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出会い

初投稿です。温かい目で読んでいただけると喜びます。

拙い文章と語彙力で分かりにくいかもしれませんが、最後までお付き合いください。

  昔から変な夢を見る。

  濃い靄がかかった空間に1人の女の子が佇んでいる。

  名前も顔も分からない彼女、でも何処か心安らぐ自分が居た。

  必死に何かを伝えようとしている、けれども俺にはその声を聞くことができない。読唇術が使えたのなら良かったのだが、入り混じった雑音のせいで全くその内容が分からなかった。

  いずれ目が覚める。そうすれば、彼女のことも忘れてしまうだろう。

  けれど、俺じゃない誰かが訴えている。

  忘れてはいけない、決して。

  視界が揺らいできた。ピピピ、と耳の片隅からアラーム音が聞こえてきた。現実世界から迎えがきたようだ。

  覚めたくない、そう思いながらも彼女の姿がどんどん遠ざかっていく。

  君は誰なんだ?


『ピピピピピピピーーーーーーーーーーー』

  けたたましいケータイのアラーム音で目が覚めた。目の前には見知った天井、もう朝が来たんだなと悟った。ベッドから出ていつものように制服に着替える。ふと何か引っかかることがあるが、まあ忘れることなんだから大したことはないなと振り切り、通学鞄を手に自室を出た。

凰華(おうか)、今日は早いんだな」

  リビングに入ると既に兄さんが座っていた。

  時刻は7時、まあいつもよりは早いけれど、たぶんあの夢を見たからだ。引っかかるような後味の悪さで、いつも解る。

  テーブルには目玉焼きとトースト、簡単なサラダといった朝食が並んでいた。これは総て兄さんが作ったもので俺とは似ても似つかない兄だ。

霜月皇都(しもつきおうと)はすらりと背が高く、雑誌モデルの仕事をしている大学生だ。外国に行っている父母の代わりに料理や洗濯、掃除などの家事を完璧にこなしている。俺も手伝おうかとは言うが、残念極まりない不器用さのためか、兄さんからは手を出さないよう言われている。情けないな。

「今日、早く帰ってこれるか?」

  え、ああ、うん特に何もないし大丈夫だけど、何かあるのだろうか?

「お前に会わせたい人が居る」

  俺に会わせたい人? そうか、兄さんにもいよいよ春がきたのか、身内ひいきなしにイケメンだからな。でも俺、極度の人見知りだけど大丈夫なんだろうか?

「大丈夫だよ、そんな気構えなくても」

  お前とも相性ぴったりの女の子だから、と笑って兄さんは食器を片付け部屋を出て行った。

  どういう意味だ? まあ兄さんの彼女だし、付き合いやすいに越したことはないけど、何か引っかかるものがあった。これが、娘を嫁に出す親の気持ちってやつなのか?

  あれこれ下らないことを考えつつ残った朝食を頬張って皿洗いし、俺もリビングを出た。兄さんの靴はすでになく、もう家を出たのか。

  階段を上がり通学鞄を取ると、俺も少し早いけど家を後にした。


  俺は、この世界が嫌いだ。

  毎日毎日将来に何の役に立つのか判らない勉学を強いられ、大して面白くない話に付き合って適当に笑って、そして家に帰って寝る。こんな辟易するような日常の繰り返し。

  それに比べて、漫画の主人公は何と魅力的なんだろう。ある日、異世界に突然召喚されたり、自身に眠っている特殊な能力が目覚めたり。そんな奇異現象が起きないかずっと願っていたけど、何も起きず俺は諦めた。

  そんな性格の所為か、他人も俺と距離を置くようになり自然とクラスからは孤立した存在になっていった。俺としては気楽で良いんだけれど。つ、強がってなんかないんだからね。

  学校へ着きスリッパに履き替え教室の戸を開くと、ガヤガヤといつもの五月蝿い喧騒がする。

  自分の席に着いて教科書を入れて、いつものように机に突っ伏す。得意の寝たふり技だ。これなら、あのリア充共も俺に話しかけてくることはあるまい。まあ、そもそもそういう人居ないんだけどね。

  そう思ってたのも束の間、とことこと俺の元へ近づいてくる足音が聞こえてきた。

「あんた、またそんなことして。クラスに溶け込めないわよ」

  顔を上げると、そこには小動物のように小さな顔に、細い身体。さすが学園のアイドルと呼ばれるだけはある。

「別に溶け込めなくていいよ。どうせ、こんな薄っぺらい繋がりなんて俺には不要だし」

  面白い時だけつるんで、いざって時は平気で他人を裏切る、俺はそんなのが嫌いだ。もっとお互いを支え合える関係があるんじゃないか、どんな時でも困っていたら手を差し伸べられる、そんな繋がりが俺は欲しい。

  だけど、そういうことを言うと。

「そうやって漫画の世界に浸ってたら現実で困るわよ」

  咲良(さくら)さんは決まって、こう言う。

  俺にも解ってる。中二であろうと、そんな繋がりなんかこの世には存在しないんだってことも。

  俺が暫く無言でいると、咲良さんも諦めたのか、自分の席に戻っていった。だいたいクラス、いや学校の中心に居るような彼女が俺と関わっていい訳がない。俺のことが好きなんだろうか? いや、そんなラブコメみたいなこと、ある訳ないし彼女はクラス委員だからお情けで俺に声をかけているに違いない。

  やがて「席に着け」の掛け声と共に、担任が教壇に上がりホームルームが始まる。今日も退屈な日常が始まった。

  機械的に授業を受け見事に拘束から解かれた俺は、急ぎ足で家に帰るべく教室を後にした。早く帰らないと兄さんに叱られる。

「霜月くん」

  昇降口に着き、自分の番号のロッカーに手をかけたところで声を掛けられた。誰だと声のした方へ向くと、そこには坊ちゃん頭のメガネ少年、田中くんが立っていた。学年トップとの噂で印象深かったのか、名前をちゃんと憶えていたぞ。

「君は咲良さんと仲が良いみたいだけど、一体彼女とはどういう関係なんだい?」

  田中くんはハンカチで汗を拭う。

  何だ、そんなことか。別に咲良さんとは仲が良いっていうんじゃなくて、ぼっちである俺に同情して声を掛けてくれるのだろう。

「そうか。それならいいんだ」

田中は踵を返して、駆け足で去って行った。

  田中は咲良さんのことが好きなのか、ふーん、人気あるもんね。噂では咲良さんの親衛隊も結成されているらしく1年生は勿論、2、3年生も所属しているらしい。どこの漫画の世界なんだか。

  おっと、いけない。早く帰らねば、と俺は靴を履いて学校を出た。


  おかしい。

  近道で帰ったはずなのに、完全に道に迷ってしまった。大して迷うほど入り組んでもないんだけれどな。

  見ず知らずの商店街に出た俺は、何か見知ったものはないかとキョロキョロ視線を動かすも方向音痴の俺が何も分かるでなく途方に暮れる。

「鳩羽公園?」

  そんな折、『鳩羽公園』の看板を見つけた俺は一休みするべく、そこに入っていく。兄さんに怒られるのは確定してる訳だし、まったりと無事に帰り着くことだけを考えようじゃないか。

  何か聞こえる、そう入口から入る際に思っていたが大学生らしき男が3人ほど群がっていた。あまりあの人たちと関わりたくないし止めようかなと思ったが、どくんと心臓が跳ねた。

  大学生たちの先には1人の少女がいた。年齢は同じぐらいで、雪にも負けない白い肌、腰にまで届く長い銀色の髪、エメラルドのように綺麗で澄んだ翠色の瞳、まるでどこかのお姫様のように可愛い女の子だ。

  何だ、俺の身体が鉛のように重く動かない。どうしちゃったんだよ、俺。

  様子を見るに、大学生たちが彼女をナンパしているようだ。如何にもチャラそうな彼らは少女を逃がすまいと三角形で囲んでいる。

「ねえねえ、オレたちと一緒にお茶でもしに行こうぜ」

  少女は何も答えない。怖くて何も言えないのだろうか。

「何も言わないってことは、了承の返事って捉えてもいいんだよね。よぉし決まった、さあ行こう」

  少女の肩をガシッと掴んで、男たちは公園の出口に向かう。やっと去って行ったと思い、ベンチに座る予定だったんだが

「…………待てよ」

  気付けば、俺はそう発していた。「あん?」と舌打ちし、男たちは一斉に俺の方へ向く。

  なに言ってんの、俺。絶対関わっちゃダメだろ。

  ぞろぞろと不良たちが俺の元へやってくる。

「なにお前、女の前だからって勇者でも気取ってんのか?」

  いや、別にそういう訳じゃないよ。ただ、俺にも理由なんて解らない。口が勝手に動いただけだからな。

「意味わかんねえんだよ」

  ゴスッ、と鈍い音ともに左頬に重い衝撃が走った。

  あー、そうか。俺、殴られたんだ。

  情けなく数メートル後方に飛ばされ倒れ込んでしまう。

「何だよ弱っちいじゃねえか」

  男たちはゲラゲラと大笑いする。くそ、なんて弱いんだ俺は。

「どうしたよ、もう終わりか?」

  倒れ込んでいる俺の腹を一発、また一発と蹴っていく。正直痛みで意識を失くしそうであるが、不思議と意識を失くすことはなかった。意識を失くせば楽に越したことはないんだけどな。

  今のうちに逃げてくれ、不良たちの足の間から見える少女の姿を見るとぼーっと、その場で立ち尽くしている。

  嘘だろ、こんなに注意引いてる俺の行為を無下にするつもりなのか?

「懲りたか、ガキ。2度と邪魔すんじゃねえぞ」

  すっきりしたのか、不良たちは最後に一発蹴りをいれてぞろぞろと俺から離れていく。

「待たせたね、お嬢ちゃん。さあ行こうか」

  少女の腕をぐっと掴み、公園の出口へ歩いていく。

  結局無駄に痛い目に遭って終わりじゃないか。何してんだよ、俺……。恨むぜ俺の身体。

「なに寝てんだよ、凰華」

  俺の目線の先には、兄の姿があった。

「兄さん……」

「後は俺に任せろ」

  それだけ言うと、兄さんは俺の視界から消えていった。ギャー、とかワーとか聞こえてきたところからすれば、おそらくあの不良たちの元へ行ったんだろう。兄さんは腕っ節も良いからな。

  あの女の子も助かる、そう思って安堵したのか、俺の視野はぼやけていき意識を失くしていった。


(ダメ、あの子には関わらないで。そうじゃないと、絶対に後悔する)

  意識を失くしている間、どこか懐かしいような、それでいて安心できる声がずっと聞こえていた。

お読みいただきありがとうございました。

続きはなるべく早く書きますので、何卒よろしくお願い致します。

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