B型の彼女
放課後、夕方、曇空。にわか雨に折り畳み傘。
昇降口の前で空を見上げれば、朝の天気予報は的中してひどい雨が降っている。外れてくれればよかったのにと溜息をついたって、何も変わりはしない。
的中といえば、あたって欲しかったのは血液型占いだ。B型のあなたは今日は良い事あるかも! なんて可愛い声で言っておいて、散々な一日だった。
一時間目英語小テスト二時間目現国宿題忘れて三時間目体育やることがなく四時間目数学わかりません。お弁当は朝走ってきたせいか片側に寄っていて、五六時間目は寝てました。
多分、悪い日ではなかったと思う。きっと私より不幸な人間は世界中に沢山いるから、相対的に見ればきっと偏差値52ぐらいの幸せ。模擬試験の私の偏差値と同じぐらいに幸せな毎日は、どこかからもA判定をもらえない程の幸せ。だからB型の私の幸せはきっとこのあたりで打ち止めなんだろう。
「あ、もっちゃんだ」
もっちゃん。森子という祖母がつけたらしい古風な名前を現代風のマスコットキャラみたいにアレンジして呼ぶのは、クラスの中でもマナだけ。だから振り返らなくたって、そこにいるのは誰だかわかる。
「何よマナ、私がここにいたら悪い?」
ちょっとだけ意地の悪い笑顔を作って、後ろに振り返る。きっと私の事を怒らせたと思ったんだろう、ちょっと驚いた顔をしたマナがいた。本当、素直だなあ。
「いやいや、決してもっちゃんが悪いってわけじゃなくて……」
ちょっとだけ焦るマナの姿は、正直に言って羨ましい。こうやって思ったこと全部顔に書いていけば、私の人生もちょっとは変わったのかな。
「雨だねえ」
「見ればわかるね」
「つれないこというねえ」
「B型だから。マイペースなんだって」
「じゃあ、A型の私との相性は最悪だねぇ」
そんなこと、ないよ。
素直な言葉が言えるはずもない。きっと言えたら楽なんだろう。その分だけ色んな経験が出来て、その数だけ幸せが増えるんだろう。
「そうかもね」
だけど、いらない。
だって私はB型で、A型のマナじゃない。別の人だから、それでいいんだって今は思う。
それに彼女との関係が悪くなるなら、そんな冒険はしなくていい。
これが私のマイペース。焦らずゆっくり、誰にも言わない。
「ところでもっちゃんさん……傘二本とかもってませんかねぇ?」
「あるわけ無いでしょ」
ボタンを押して一回転。くるりと回して広げてみれば、さっきまでの傘を忘れるぐらいに大きな傘の出来上がり。
「……半分、入ってく?」
「相合傘だね?」
「嫌ならいいよ」
一歩進む。遅れてやって来たマナが、私の左に収まった。
それから、歩いて行く。駅までの道は近いけれど、せめてその時間までは。
どうしようもない朝の占いに、少しだけ感謝してみた。