魔王様がみてる
――魔王の間
鍛錬を終えた後、ポルセは風呂にはいり、入城の準備をする。昨日とは色違いのメイルを装備している。同じセットを複数持っているらしく、意外に綺麗に使っている。ああいうメイルや、ブーツ型の防具っていうのは、持ち主の体臭が媚びり着いているイメージがあったが、手入れに加え、消臭などのエチケット部分も気を使っているらしい。
今、リムズダールで大人気の、消毒薬『ファンブリーズ』だそうだ。聖水でできており、除菌効果もあるそうだ。魔族といっても、聖水を嫌う者は、アンデッドなどの限られた種族のみであり、意外に皆、聖水は平気である。
一緒に入城する。なぜか、お昼ご飯として、ウサギちゃんの絵が描かれた木製のお弁当箱まで貰っている。なんか、女子力意外と高いんですけど。
そんなこんなで、お弁当食べたら、帰れるように取り計らうとして、一緒に魔王様に頼もうという事になった。アポ無なのに、魔王様意外とあっさり謁見してくれるのか。
謁見の時間は、午後二時頃との事であり、城の空いている部屋で、お弁当を一緒に食べる。ちょっとした卵料理に、刻んだお野菜が入っている。結構ヘルシーな感じだった。
当然上手かった。そこで、時間まで俺は椅子を連ねて眠り。ポルセは、書き物をしていた。
何か、平和だな。外から、絶え間ないカラスの鳴き声が聞こえる事を除けば、そう思える。暫くまったりしていると、二人の人物が入ってくる。
「あら、ポルトセルミはん、ここにいらしはったん?」
細目で一見閉じているようにみえる。どこか母性を感じさせる女性であった。年上だろう(魔人は大体年上になる)。すごく色気を感じる。金色の髪、そしてモフモフの狐耳、狐のしっぽが生えており、服は、巫女服をかなりアレンジして、露出度が高い服だった。
話を聞くと、四魔将の一人、妖狐のヒミコという名前らしい。
興味深そうに俺をみて、体を摺り寄せてくる。
「ふふふ、やはり、かわいらしいお顔ではりますな。昨日は、ポルトセルミはんのお家にお泊りになったとか。それで、ポルトセルミはんとは、どこまでヤられはったん?」
身も蓋もない聞き方だ。少しドン引きしていると、顔を真っ赤にしたポルセが割って入る。本当に体で割って入るから、超胸が当たるんだけど。確かに、何もなかったなんて言ったら、ヒミコさんに笑われるかもしれない。
この人が今回の拉致の実行犯である事を後で知る。
「いいな~メルキも混ぜて!」
ひょいと飛びのってきた小学生くらいの身長の少女。後で聞いたら、彼女も四魔将の一人らしい。超怪力のフェンリル娘。尻尾をフリフリしながら、ワンワン甘えてくる。遊んでオーラが半端ない。手近にあったコースターのようなものをフリスビーが割に窓の外に投げたら、喜んで取りに行った。
しかし、キャラが濃すぎだろうこのメンバーたちは……。本当に、魔族の王がここにいるのか疑わしくなる。一時期は、世界を震撼させて、この島は、立ち入りさえ阻まれる呪われた島となった。魔王軍は、大陸に侵攻し、多くの国を滅亡へと追いつめた。
そんな、由緒正しい魔の頂点が、本当にいるのかよ。
時間が訪れて、メルキとの遊びも終いにした。メルキはもっと遊んでほしそうにしていたが、魔王と会う事を伝えると、仕方ないと言って、一緒についてきた。メルキもそうだが、ヒミコも一緒についてきた。面白そうだからという理由らしい。ちなみに、メルキは歩くとき二本脚なのだ。
魔王の間、多くの勇者がここを目指す。そして、魔王はその者たちに敬意を示し、特に鍵を掛けたりしない。優しい魔王は、救済措置をわざわざ用意するケースもあるらしい。暗く、蝋燭がユラユラと部屋を照らすのかと思っていた。
しかし、ここはどうだ。壁は真っ白、王座は無く、リクライニング式のやわらか椅子。王と配下の椅子に違いがなく、可愛くデコった丸テーブル。王旗が左右に垂れ下がっているが、ユニコーンの横顔に華の冠がかぶさっている。その下に国名が表記されており、『リムズダール』の『ル』がレによりかかった女の子のシルエットになっている。しかも国名はピンク字で、ちょっと丸みがある描き方。
部屋には、観葉植物が並べられており、その間の空間に華が飾られている。テーブルには、アロマオイルの瓶とピンクの花の花瓶、お菓子が並んでいた。中央のリクライニングチェアには、白いポニーテイル、アルビノの様に白い肌、蒼穹を思わせるスカイブルーの瞳の少女が、白のドレス姿で座っている。現実なのか怪しくなるほどに、神秘的な美しさを感じる。隣には、タイトスカートタイプの黒の軍服姿で、眼鏡を掛けた緑のセミショートヘアの女性が、姿勢良く座っていた。全てのパーツが整っており、完璧な秘書の様な面持ちである。
白いドレス姿の少女が声を掛ける。
「ようこそ、リムズダール城」
セミショートヘアの女性が、凛とした声で促す。
「皆さま、そちらにお掛けになってください」
三人は、自分の決められたスポットがあるのだろう、各々の席に座る。
俺は、用意されていた木製の椅子に座った。
「自己紹介をしよう。僕が魔王アークマリア」
「わたくしが、レイベでございます。ほかの皆さまについては、自己紹介不要でしょう」
「よろしく。俺はバーグ。まあ、旅の商人だ」
そして、どこか神秘的に見えた魔王さまが、急にテーブルに突っ伏して、グデーっとなった。
「ごめんよー今回の件は、決して悪気があったわけじゃないんだ」
「はあぁ」
「こら!マリアすぐだらけて、バーグ様がお帰りになるまでは、威厳を保つと言っていたじゃないですか!」
「だってー大変なんだもん」
急に、神秘的な雰囲気から、とっつき易そうな雰囲気にかわった。
「いいんだ。ただ、帰る前に聞きたい事があるんだけど、なんでもう一人の若者を拉致したんだ?」
何か重要な情報を持っていたのだろうか?それとも、実はどこかの国の要人であったとかかな?
「ああ、あれかー。実は、あの人はパティシエでね。是非とも我が国に、ワッフルの作り方を伝授してほしかったのだ。しかし、こういう国だろ?警戒しちゃってさー。だから連れてくれば、うちの良さが分かるかなって思ってさ。そしたら、ビビッて帰りたいと懇願されたから、昨日のうちに帰したよ。ああ、レシピは貰ったけどね。ほら、ここだよ」
そう言って、ふとももまである白のニーソックスから、一枚の紙をだす。拉致られたら誰だって、怯えるだろ。本当に大丈夫なのか?この人たちは……。
ヒミコの方言的な言い回り、不快に思った方すいません。