回復
「地下にこんな広い空間があったとは。伝説の武器とかそのへんに落ちてないでしょうか」
「ないよそんなもん! 獣の糞じゃないんだからさ!」
「辺りに響くので大きな声出さないでください。魔物が寄ってきますよ。……大丈夫ですか? 足」
「大丈夫じゃない……! 軽く三人分くらいの高さから落ちたぞ! 右足グシャラァってなったぞ!」
「回復してさしあげますから、傷口診せてください」
「傷口なんて程度じゃない。回復術ならさっきから掛け続けてる。痛覚封じて止血はしたけど、内側は簡単には治せない。たぶんボキボキに骨折してるよ」
「ああ、これは酷い。神が与えた試練ですね」
「人災だ」
「安心してください、私の回復術なら五秒で治ります」
「ホントに? そこまでの高速回復なんて見たことないけど」
「こういうときは、ふくらはぎあたりを一旦切断してから、もういっぺんふくらはぎから足を生やしたほうがお手軽です」
「君目線で面倒くさくないことを手軽って言うなよ!」
「冗談ですよ。そういう方法もありますがそれこそ時間がかかるので、『パーシャレプリク』」
「うおっ! 足が戻った……? でもなんかこれ僕の足じゃない気が」
「私の足を参考に治したので少々綺麗なおみ足になってしまいましたね。でもこれで元通りです」
「元通りではない。ていうかアンバランス過ぎだろこれ! 歩きにくっ!」
「そのうち慣れますし、筋肉も付きます。嫌なら切断して、生やし直してください。とまぁ、こういう回復術には自信があります」
「これは回復って言っていいのか」
「教会でも推奨されている手法ですよ。これが一番手っ取り早くて生存率も高いんです」
「まぁ、確かに回復術でゆっくり回復するの待つよりは、ね」
「現代の無病息災と人類の繁栄は、こうした新たな回復術の発展のおかげと言って過言ではないでしょう」
「死んでさえいなければどんな傷でも治せるしね。それのやり方、僕には教えてくれないの?」
「教会の重要秘匿事項です」
「既得権益貪るなぁ」
「回復術を魔法という形で悪用された結果が魔王と魔物の誕生ですから、仕方ありませんね。これは必要な規制です。というわけで、どんなに酷い怪我をしてもすぐ治りますから、遠慮なく前線に立って戦ってください」
「いや、僕いちおう後衛支援型なんだけど」
「さすがに即死は治せませんが、足を怪我しようが、手がなくなろうが、肋骨を複雑骨折しようが土手っ腹に風穴が空こうが、私が回復して差し上げます」
「そのうち僕、君になりそう」