「惜しまれることなく去っていってしまった、少女の話をしようか」
あれから、どれくらいの月日が経つだろう。…あぁ、まだ一回忌だった。
「また、来る。じゃあね。」
墓石の前で立ち上る線香の煙。風に揺られて消えてゆく煙。
痛いほど分かったさ。人の命なんて、この煙のようにあっという間に消えていってしまう、ってさ。
「…君のために、僕に何が出来るだろう」
こんな独り言、もう聞き飽きたな。と言っても自分が発した言葉なのだが。
* * *
「新しくここで働くことになりました、葉翔矢 千刃と言います。よろしくお願いします」
木々を揺らした春風とともに、僕の悪夢の一年は始まった。なぜ警察組織に入ったのかは覚えてないが、戦闘の能力を買われたのだろう、スカウトだったかな?しかし、私服でいられるのだから、楽なことこの上ない。人を守ることには変わりないから、防弾チョッキとやらを付けさせられている。どうやら僕らを潰そうと考える者たちがいるようで、そいつらと戦うらしい。なんだかとんでもないところに入ったようだが、一つ下の妹はとても楽しそうに先輩方と挨拶をかわしている。
「ほら、兄さん、ボケッとしてないで仕事だよ!」
「……あぁ。行こうか。」
少し上の空だったが、妹が声を掛けてきた。そういえば初日から早々に任務押し付けられてたな。新人の定めか。
任務は僕たち警察を潰そうとしている組織、『D’s』とやらの動向を探れとのことだった。そして、任務に着いた、その時だった。僕のすぐ横で、血飛沫が飛んだ。なぜだ?僕らは今日配属されたのだ。ついさっき来たばかりなのだ。それなのに、奴らは僕の妹……穏菜の心臓を銃弾で貫いた。
「…兄さん…私…え…ぁ…」
「喋るな穏菜!お、応急手当さえすればきっと、……」
どうみても穏菜の傷は致命傷だった。でも、僕は信じたくなかったのだろう。僕は必死になって血を止めようとした。しかし穏菜は次第に冷たくなっていき、息を引き取ったのだ。
─なぜだ。なぜこんな目に遭わなければいけないのだ。妹はまだ22だったんだ…もうすぐ、誕生日を迎えて、23歳になるはずだったんだ!…それからだろうか、僕は暇さえあれば竹刀を握ってひたすら素振りをして、鍛錬に打ち込んだ。そのせいでいくつも手にタコが出来たり、皮が剥けまくった…でもそんな痛みは、自分の家族を失ってしまえば感じることすらなかった。
* * *
それからは、悪いことがあれば「なんで僕だけがこんな目に」
と思うようになっていった。けれど…僕にはまた一人、大切な人が出来た。彼女もまた、大切な人を失っていたのだ。その人に出逢って、僕の人生はまた、大きく変わった。
「今度こそは、もうなにも失わないように」
その小さな声は、春の風にさらわれて消えていった。