【集落】
あるところに交易で栄えた町があった。海産物も農産物も収穫できないその土地に人が増えた理由は、国家間戦争における物資補給の中継地点として、見通しの良い平野に面したその場所が最も適していたからである。
一度そうした溜まり場ができてしまうと、人々はまるで約束でもしているかのようにその場所へ集まる。戦争が終結してからも、そこは商人たちの集合場所として使われ続けた。交流は以前にも増して盛んになり、その土地には商人たちの家が建ち始めた。
ただの集合場所が村へ、村が町へと発展していく間、平野では何度か戦争が起き、商人たちはそのたび特需景気に舞い上がった。その収益で他国や敗残兵の侵略を受けないよう城壁を作り、兵を雇い、奴隷を買い、交易路を保全してさらに収益を増やした。
戦の神に愛された土地だと、市民は口々にそう言った。
一時期は平野の一部にまで進出し、交易都市と呼ばれるほど隆盛を極めた町に影が差したのは、火山の噴火がきっかけだった。
平野側の交易路は溶岩で塞がり、何千もの人々が灼熱の火砕流に埋もれて焼け死んだ。城壁は連日の地震と火山弾で崩れ落ちた。ほうほうの体で逃げのびた人々は、その多くが別の町へ移住して二度と戻って来なかった。
わずかに残った町の人々は、火山灰と溶岩の被害を免れた川辺の土地で、細々と復旧を始めた。しかし、交易地としての価値を失った町に元のような活気が戻ることはなく、町は村へ、村は集落へと、繁栄した歴史を巻き戻すかのように衰退していった。
今ではそんな経緯を直に知る者も死に絶えて、わずかな記録が長の家に保管されているのみである。
その場所は、忘れ去られようとしている人の歴史の断片だった。




