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第六話 軍務大臣

厄介ごとは同時に起こる。


オルトル家は子爵を賜っていながら、それを活用できないものが代々受け継いていた。運よく軍務大臣にまでのし上がったのは、爵位でもコネでも実力でもなく、運であろう。人の恨みを抱えながら出世した代償だろうか、子供はクリスタ一人しか生まれなかった。しかしそれも運がほほ笑んだ。トーズル男爵家の三男とクリスタの婚約だ。トーズル家は古くからの名家、かつ評判が良い。

しかも、この話が出たとき、トーズル男爵夫人は「ニルにも爵位を持たせることができるのね」と大喜びでクリスタの事も大層気に入っていた。2人の相性も良く、ニルは頼りないところもあったが、心優しい青年になり、将来良い夫婦になるだろうと楽しみにしていたところだ。だから婚約破棄はかなり痛手だった。

どんな理由であれ、説明に本人はもちろん、男爵家の誰も来ないのも誠意が感じられない。

長い婚約期間の果てに傷物になったクリスタを娶る人がこの先現れてくれるのか。

いや、ニルの事を忘れさせてくれるような、オルトル家を、クリスタを守ってくれそうな者はいるのだろうか。


将来の展望の軌道がずれたかと思えば次はこれだ。


大学に第一公子らしい者がいる。その噂を聞いた公爵が、良い機会だろうと、無理やり連れてきたとのことだ。

「良い男に育ったな」

公爵はご満悦だ。どうやら自分が第一公子に行ってきたことを忘れているようだ。



約二十年前、微妙な関係が続いたエスパイルとザールは最も良好な時期を持っていた。

中央王国の式典で知り合った、現公爵のザール公子とエスパイル公が両国の確執をなくしたのだ。

同い年の二人は親友といってもよかった。

エスパイル公は既に一国を統治する方でほとんどザール公子の方が遊びに行っていた。そこでエスパイル公の妹姫と恋仲になり結婚した。

その結婚式に公国から久々にでて、ザール公国に訪れたエスパイル公爵がめったにない機会だからと、寄り道して英雄の地を見たいとの希望をだした。

その時、案内をしたのが自分だった。


エスパイル公はザール公子のおおらかさと真逆の慎重な男だった。綿密に計算して地図と書物を手に持ち英雄の故郷のブルレア地方に向かった。案内の自分より詳しく博学であった。包容力、判断力、自分の仕える公子と比較をして口をかみしめた。

全て計画通りに進めていくように見えたエスパイル公。


しかしそれはブルレア地方で、英雄の子孫の彼女に出会い崩壊した。

自分も思わず魅入られてしまったのだからエスパイル公を何も言えない。

腑抜けたエスパイル公を公国まで届け、仕事は終わった。


エスパイル公はその後、何度もブルレアを訪れていたようだ。しばらく後に婚約が発表された。


ザール公子は驚き、どんな女か見たいと案内役に自分を連れて行った。


ちょうどエスパイル公が彼女に会いに来ていて影から二人の様子を盗み見た。

ザール公子は彼女の健康的な美しさに目を見開き、エスパイル公の他人には見せないようなとろける顔に呆然としていた。

その日は近くの小屋を宿として何も言わず夜を明かした。

次の日、国に戻るエスパイル公と別れを惜しむ彼女の姿を遠くから眺めた。


ザール公子は紅潮した頬を隠そうとせず、荒い息を吐きながらつぶやいた。

「彼女は・・・この地の、僕の治める国の人間だから僕のものだ」

ザール公子の言葉を改めるように忠告したが聞かなかった。その日のうちに彼女を連れ去り、手籠めにし、王都の屋敷の一つに監禁した。

妹姫のザール公妃はエスパイル公国に戻された。

理知的なエスパイル公はそれでも冷静に、彼女を戻すように、妹との仲を考え直すようにと再三きた。


やがて、さらってきた女が懐妊して男児を産んだ。

ザール公子は我が子と信じて大喜びした。しかし計算上エスパイル公と接触していた時期でもあるので、周りは慎重になっていた。

母親ならわかると思い、彼女に聞いたどちらの子かと。やつれても美しい女は何も答えなかった。


何年か経ち女は姿を消した、公爵になったザール公はエスパイルからの情報で連れ去らわれたことを知る。

これが先のザールとエスパイルとの戦いとなる。

圧倒的な力でエスパイルを破ったザール公はこの戦いに失うものだけだった事を知り、帰国する。


第一公子の存在は彼女を思い出すことになるため、ザール公爵から離され、寄宿舎に入れられた。


ザール公は新しく妃を娶り、子供が誕生した。

新しい妃は第一公子を警戒し始めた。

周囲の者たちも「第一公子は前エスパイル公の子だ」といいはじめた。


自分に命令が下りた。

第一公子のシャルークリフをエスパイルに連れて行けと。


寄宿舎で見たとき、嬉しそうに彼は走り寄ってきた。

きらきらした眼差しは、自分が受けた命令を伝えた途端に消えていく。


自分の娘と同じ年頃の子がこのような扱いをされているのを見るのは、ひどく胸が痛んだ。

悟りきった顔を浮かべた少年は、道中沈黙していた。


村の規模は小さいが上級学校があるところの傍を通った。

一面に黄色の花々が広がる。

見とれていると少女が声をかけてきた。

「王都からきたお客様ですか?」

少年よりも2,3歳幼い感じだ。

「お父様がこっち来てって」

黒い髪の少女が手招きする。




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