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戦慄のクオリア  作者: 音無砂月
新章 トライゾン決着編

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隼人VSテレサ・マックフェイス

 トライゾンの艦隊は完全にエデンの港に到着してしまった。艦隊の側面に描かれた国旗を隠す様子もない。

 「ごきげんよう」と堂々とした登場。其の顔に天使の微笑みを意識した素晴らしい笑顔が張り付けられている。自分が招かざる客であることを理解していない愚か者だと隼人は思った。

 隼人は伯明と一〇人の軍隊を連れて艦隊を出迎えた。登場したテレサに全員の銃口が向けられるがテレサに怯えた様子はない。其れどころか余裕の笑みさえ浮かべて見せる。

 肝だけは据わっているようだ。其れとも此の状況が理解できないぐらい馬鹿なのか、隼人は決して表には出さなかったが内心狼狽えていた。

 隼人の隣に居る伯明は怪訝な顔で艦隊に居るテレサを見つめる。

 テレサは優雅な足取りで艦隊から降ろされた階段を下りていく。

 「上陸許可は出していません。お戻りください」

 大きくはないが叱責に近い声で隼人は言った。だが、テレサは全く気にも留めなかった。彼女を止める人間が艦隊にはいないのかと伯明はテレサを警戒しながら視線艦隊に向けた。

 入口の近くで立っている青年は侮蔑に近い瞳でテレサを見つめ、其の隣に居る艦長と思しき男は呆れたようにテレサを見ていた。

 テレサを全員止められず仕方がなく付き合っている感がありありと伝わってくる。情けない連中だと伯明は舌打ちした。

 隣に居た隼人には伯明の舌打ちが聞こえていたが聞こえないふりをした。

 「止まりなさい!」

 もう一度強く隼人は言い伯明に視線を移した。其れだけで伝わった伯明は部下に指示をし、一人が威嚇射撃として一発撃った。

 銃弾はテレサの足元に落ちた。テレサは何処で初めて足を止めた。

 「許可もなく上陸する。此れを冒すは侵略と同義。あなたは二年前の過ちを繰り返すつもりですか」

 「大臣殿」とテレサは優しい声音で言う。

 「艦内でわたくしの側近であるルドルフに聞いたのですが」

 視線を向けられた先程テレサに侮蔑の眼差しを向けていた青年は一礼する。どうやら彼はルドルフというようだ。

 「日本には国王の代わりに天皇というのが居るそうですね。其の者とお話をしたいの。国を統治する者同士」

 其れはつまり隼人に「大臣風情では話にならない。分を弁え下がりなさい」と言っているのだ。

 伯明を始めとした軍隊からは怒りがテレサに向けられ、其れを艦内で見守っていた船員からは息を呑む音が聞こえそうなほどハラハラした表情をしていた。

 「日本に国王は居ない。其れは周辺諸国にとって周知の事実。其れを知らないとは驚きました」

 隼人はテレサの勉強不足を指摘した。

 「そうね。世界はまだまだ広い。きっとわたくしやあなたが知らないことなど山ほどあるのでしょうね」

 なんの意図も含まれていない言葉なのか、其れとも「あなたは人に言える程世界の何を知っているのか?」という皮肉が混じっているのか。

 テレサは本当によく分からない人間で相手をするのに疲れると隼人は笑顔の裏で思った。

 「我が国に天皇は居ません。三〇年前、天皇はサウロンから国民を守ろうと自らを盾にして死にました」

 「まぁ。其れは悲しいことですわね。ですが立派です。新しい天皇はいらっしゃらないのですか?」

 「ええ。ですから話は私とすることになりますね」

 「そうですか。では、話は早いですね。わたくしの要望は変わりません」

 そう言って再びテレサは止めていた足を動かし始めた。

 「他国を侵略することを選びますか?」

 隼人は冷ややかな声で聞いた。

 「其のような愚かしいことしないわ。今は手を組んでサウロンという強大な敵を倒す同士。わたくしはただあなた方と仲良くなりたいだけです」

 「確かに共通の敵は居ます。ですがそんなことお構いなしに牙を剥けてきたのはトライゾン(そちら)でしょう」

 「一部の愚か者が我が国に居たことはとても悲しき事実です。既に処断しました」

 「処断?」

 「ええ。日本侵略を指揮したブルーマ・クリフトは捉え、処刑しました」

 『処刑』という意味が分かっているのか?と思わず疑ってしまいたくなるような顔で彼女は言った。無知ゆえに残酷さを備えた子供のような印象を隼人は彼女から受けた。

 「だからもう大丈夫なのですよ。あなたがたを脅かす存在はもう居ません」

 「あなたの存在は我々の安寧を脅かしていますよ」

 「怯えないでください。わたくしは彼らとは違います」

 「ふざけるなっ!」

 軍人の一人が叫びテレサに向けた銃の引き金にかけらて指に力が込められた。彼は撃つ気だ。そう察しは隼人が伯明の名前を呼ぶのと彼が動き其の軍人を取り押さえるのは同時だった。

 引き金は引かれることなく伯明によって取り押さえられた。男の目からは涙が浮かんでいた。

 「死んだんだ!お前らが侵略して、俺の女房と子供を殺した!まだ、まだ二歳になったばかっりなのに」

 悲痛な叫びに伯明は悲しい目で軍人を見た。

 「まだ、二歳だったんだ。女房の腹にはまだ子供が居た。アンタらが殺したんだ!」

 「其れはとても痛ましいことですね」

 情のこもった無慈悲な声が上から振った。伯明や周りに居た軍人の怒りのこもった目がテレサに向けられた。

 「ですが安心してください。そのような悲劇はもう起きません。関係者は全員処断しましたから」

 「嬢ちゃんよぉ、其れが何だっていうんだ?」

 仲間を取り押さえたまま伯明は怒りを込めた声でテレサに言った。

 「どんなにアンタが処分をしようが此奴の家族はもう帰っては来ないんだ。アンタが殺したんだ」

 「違います!」

 初めてテレサは声を荒げた。彼女の目には初めて怒りが込められていた。

 「わたくしは知らなかった」

 「其れではすまないのですよ、テレサ・マックフェイス女王」

 静かにけれど侮蔑と怒りだけはしっかりと込めて隼人は言った。

 「あなたは王です。臣下の行動を監視し、諫めるのも役割の一つ。知らなかったではすまないのです。寧ろ其れはご自身の王者としての資質を貶める発言になります」

 テレサは自分を落ち着かせるつもりで一度フーッと息を吐いた。

 「あなたは大臣だから分からないのですよ。王としての役割が。一人で国の統治をすることは不可能。役割分担は必要です。そして己が職務を全うできないものを処断するのが王の役目です」

 先程の軍人の叫びで止めていた足をテレサは再び動かした。

 「どうしてもあなたは其の足を止める気はないのですね」

 「はい。まずは自分から歩み寄らなければ」

 最早怒りすら湧かない。

 「捕縛しろ」

 隼人の短い命令が告げられた。足をエデンの地につけたテレサは捕縛された。テレサは抵抗しなかった。此れも彼女の言う「歩み寄り」なのだろう。

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