生ける屍
「荒野の夜は冷え込みますねぇ。こんなとき火のありがたみをひしひしと感じます」
「焚き火してれば猛獣も寄ってこないしね。魔物は寄ってくるけど」
「明るいとあなたに襲われる危険性も薄まりますし」
「襲わないから早く寝ろ。しばらくしたら見張り交代だからね。いつもみたいにグズらないでよ?」
「猛獣も出てきませんけど、魔物もあまり出てきませんよね、ここ」
「寄り代になる生き物がいないんじゃ、魔物化だってめったに起こらないから。出てくるとしたら、ここを通り道にしてる生き物の肉屍か骨屍くらいだろう」
「変にもったいぶった言い方せずに、人間のって言ったらいいでしょう。スケルトンは雑魚ですけど、レヴァナントは厄介ですね」
「死んだばっかりのは特に、筋肉も脳ミソも残ってたりすると手ごわいもんね」
「私、一度ピチピチの死体と戦ったことありますよ」
「死体にそんな新鮮な印象受けるって、どんだけ手ごわかったんだ」
「今みたいに一緒に旅をしていた仲間でした。最後は私がトドメを刺しました」
「……そういうのも含めて、レヴァナントってホント戦いたくない相手だよね」
「もしあなたが動く死体になっても、私がトドメを刺してあげますから安心して死んでください」
「そりゃ心強い。そっくりそのまま返すけど」
「あなたに私を倒せますかね?」
「ちょっと自信ないや。おやすみ」
「おやすみなさい」
「…………」
「……暗闇で見張りを勤めるあなたに怖い話をしてあげましょうか」
「いい加減寝ろよ君」
「昔々、まだ世界に救いがなかった頃、いま私たちがいるような広い荒野で大きな戦があったときのこと」
「回復術が未発達だった頃か。当時は怪我や病気もすぐに治せなかったらしいね」
「兵たちが争っている中にどういうわけか、そのへんをさ迷っていたレヴァナントが一体紛れ込んでしまったのです」
「あー、どうなったかなんとなく想像がついた」
「レヴァナントは死んだ人間に複製した自らの核を植え付け、その死体をレヴァナントにします」
「まぁ、それがアンデッドの増え方だからね。それで、戦場の死体が片っ端からレヴァナントになっちゃったわけだ」
「最終的に両国とも収拾をつけられない事態に陥ってしまったそうで停戦。結局戦場を完全封鎖し、彼らの肉が腐り落ちてスケルトンになってから」
「倒したのか。一般的なレヴァナントの倒し方ってその頃から変わってないんだな」
「ただ、そのときのスケルトンたちのいきのこり……しにのこりがまだたくさん……」
「いるわけか。それってやっぱりこの辺りの話なの?」
「……んぅ」
「緊張させるだけさせて寝おった」