魔法使い
「とりあえず魔法は見せたから、これで借りは返したね」
「はぁ、あなたにはもう少し期待していたんですけどね」
「がっかりさせてしまってすまない。僕はそもそも三流の魔法使いだから、君の期待に応えられるような魔法は使えないんだ」
「三流であることは見た目からしてなんとなく察していましたが」
「じゃあ期待するなチクショー」
「いよいよもってわからなくなりました。あなたはどうして似非魔法使いになろうと思ったんですか?」
「うん、そんなやつになろうと思ったことは一度もないね。道具に頼るのは魔法より道具のほうが便利だから」
「それでどうして変態になってしまったんですか?」
「なってない。第三者目線でそうなっているように見えるのだとしたら、僕に理由はわからない」
「ではどうして魔法使いになったんです?」
「やっとまともな質問がきた。魔法使いにはなろうとしてなったわけじゃないというか、人に誘われたからなっただけ」
「自分のない人ですね」
「そう思うよ。でもそれで誰かに喜ばれるなら、別にいいかなって」
「あなた程度の実力じゃ誰も喜びませんよ……」
「泣くぞ」
「魔法使いって身分そのものがあまり似合ってません。適性もないと思います」
「泣いた」
「泣かないでください」
「君に慰める権利はねーよ!」
「このくらいのことで」
「慰めじゃなかった。……そりゃ僕は半人前もいいところだし、いわゆる賢者とか大魔法使いにはこの先死んでもなれないだろうけど」
「損しかしないでしょう? 魔王の作った魔法則を駆使するなんて、一般的な価値観からしたら不良中の不良じゃないですか。あなたは不良というには何かこう、足りないんですよねぇ」
「どういう意味だ。魔法使いに対する悪しき固定観念も未だに根強いようで、ウンザリするなぁ。悪い魔法使いなんて一握りだけで、多くは人畜無害か善良なのにさ」
「善良、ですか。私は『魔法使いは毎晩淫行に耽り、邪なりて近寄らぬべし』と教会で教わりましたが」
「なんの根拠もない話だろ。僕らが一体なにをしたと……」
「あなた全然淫行に耽ってる感じしませんもんね」
「でしょ?」
「耽るどころか経験すらなさそうです」
「それはそれで喜ぶべきか迷う」
「私が無防備に寝てても何もしてきませんし」
「なにかしていいの?」
「したらぶち殺します」
「なんなんだ」
「私が以前出会った魔法使いは噂通りロクでもないやつだったので、拍子抜けしたんですよ。不躾で下品でおまけにクソみたいな倫理観の持ち主で」
「奇遇だな、僕の知ってる僧侶もちょうどそんな感じ……。野良の魔法使いは基本的に倫理とは無縁の世界を生きてるからね。魔導連盟みたいな統制された組織でも、下っ端とか新入りほど悪さするやつが出やすい。一師二弟制のおかげでようやく自治が行き届いてきた感じがするね」
「市井の人々はまだまだ魔法と魔法使いに不安感を持っています。下手すれば魔王の眷属と思われて迫害されてもおかしくありません」
「魔法使いの元祖が魔王だから、仕方ないね。僕も何度か町を追われたことあるよ。いまだって君と一緒じゃなきゃ宿屋に泊まったりできないだろうし、最悪、町にも合法的に入れないかも。そこは心底感謝してる」
「そうまでしてどうして魔法使いなんてやってるんです?」
「理由はさっき言ったでしょ? 誘われたから」
「始めた理由ではなく、続けている理由です。目的でもいいですけど」
「それは……魔法が好きだからかな。便利っていうより、仕組みとか理論とかが面白くてね。目的としては、君が言う不良な魔法使いや跋扈してる魔物をどうにかするため」
「不良の中の優等生ってやつですか。優等生の中の不良である私とは反対です」
「だから不良じゃないってば。君が不良であることには同意するけど。むしろ自覚があったことに驚きだけど」
「私が僧侶の中の僧侶であれば、今ごろ教会は潰れています」
「それは確かに。半端者同士って意味ではバランス取れてるのかもね、僕ら」
「ところでもう一つ聞いたことがあるんですが……魔法使いは、その、同性同士でチョメチョメすることがあるって本当ですか?」
「……知らない」
「え、え、いまの間なんですか!? ひょっとしてあなたも経験」
「ないよ! 断固拒否だよ! 確かに一部でそういうのはあるけど、未熟者連中が不用意に魅了の魔法使って勝手にとち狂ってるだけだ!」
「なにかあったようにしか聞こえません。複雑な事情がありそうですね」
「別に複雑じゃない。魔法を悪用したやつらがお互いに性別関係なく魅了されて発情して歯止めきかなくなってるの。悲しい末路だね」
「それでもそこに愛があるなら、魔法使いたちのこと認めてあげてもいいです」
「何様だ」
「ちなみに試したことはありませんが、私も例の回復術を応用すれば生やせますよ」
「なにを!?」




