しいなぁ~マスターはそんなこと言わないし、九ちゃんもそう言ってくれないんだよ~あの子は自分で狩った妖怪を私が倒したことにするし、ランキングには興味ない見たいだし可愛い子なんだけど、あの口調のせいで友達が少ないんだよね」

 百鬼夜行が九尾のことをペラペラと話し始めた。その話をしている時の百鬼夜行の声色は今までで一番明るかった。

 (九尾のことが好きなんだな……僕にはそういうことを話せる奴はいないな。夕里だって昔のことを話せるかどうかも怪しい)

 「九尾が今の口調になったのはいつからなんですか?」

 「えっとーいつだったかな?確か、2年前だったかな?」


 2年前……

 私、百鬼夜行は友達である九尾と霊界の自室に集まっていた。

 「九ちゃん。次も2人で行く?」

 「うん!私と夜行ちゃんの能力があれば問題ないよ!」

 九ちゃんはそう言うと、尻尾を振る。私はその毛並みがよさそうな9つの尻尾に顔を近づけモフる。

 九ちゃんの9つもある尻尾はどれもすべすべで私の髪とは比べ物にならないほど綺麗で美しかった。

 私が付け根の方からモフるため、毎回九ちゃんのかわいらしい声が漏れる。その声を聞くたびに身体がぞくぞくした。

 (この声を聞くたびに身体が火照る。九ちゃんが男だったら今すぐにでも仕掛けるけど、女の子だからなあ……そうだ!口調だけでも男っぽくなれば少しは満足できるかも!)

 「九ちゃん。ちょっと口調を男っぽくしてよ」

 「なに?いきなり……それってしないとダメ?」

 「うん。いいからいいから」

 九ちゃんはわざとらしく咳をしてから私のお願いした男口調をする。

 「夜行。お前は俺だけのものだ。……キャー恥ずかしい!」

 「……九ちゃん。なんでそのセリフ?」

 「いや~ね?思いついたのがこの前買った漫画に出てきたのしか思いつかなくて……」

 「そ、そうなんだ……」

 (なんだろう……嬉しくない。セリフが悪いのかな?それとも、いつもの口調に馴染んじゃってるからかな?もう一回だけね)

 私がもう一度お願いすると九ちゃんは顔を赤くしながら嫌がる。

 「なんで?」

 「だって私は女の子だよ」

 「そうだけど……私は九ちゃんの別の一面も見たいの!だから、あと一回だけでいいから!お願い!」

 「わ、わかったよぅ。だから、頭上げて」

 私は下げていた頭を上げると、九ちゃんは少し驚いた顔をしていたけど優しい顔をしていた。

 (なんか、私のお母さんみたい。ママみを感じるなぁ。)

 私がそんなことを思っていると、九ちゃんは準備が整っているのか少し緊張した面持ちで立ったいた。

 「じゃ、お願いします!」

 「コホンッ。夜行。俺は、お前とこれからを生きていきたい。だから、俺と付き合ってくれないか?」

 九ちゃんから出た言葉は私の想像の斜め上を超えるものだった。

 私は反射的に「はい……」と答えてしまった。

 (私ったら、ついOKしてしまった……もしかして、九ちゃんは真面目にこれを受け取ってしまったのか?)

 私が九ちゃんの所を見ると、顔を赤くしてしゃがんでいた。お腹が痛いのかと思ったら、恥ずかしさで蒸発しそうだと言っていた。その九ちゃんを見て私は猛烈に興奮した。

 (やっぱりさっきのがいいね~キュンキュンきたし)

 私はそう思いながら九ちゃんの頭を撫でた。


 「ていうのが、あったんだよ。懐かしいな~」

 「で、被害者である九尾とは今でも仲が良いんですか?」

 「ひ、被害者って……ま、まぁそれは置いといて。九ちゃんと?今ではあまり遊んだりしないんだよね」

 「それって、完全に貴方のせいじゃないんですか?」

 僕が皮肉そうに言うと、百鬼夜行は何か悲しそうな表情をした。

 その表情は、罪悪感からきているものではなく何かもっと違うものからきているのだと僕は思った。

 

 

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