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あの日から僕は  作者: 稲荷 里狐
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16話 強襲と笙

 自室で制服に着替えていると、思った通り天邪鬼たちが帰ってきた。

 「おかえりー」

 天邪鬼たちから「ただいま」が返ってこなかった。

 妖怪と言えど、人の家に住んでいるいじょう最低限のマナーがあると思う。僕はそれを伝えにリビングに行くと思いもよらない奴がいた。

 

 そこにはカラスみたいな黒の翼が生え、頭には髪飾りなのか竹で出来た楽器みたいなのを付けた黒髪の女性が冷蔵庫を開けて中を覗いていた。

 「……え?」

 (何?あれ。妖怪?泥棒?さては、七五三田のところのやつか?)

 僕がその女性を見ていると、こちらの視線に気づいたのか魚肉ソーセージを食べながらこちらを向いてきた。

 「だぁれんだ?」

 「すいません。口の中の物をしっかり飲み込んでから話してください」

 僕がそういうと、女性はすぐに飲み込んだ。

 「お前は誰だ」

 「こっちのセリフだよ!」

 急に大きな声を出したからか、女性はビクッとしたかと思ったらいつの間にか錫杖を手にしていた。

 「え?ま、待ってくれ!僕は別にあなたに敵対してるんじゃないんだ」

 「本当か?ならばその証拠をだせ」

 「証拠か……」

 僕は着ていた制服を脱ごうとしたら女性が慌てた声を出しながら、顔を隠した。が、手の隙間からしっかりこっちを見つめていた。

 「お、お前!い、いきなり脱ぐなんて変態なのか?」

 「違うわ!あなたが証拠出せって言うから脱いだだけだ」

 「まさか、誘っているのか?」

 「誘ってなんかいないよ!あなたの方こそ変態だろ!この痴女!」

 「は?」

 この瞬間、女性のオーラが変わった気がした。明らかに「殺してやる!」というオーラだ。

 僕が後ずさりした瞬間、女性が目の前から消えた。

 「え?」

 僕は目の前で起きたことに理解が出来なかった。足りない頭で考えようとしたら、僕の後ろから女性の声がした。

 「この痴れ者に制裁を!」

 女性はそう言うと錫杖が白く光った。すると、それをバットを振る要領で振ってきた。

 「あっぶな!」

 僕はギリギリのところで躱すと、すぐに2撃目が来た。それも躱すと僕は台所に走り込み、包丁を手にする。

 包丁を構えて前をみると、誰もいなかった。僕は死の危機から脱したかと思ったら、耳元に「ブンッ」と言う音が聞こえた。

 (マジかー。これは避けられないわ。ここで死ぬのかな?はぁ、童貞を卒業してから死にたかったな)

 僕は死を覚悟すると、頭にとてつもなく大きい衝撃が来た。僕は残った力で状況を見ると、女性が持っていた錫杖が白から黒に変わり僕をフルスイングで吹き飛ばしていた。僕は飛ばされた衝撃で、台所から10メートル離れた窓ガラスを突き破り庭で飛んだ。

 (あははは。もう体に力が入らないし、瞼も重くなってきた。少しなら、いいよね?)

 僕はそのまま意識をなくした。


 「……僕!」

 (な、なんだよ。もう少し寝かせろよ。僕は疲れているんだ)

 「……う僕!」

 (あーもううるさいな!起きるよ!起きればいいんだろ!) 

 随分長い時間寝ていたのか、どことなく体が重い。僕は頭をかこうとするが、腕が上がらない。動かそうと意識すると、痛みが走った。

 「っ痛」

 僕が痛みで目を開けるとそこには泣いて顔がぐしゃぐしゃになっている天邪鬼とキャットがいた。

 「どうしたんだ?2人とも泣いて」

 「心配したんだぞ!このまま君は目を開けることはないんじゃないか心配したんだぞ!」

 「そうだニャ。私たちが帰って来ると、リビングはぐちゃぐちゃだし、窓は割れてるはで大変だったニャ」

 「そうだったんだ。……あ!あいつは何処に行ったん……痛!」

 「じゅ、従僕。君の腕は折れているから動かさないで。で、君の言っているあいつはあれで間違いない?」

 天邪鬼が指さす方を見ると、縄で縛られて倒されているあの女性がいた。

 「ああ。間違いない」

 女性は錫杖を持っていなく大人しく倒されていた。僕は視線を女性から天邪鬼に移した時、ここにいるはずのない奴を見つけてしまった。

 「なぁ、そこにいるのは七五三田か?」

 僕がそう言うと、奴は僕に近づいてきた。

 「そうだが何か?てっきり逃げたかと思っていたが、こんなことになっていたなんてな災難だったな」

 七五三田はそれだけ言うと、女性の方に近づき縄を切った。

 「起きろ。お前はここで何をしている」

 「それは……」

 「ま、待ってくれ。七五三田、その女性と知り合いか?」

 「そうだ。こいつは百鬼夜行の中の一体。『しょう』と言う。まぁ、どんな奴かは分かっているだろう」

 「分かってる。『痴女』と言うと、問答無用で殺しにくるんだろ?」

 「正解」

 「七五三田。今日のところは帰ってくれないか?」

 「分かってる。俺もその気だったからな」

 それだけ言うと、笙を百鬼夜行の中に入れて帰って行った。

 正直、キャットも持っていくかと思っていたが違ったみたいでよかった。

 「君、骨折していて辛いだろうから僕が担いで行ってあげるよ」

 天邪鬼がなんか得意げに言ってきた。

 「いいよ。このぐらいは自分でも行ける」

 僕が拒否すると、天邪鬼はシュンとしてしまった。多分、従僕を守り抜けなかったことに責任を感じているんだろう。こいつは、責任を感じるとすぐに挽回しようとする性格だから拒否されると凹むんだな。まぁ、天邪鬼まで元気が無くなると、罪悪感で押しつぶされそうだから僕は1度断った提案に賛成することにする。すると、天邪鬼はすぐに元気になって僕をおんぶした。

 (さすが鬼。力持ちだな)

 僕はそんなことを思っていると、天邪鬼が階段の中腹で立ち止まってしまった。

 「どうしたんだ?」

 「あはは……従僕、僕はもう歩けない。ごめんだけど、降りてもらえる?」

 天邪鬼がすまなさそうに言う。

 「ここまで、ありがとうな。お前には迷惑をかけたな」 

 「そ、そんなことないよ。これは僕が好きでやっているだけだから、気にしないで」

 「分かった」

 僕は天邪鬼の背から降り、自分の足で自室まで向かう。 

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