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マッチ売りの少年

マッチ売りの少年と1匹のネコ

作者: ゆきや

「マッチを買ってくれませんか?」

どれくらいの人に声をかけたことだろう。

だれも、振り向いてくれない。

希望も凍りつくほどの寒さに身を震わせる。

今は冬。

周りの人たちはみんな、暖かい洋服を着ている。

ぼろい布きれをまとっているだけのボクとは大違いだ。

まともなご飯を食べたのはいつだろう。

ふと、そんなことを考える。

あれは、母が死んだ時から始まったっけ。

母が死んだ途端、父は厳しくなった。

今まで食べていたような豪華な食事は消え、パンをひとかけら食べられればいいほどになった。

それもいつしかもらえなくなって、ある日父は言った。

「この籠に入っているマッチをすべて売るまで帰ってくることは許さない。」

そういうが早いか、ボクは外に放り出された。

マッチは100箱はある。

こんなに大量に売れるわけないのに。

父もさすがにあれは冗談で言ったのだろう。

だって今の時代にマッチを買う人なんてないだろうし。

とりあえず、買ってくれる人はいないか探す。

でも、やっぱりいない。

夜になって、さらに寒くなった。

父が待っている我が家に向かって歩く。

「お父さん、ただいま。家に入れてよ。」

そういいながら扉をたたくと、父が出てきた。

「マッチは全部売ってきたのか?」

帰ってきたのはお帰りではなかった。

「売れるわけないよ、父さんだって今時マッチは使わないでしょ?」

そう答えた。そうしたら、

「そんなことは関係ない!言ったはずだ、マッチが全て売れるまで絶対に返って来るな!」

と、怒鳴られた。

ボクは泣きそうになった。

あれは冗談で言ったわけじゃなかったのだ。

でも、今はライターなんていう便利なものがあるのに、なぜ父はマッチを売らせるのだろう。

やはりボクは父にとって邪魔な存在でしかないのだろうか。

認めくはなかった。

でも、それが正しいような気がした。

ボクは、気を取り直して歩き出す。

誰かマッチを買ってくれる人がいるかもしれない。

そんな期待を胸に。

…今はそんな希望は持っていない。

だって、あれから毎日買ってくれる人を探していたけど、いないのだ。

マッチは1つも売れないし、空腹ももう限界に近づいて来ている。

そんな時だった。

「にゃー」

足元にすり寄ってきた黒い影。

それは、ネコだった。

黒いネコは白い雪をかぶることで、いっそう綺麗に見える。

時々ボクを見ながら歩いていくネコ。

ついて来いと言われているような気がして、その後を追った。

その先にあったのは、洋服がたくさん入っている袋だった。

黒いネコはその袋をあさった。

そして、ボクに合うサイズの服を一枚持ってきた。

黒いネコは、ボクが受け取ったのを見ると期待した目で見ていた。

服を着替えると、満足そうに

「にゃー」

と鳴いて、どこかへ消えてしまった。

それからも、そのネコは現れた。

食べ物を持ってきてくれたりした。

2日に1回のペースで。

でも、急に来なくなった。

今日は来る日のはずなのに、待っていても現れない。

嫌な予感がして、走り出す。

途中の裏路地を見ると、黒いものが横たわっていた。

それは、あの黒いネコだった。

そして、もう死んでいたのだ。

どうしてもっと早くに気付けなかったのか、後悔と同時に街の人たちに対しての恨みの念がわいてきた。

ボクがマッチを売っても買ってくれない人たち、ネコが死んでいるのに気が付かない人たち、そのすべての恨みが1人の人間に向った。

……父だ。

ボクがこんな目に合うのも、あの黒いネコが死んでしまったのも父の責任だ。

ボクはマッチを持って走り出した。

いまだに空腹だけれど、それはあの黒いネコも同じだろう。

そう思い、走る。

家にいることは分かっている。

ボクは、マッチを1本すって、火を付けた。

それを父がいる我が家に向かって投げる。

1本じゃ足りないから、100箱分全部。

燃えている家は、とても幻想的だった。

焼け落ちた家にあったのは、きれいなお金。

家の中に、あの人は見あたらなかった。

だから、それを持ってパン屋さんに行った。

そして、大きなパンを1つ買った。

それを持って、黒いネコのところへ走る。

黒いネコはそこにいた。

パンを半分にしてたべる。

とてもおいしかった。

必死にパンを食べていた僕の周りに大人がいる。

「マッチ売りの少年だな?」

ボクの名前ではない。

けれど、ボクはそう呼ばれていた。

だから、

「そうだよ。ボクのマッチが全部なくなったんだ。今は久しぶりの食事中だよ。邪魔しないで?」

今の状況を教えてあげた。

そう、これはお祝いなのだ。

全てのマッチがなくなったから、ご飯を食べていいんだ。

でも、大人たちはそれを許さなかった。

「マッチ売りの少年、放火・殺人の罪で逮捕する!」

そう言われて、捕まってしまった。

縛り付けられた体。

お祝いの途中だったのに、邪魔をされてしまった。

でも、どうせならあの黒いネコと一緒にお祝いしたかった。

あのネコは死んでしまった。

とても悲しいことだけど、もう復讐は済んでいる。

では、なぜぼくは縛り付けられているのだろう。

ボクは放火・殺人の罪だといわれたけれど、何の事だか分らなかった。

ボクは焼身刑と言われて、足元に火が近づいてくる。

周りからは、

「悪魔」「人殺し」「まだ幼いのに」「マッチ売りの少年が…」

そんな言葉が聞こえた。

処刑人が

「言い残すことは?」

と聞いてくる。

「ボクのお祝いの時間を邪魔するなんて許せない。あの黒いネコが死んだのはみんなのせいだ。ボクは何も悪くない!」

それが言い終わると同時に、火がつけられる。

ボクは祈った。

この街の人間が、炎によって焼かれることを。

ああ、母さん。迎えに来てくれてありがとう。


……

その後、この街を炎が覆った。

少年を焼き尽くしたあの炎が巨大化したのだ。

その炎は、ネコの形をしていたという…


                                  END


何の曲を聴きながら書いたか分かったでしょうか?シリアスな雰囲気になるか、スカッとするかは個人次第です。ここまで読んでいただき、ありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] サクッと読めて良いです!頑張って下さいね!応援します!
2017/09/20 17:44 テストオワタ
[良い点] 話の脈略がとても良いと思いました。 短い話の中でも情景描写がはっきりしていることが特によかったです。
[良い点] 素晴らしかったです。短い中に起承転結がバッチリあって、いろんな感情が沸き上がる。 展開も見事、オチも見事。さらに読みやすい。 ほぼ文句なしの作品です。 [気になる点] 若干、悲しすぎるかな…
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