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第四話 カナーディア

いつかこういう日が来ると思っていた。

私には幸せは似合わない。隅っこの方で人の幸せを祝うことしかできない。


目の前にいる女の子を改めて見てぎょっとした。

質の良い生地を使い誂えたことがまるわかりの品の良い女の子だ。首に眩いばかりの首飾りと左の薬指に価値のありそうな指輪が輝く。お人形のような白い肌と輝く赤毛。高貴な人間だ。私なんかが関わってはいけない人だ。誘拐犯と間違えられるかもしれない。早く離れなくては・・・


女の子は私の手を掴み、人通りの多いところまでグイグイ行き、馬で荷車を引いている気の弱そうなおじいさんに話しかけ、その荷車に乗った。そして私にも乗るように指示した。

「挨拶をしていなかったわね。わたくしはクリスタ。先ほどはごめんなさい。大学の関係者だと思ったの」

「わたしはカナーディア。カナと呼んでください。こちらこそ役に立てなかったみたいで、ごめんなさい。そういえばクリスタさん、もう大丈夫なの」

わたしの問いかけにクリスタは気まずそうな表情を浮かべた。泣くほどつらい思いをしていた自分の出来事より私の事を心配してくれているようで、ありがたいと同時に情けなくなった。

「イリスという女性が言っていたことなら気にしなくてもいいのよ。話に上がったシャルという人とはそんな関係ではないの。一時期うちに下宿していた兄弟みたいな人なの。なんか、ああいう風に言われたら複雑な気持ちになっただけ」

そう同じ釜の飯を食べた仲、家族みたいなものだ。自分に言い聞かせる。クリスタはそれを言うとほっとしたような顔をした。

「じゃあおめでたい事だったのね」

「そう、お祝いすることなの」

「良かった」


クリスタの目は赤く腫れて、頬はむくんでいる。だが会ったときの悲壮な感じは少し削がれていた。荷車は町を行く。着飾ったクリスタはまるで見世物だ。注目を集めている。しかしクリスタは荷車の端を掴んできょろきょろしていた。私は恥ずかしくて俯いていた。


「カイル。ここよ。カイルきなさい」

クリスタが大声を出す。荷馬車を見ている群衆から抜き出ている長身の男が駆け寄る。

「ニル様にお会いできましたか」

カイルは荷車を引く老人の手にお金を掴ませ、クリスタの方に来て抱き上げて地面に下した。

「会えませんでした。お母様怒っていますか」

「まだ気が付いていません」

二人の会話を聞きながら、私は一人で荷馬車から降りた。


私を見ないまま、カイルにエスコートされて進むクリスタをみて、これはついていくべきが、ここで消えるべきか迷った。でも・・・忘れられていたらその時はその時だと、ついていった。


クリスタは後ろを振り向き、ほっとしたような表情を見せた。

「カイル。この子カナーディアさん。お友達なの」

紹介されたけどここらが潮時だ。

「カイルさんよろしく。では、私は宿舎に戻ります」

と、言ったはずなのにクリスタは私を無視して、つかれたので家に帰る前に休む処に連れていけとカイルに言っている。カイルは私を気遣いつつある店に案内した。


店に入るとすぐクリスタは席を立った。

カイルと私が残される。カイルは私を見下すような視線を投げかけた。

「カナーディア。お嬢さまと本当に友達なのか」

そう、いつ友達になったのかと、私は返答できなくて黙り込む。そもそも友達とは何の定義をもって友達なのかわからないしクリスタ自身がどう思っているのかわからない。方便かそれとも本心か。それによって私の答えは変わる。カイルは疑いの視線を送る。返答を迫られ渋々答えた。

「分かりません。それは状況により変わります」

「そうか。お嬢さまは今、辛い立場にいる。変なことを言ったりするなよ」

「ニル様の事でしょうか。先ほどまで泣いていました」

カイルは口をかみしめた。

「お前はどう思う」

多分失恋か何かなのだろう。深く聞くのは良くない。面倒に巻き込まれる。一般的な返答をした方が無難。

「時が解決するでしょう」

すごく曖昧な返答にしまったと思ったけど仕方ない。それよりも自分の事だ。

「不躾ですが、この後、税務専門学校の宿舎に送っていただけないでしょうか」

「学生か。見た目は女なのに。男か?」

「学生ではありません・・・」

生まれて初めて女を疑われたが、基本的に大学とか専門学校に女の学生はほぼいない。女装した男と間違えたこの人に怒りを覚えても仕方ない。

先ほど新しく発行した証明書をだして、私はここに来てもう何べんも繰り返している説明をした。

税務専門学校で募集した論文が今年度の優秀賞に選ばれたのでその授賞式にきたこと。着いてすぐ荷物を失ったこと。頼りにしていた人が頼りにできなかったこと。を説明した。


「帰郷するお金をどうやって調達すればいいのでしょう」

「そんなことは自分で考えろよ。優秀賞を取るんだから頭いいんだろ」

切り捨てるように答えるカイルを見て、私は深いため息をついた。周りは甘い香りが漂い私の空いたお腹を刺激する。恥を忍んでこのぐらいのお願いなら聞いてくれるかもしれない。

「カイルさん、不躾なお願いで申し訳ないのですが、わたしはお腹空いています。食事を頂いてもいいですか」

「ダメだ。時間がない。お嬢さまの用が済んだらここを出る。安心しろ、宿舎には送ってやる」

宿舎の食事は明朝から支給されるって、宿舎で貰った説明書に書いていた。

今日、一日我慢するか。

私は椅子にもたれこんだ。






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