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第八話 カナーディア

途方に暮れるとはこういうことなのね。


下着は洗って、干して綺麗になったけど、洋服はどうにもならない。まして今日の式典にこんな普段着で・・・

皆の前で発表するのに、恥をさらすだけだ。どうすればいいのかしら。

悩んでいると来客のしらせが来た。

もしかしたら、シャルかしら。うん、頼るしかない。


応接室には2人。昨日出会ったお嬢さまのクリスタと仕えるカイルだ。

「カナ。また会えたわね。嬉しい」

「クリスタ、なぜここに」

クリスタの隣には冷たい視線のカイル。

クリスタにはわたしは不釣り合いと不満げな顔でにらんでいる。

「わたくしね。昨日、カナの知り合いに出会って、困っているからって頼まれたの。カイル、渡して」

大きな袋を開けると高級そうな礼服。

「わたくしのだからカナに合うか分からないけど、これしかなくて」

「あ、ありがとうございます。助かります」

安堵した気持ちが大きすぎて頭が回らない。冷静に冷静に。

私の感謝の言葉を耳にして、クリスタは満面の笑みを浮かべる。

「カナの役に立てた?嬉しいわ」

「そんな・・・本当に助かります。本当に困っていて、どうしたらいいか困っていたの」

「今日の発表も見ていいかしら。わたくし、こういうところも初めてなの。興味があるの」

「もちろん、でもつまらないですよ」

「ううん。きっとつまらない事なんてないわ」

まっすぐな視線で私を見る。


クリスタは本当に表情がコロコロ変わる。魅力的なほどに。

こういう子になりたかった。


自室でクリスタから借りた洋服をきて、会場に向かう。


昨日、案内してくれた学校の職員の周りに、私と同じく受賞したと思える十人ほどの人たちが立っていた。

職員は私を手招きした。

私と同じぐらいの人から、軍人のような体格のいい中年の人までいる。

「女かよ」

からかいを含んだ目でニヤニヤしてした男が声かける。上から下まで眺め興味を失ったかのようにつぶやく。

「色気ねーな」

「食堂に君いたよね。職員かと思った。よろしくね」

誠実そうな男が割り込む。この人とは友達になれそうだ。

「よろしくお願いします。カナーディアといいます」

「僕はね・・・」

その時、職員が静かにするようにと声をだした。

会場に入ってからの手順の説明を受け、発表の作法を練習した。

私は自分が賞をとった論文を職員から受け取り、発表する順番を確認する。

突然、不安がよぎる。


昨日の混乱で忘れていたけど、発表の練習をしてない。

これをみんなの前で読み上げるなんてできるかしら。


「ああ、カナーディアさん」職員の人がきれいな首飾りを渡してきた。「昨日の方、学生の方からです。今日いらしてカナーディアさんに面会を求めていたのですが・・・」声を潜めて耳元で「あの方はただの貴族ではありませんね」私の目が見開くのを確認して、元の位置に戻った。

「校長が昨日の晩さん会でお会いになったそうで、校長が離さないので、私があの方からこの首飾りをあなたに渡すように依頼をうけました」

私の趣味をよく知った首飾り。掌でキラキラしている。

「お付けしましょうか」

「い、いえ。自分でつけます」

昨日までと違う慇懃な態度。その中に心なしか無礼さを感じる。


この人は昨日まで、私とおおらかに対応していた。こんな視線を向ける人ではなかったはずだ。

でも、今日の態度は…なぜか警戒されている気がする。

さっきクリスタが会ったという人は、王都に彼しか知り合いがいないから、おそらくシャルだろう。

職員の言うあの方もシャルだろう。この首飾りの趣味からもわかる。私のことをよく考えてくれていることも分かる。


よく考えてくれているけど・・・


私自身の力で王都に行きたいというわがままを受け入れ、この論文の存在を教えてくれ、参考になる文献や意見を送ってくれた。荷物が無くなった後は保証人にもなってくれた。

でも、王都にきて感じるシャルとの距離は、村にいた時より遠くなった。

素直に頼り、甘えられたら、何か変わるのかもしれないけど、できない。できないよ。

私がそんな態度をみせたら、飽きられる。

そう、私しかいないと言いながら、イリスというあの化粧が濃い女性に気が向いていたみたいだし。

考えたらムカムカしてくると同時に不安が大きくなる。

何か分からない大きな渦が心をかき乱す。


・・・え、私、なぜ。

飽きられてもいいのに・・なんで私、シャルにこんな気をつかっているの。

嫌われたくないなんて、なんで私、そんなことを考えているのかしら。


冷静に冷静に・・・これから発表なのに。読まなくちゃ、原稿を読まなきゃ。

雑念を振り払わなくちゃ。


1人ひとり壇上に呼ばれる。私の番がくる。

大きな不安に押しつぶされそうになる。息するのも苦しくなって、あまりにも息苦しいから知らない間に首が締まっていないか確認した。

指に感じる硬い、首飾り。

お守りでもないのに、触った瞬間に息を大きく吸い込めた。


大丈夫。私は大丈夫。

1人で立つことができる。

1人で話せる。

1人で・・・

でも・・・


名前が呼ばれて、壇上に足を進めた。

最前列でシャルが私の姿をみて、にこやかにほほ笑んだ。

来てくれていたんだ。

緊張がゆるんだ。







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