分銅鎖
「はーい、埋葬完了。まったく、襲われておいて弔ってやろうだなんて、あなたもお人よしですよね」
「……こういう提言って普通は僧侶である君がするものだと思うけどなぁ。何事もなかったかのように人骨放置して立ち去ろうとするから驚いたよ」
「生憎うちは生きておられる方をお相手にお祈りさせていただいておりまして。金もなければ口も利けない死体はお客様になりえないんですねぇこれが」
「どんだけ商売気前面に押し出してるんだ。宗教って本来そういうものじゃないだろ」
「こっちも慈善事業でやってるわけではないのです」
「いややれよ、慈善事業で。このままだと僕の中の宗教に対する良いイメージが瓦解していくんだが。僕が言うのもなんか変だけど、もっと清廉になれ」
「ぺっ」
「汚い僧侶だなホント」
「それは私に馬鹿になれと言っているのと同義です。賢しくなければどの業界ものし上がれませんよ」
「…………」
「もう、仕方ありませんねー。最後に弔いの舞でも舞ってあげますか」
「なんだ、ちゃんとそういうのあるんじゃん」
「葬儀用のもので、本来は高いお布施をいただいていた方にしかやりませんが、あなたに免じてタダでやってあげましょう。タダで」
「……お願いします」
「さて、葬式用の鈴錘はどこにしまいましたかねー、と」
「あ、その分銅鎖って、さっき武器に使ってたやつだよね?」
「ええ。元は祭祀用に使っている祓具を武器として使ってるんです」
「そんなことしてバチ当たらないのか」
「宣教師は非常時の防衛行動を許されています。身を守ろうとしたとき、偶然にも手元にこれがあった、ということで」
「設定か。なんていうの? 名前は」
「正式名称はブルムルルーガです。言いにくいので分銅鎖でいいでしょう。演舞用に両側の分銅を球体にしたときはタマタマと呼んでます」
「その呼称はやめたほうがいいと思う」
「当たると結構痛いですよ。練習用の軟錘で喰らってみますか?」
「遠慮しとく」
「賢明ですね。いかに軟かくても本気で殴れば骨が折れたりするので」
「おい、いま僕拒否してなかったらどうなってたんだ」
「このように、先端の錘と呼ばれる部分はいろいろ付け替えられるようになっているのです」
「無視か」
「いつも付けているのは普通の錘で、使い勝手は良いですが決定力に掛けます。これが打撃特化の重錘です」
「武器として使う気満々じゃねーか」
「大きいだけでなく素材も鉛を混ぜた重い金属でできています。そのぶん軟らかいのが玉に瑕、いやタマタマにキズでしょうか」
「やめて」
「で、こっちは斬撃特化の剃刀錘。鎖がしなる分、錘の最高速度は通常の斬撃よりもずっと速くなるので面白いくらいスパッと斬れます」
「ああ、さっきスケルトンの首切断してたやつか」
「アレにはあんまり意味ありませんでしたけどね。これは傷口をズタズタにできる蓮華錘。それからこれは拷問および尋問用の」
「なんで僧侶が拷問器具持ってるの?」
「便利ですよ」
「なにをするのに」
「不信心な人間を戒心させるとき用に、ですかね」
「邪教過ぎる」