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#3

 お昼休み、開放された中庭の春の陽射しは私にとって大好物で、なんとも言えないまったりとした空気に身体を浸らせていた。周りには芝生でお弁当を食べているグループがいたり、寝転がっている男子生徒がいた。時たま奇声に似た笑い声が至るところから上がっている。中庭は校舎に囲まれる形になっていて、廊下の窓から中庭が見えるようになっている。窓からは上級生が顔を出しているのも見えた。中庭は良く手入れされており、園芸部が作った温室や花壇には色とりどりの花と植物でいっぱいだった。あと一月もすれば今はまだ小さい蕾のバラが咲き乱れるのだろう。その美しさと香りを考えると今からでもワクワクする。でも、それよりも一足先に私をうっとりさせてくれそうな存在が庭の中心にあった。それはとても大きな桜の樹。樹には今にも咲き出しそうな蕾みが出来ていて、もうすぐきっと美しい花が咲くのだろう。樹の下には小汚いベンチとテーブルが幾つか設置されていて、しばらくの間誰も使っていないのは明らかだった。でもその雰囲気は居心地がとても良かった。私と百合はイスとテーブルに陣取り、睡魔との戦いをしている真っ最中だった。

「ねぇウイカ…面白い話して」

暇を持て余した百合が呟くように話し出す。

「面白い話しですか…じゃあ素敵な王子様とばったり遭遇しちゃう妄想なんてどう?」

妄想話しは私達にとって得意分野だ。

「白馬に乗って?」

案の定、百合は食い付くように即答する。

「そう、白馬に乗ってるの」

「…この中庭に?」

「そう、颯爽と現れる」

「あぁ〜ユリの王子様はいつになったら現れてくれるの〜っ」

百合は天にある何かに伝えるように、空を仰ぎながら叫んだ。

「そのうち現れるから安心しなって」

呆れながらも、優しく諭してみる。

「高校生になってもう3日目だよっ!それなのにドコを見てもじゃがいもしかいないじゃないっ!何なのこの高校はっ!こんなんだったら私立にしとけばよかったぁ〜」

百合は立ち上がり私の目の前でテーブルをパーで叩きながら一人エキサイトしている。百合はとても可愛い。本人は気付いて無いのだろうか?廊下で歩いていても、男子生徒が振り向いて百合を見ていることを。スラリとした身体と、整った顔。私から見てもそこら辺の女には勝てないだろうと思う…のだけど、なんと言うか、その性格は外見と裏腹でとにかく熱い。

「まだ3日でしょ、あと2年11ヵ月高校生活は残ってます」

冷静に発言しながら立ち上がり、校舎出入り口へ向かって歩き出した。

「え〜行くの?もうちょっと居ようよ〜!」

駄々をこねるように言う百合の声に立ち止まり、回れ右をして言う。

「次の授業なんだったか忘れちゃったんだもん…それにあと10分でお昼終わるよ?」

「もう〜?次の授業なんだっけ〜…あ、そうだ次、選択!」

バタバタと百合が自問自答しながら追って来る。出入り口で百合を待ち、追い付いたところで校舎に入った。



 一年生の教室は4階にある。登るだけでも一苦労だと階段を目の前にするだけでいつもゲンナリした。各階の廊下では男子生徒が大騒ぎをしながら走っていたり、先輩であろう女子生徒が床に座り、化粧を直している。横目でその光景を見ながら階段を登り続けた。

「…選択?じゃあ百合とは別ね」

途中さっきの百合の言葉を思い出して、聞き返した。

「も〜どうしてウイカ音楽取らなかったの?」

「あ〜アタシも音楽にしたかったけど…音楽って高いじゃない?」

私は苦笑いをしながら答える。1年生の選択授業は芸術科目で、入学前に好きな科目を選ぶことができたものの、迷うことなく一番教材費がかからない科目を選んだ。

「でもさ、確かモエもゆーちゃんも音楽だよ?せっかく4人そろえるはずだったのに〜」

百合は少し口を尖らせながら残念そうに言った。

「うわ、アタシだけ仲間はずれ〜?」

正面を見たまま、寂しがる百合にちゃかすように言った。中学からの仲良しと一緒に授業を受けるのは、まだ知らない顔ばかりの高校生活ではかなり魅力的な話しだが、百合が思っているほど私は寂しくもなかった。いや、でも、やっぱり心細いのはあるかな…。

「百合ーウイカーっ」

教室の前に着いたところで、誰かが私達の名前を呼んだ。声がする方を百合と同時に向くと、2クラス離れた距離からモエが両手を振っているのが見えた。横には棒付きのアメをくわえてるゆーちゃんの姿も見える。

「モエー!ゆーちゃーん!」

百合が答えるように2人の名前を叫ぶ。すると、モエはゆーちゃんの手を引き全速力でこちらに接近してきた。

「次、選択でしょっ?一緒にいこっ」

2人の手には真新しい音楽の教科書があった。

「モエっゆーちゃんっ聞いてよっウイカったら音楽じゃないの!」

百合がモエに抱き着きながら訴える。

「えっ?」

「えーっ?」

モエとゆーちゃんが同時に似たようなリアクションをする。

「知らなかった、ウイカ何にしたの?」

「あー…」


キーンコーンカーンコーン


私が口を開こうとした瞬間、予鈴が鳴った。

「あ、教科書と筆箱持って来なきゃ、百合もでしょ?」

「うわっヤバい、ちょっと待ってて〜」

私達は急いで教室へ入り、必要な物を持って再び廊下へ出た。廊下で待たせたモエとゆーちゃんと全員で走り出す。音楽室の前に着き、3人にじゃーねぇーと軽く別れを告げた。

「ウイカはどこ行くの〜?終わったら行くからっ」

百合が寂しそうに叫ぶのを聞いて「ここ」と音楽室の隣にある美術室に指を指した。


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