安宿
「なんっにもないじゃないですか!」
「いきなりうるさいな。宿屋で大きな声出すなよ」
「問題無いです他にお客もたいしていないんですから! というかなんですかここ。狭くて汚くて寂しくておまけに住民はお年寄りだけって」
「だからこないだ言っただろ、町って言うほど大きくないって」
「村と呼ぶのもおこがましいですよ! 限界集落でしょう! 共同体維持できるギリギリのラインでしょう!」
「地図だともう少し大きい村なはずなんだけど、ここも過疎化が進んだんだねぇ。僕らみたいな若い人は便利で快適な町に出て行っちゃうから、今じゃこの場所に特別な思い入れがある人しか残ってないみたい」
「こんなところで一体誰に宣教しろと?」
「少ないとは言っても人はいるよ」
「老い先短い人間に教えを説いたところでどこにも広まらないでしょうが」
「いっそ清々しくなってきたな、君の利己主義。そこまで言うなら回復術でお年寄り若返らせちゃえば?」
「バカ言わないでください。若返りと死者蘇生に回復術を用いることは禁忌中の禁忌です」
「そういうとこだけ忠実なのな」
「バレたら教会の葬儀師に誅殺されますから。魔法使いなら何人もやられてるでしょう?」
「教会の規則破ると処罰されるのは知ってたけど、葬式やってる僧侶が殺しにくるとは知らなかった」
「若返りと死者蘇生だけは特別で、刑事師だけでなく葬儀師もやってくるんです。人が死ななくなって一番困るのは彼らですから」
「……なるほど納得」
「それはそれとして、村がこの体たらくでは魔物討伐の件に関してはやる気半減ですね。二十万貰えなければ協力する気も起きませんよ」
「なんで報酬全額君がもらう気でいるんだ。僕ともう一人いるから三人で分配だぞ」
「は? なんですか、もう一人って。そんなの聞いてません」
「先に来て情報送ってくれてた魔法使いだよ。僕の兄弟子に当たる人。隣の部屋に泊まってるから、後で話を聞きに行く。君も協力してくれるなら一緒に来て」
「……もう私協力しなくていいですか?」
「手のひら返し早いよ。いいけど、それだと報酬は僕と義兄さんで折半だな。僕の分は義兄さんに渡して貯金してもらうから、君の手には一クロナも渡らない」
「魔法使いのくせにどんだけ堅実な生き方してんですか。……わかりましたよ。魔物討伐なんてちゃっちゃと済ませて、早く別の町に行きましょう。こんな安宿のカビ臭いベッドではなく、ふかふかベッドで寝るために」
「ここだって襲撃気にしないで安眠できるだけ幸せだろ」
「あなたの襲撃には気を配らないといけません」
「ハ、そのことだったら安心してくれ。僕は隣の部屋で義兄さんと寝る」
「え? えへ? あなたたちそういうご関係で……」
「どういうご関係を想像した。違うから。そういう意味の寝るじゃないから。なんで嬉しそうなんだ」
「どうやら今夜も安眠できそうにないなぁと思いまして」
「明日に響くから寝ろ」




