前世にて
――前世の記憶
私には、前世の記憶がある。その記憶では、私は牢屋の中で命を散らすのであった。
勇者と共に冒険をして、世界中に、その名を馳せていた。しかし、ある時勇者から、どこへ行くとも知らされず着いていった先で、「魔王を討伐する為の拠点がほしい」と言われた。そこは何もなく、老人のみが佇んでいた。勇者は、それだけを言い残すと、鳳に乗って去っていった。それから、その老人と共に、宿も無い更地で、テントを張り寝食を共にし、建物を自分たちで作り、宿屋を作り、町を築いた。
勇者は、たまに顔を出してきた。しかし、本当に魔王討伐の為に、この拠点が必要であるかは、はなはだ疑問であった。その疑問も心の中にしまい込み、良い武器、良い道具を揃える為、寝る間も惜しみ発展させていった。しかし、急速な発展には、多くの犠牲がつきものである。その、犠牲を私は見落としていた。
町の人たちから、少しづつ恨みを買われていたのだ。その恨みは、はじめは塵の様な大きさだったのだろう。しかし、それが積りに積もって、町を飲み込むほどの黒い感情は、ある夜私を襲った。それから、牢屋での生活が始まったのだった。
勇者の為、町を大きく発展させて、せめて剣で答える事の出来なかった期待を、富で示したかったのだが、それも叶わなかった。金色では人の闇を照らす事は出来なかったのだ。
そして、数ヶ月の後、勇者が再び訪れた。事情を聞き、牢屋からの解放をお願いしてくれると言ってくれたのだが、私は人の闇に気づけなかった罪を、この暗い牢屋で反省する事を選んだ。勇者には、気遣ってくれたお礼に、金色の宝玉を渡した。
どうもそれが勇者が追い求めていたものだったようで、更に数か月後、魔王が討伐されたという知らせが入った。私はその知らせを聞いて泣いた。私の役割は終わったのだと思ったからだ。その日から、私は与えられた食事をとらなくなった。
空腹が襲ってくるが、若い頃勇者と共に倒した多頭の大蛇に比べると、その死に対する恐怖心は全く感じなかった。
やせ細り、骨と皮になり果てた我が身を見て、最後に考えた事は何だったのだろう。
商人は、戦力の頭数にも入れられない。見捨てられる運命。与えられた役割は、自らの時間を浪費して、道具を勇者に渡すだけ。勇者と出会った町の近くに住む老人と何ら変わらないのではないか。鍵が、ただ宝玉になっただけ。
『来世があるのなら、私は武道家になろう、もしそれが叶わないのならば、遊び人でもいい。商人にだけはなりたくないな』
ド○クエ3が楽しかったから……つい……