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S R.I.P.  作者: 棚河 憩
二章
21/37

~Mission Impossible~


――――――――――――



「おい……これ、決着つくのか……?」


「かれこれ一時間以上打ち合ってるぞ……」



 ギャラリーをよそに打ち合い続ける二人。未だどちらも決定打は与えていない。



「なかなかやるな」


「お褒めに預かり光栄です」



 スティングの剣技はオーソドックスな西洋剣技。特殊な型などはない。故にどのような場面でも対処が可能で応用が利く。加えてヘイゼル以上のスピードとバルナス程のパワーで打ち込んでくる。王管都市自警団団長の肩書きは伊達ではない。



「盗賊団を一人で潰したというのも頷ける」


「あなたが行っても同じ結果でしたでしょう?」


「生憎、それなりに忙しい身でな……はぁっ!」



 袈裟切りをリンツは片方の槍で受け止め、流し、もう片方で喉を突こうとするもスティングは半身になりかわす。



「随分と的確に急所を狙ってくるな」


「槍というのは本来そういうものでしょう?」



 この世界では一対一で槍を使うものは少ない。白兵戦が主な為、頑丈な防具で身を守る者が多く、一点を狙い突くという行為はどうしても防具に阻まれ、狙う箇所が限られる。関節などの防具の隙間や、兜と鎧の間の首などを的確に狙うとなると相当の技術が必要になるからだ。剣や斧、鈍器などであれば、刃こぼれし切れずとも防具の上から叩きつけるだけでもダメージにはなる為、やはり多くの勁士はそちらに流れる。多数同士の争いであれば槍衾などの用途で槍兵隊を組むこともあるが。



 魔獣相手でもそう。魔素の影響で皮膚が硬質化している魔獣も多くいる為に、外氣勁や硬い皮膚の上からでもダメージを与えられる武器になるのは当然だろう。それでも自分の攻撃をガードし、流し、かわしつつ的確に急所を狙ってくるリンツにスティングは感心すらしていた。



 「そろそろ終わりにしようか。この後も仕事があるのでな……!」



 より一層勁を開放し今までにないスピードで横薙ぎに木刀を振るうスティング。リンツは大きく後ろに跳びかわし、着地の刹那、同じく勁を爆発させ必殺の突きを放つ。



「おおぉおぉぉっ!!」



 裂帛の気合と共に放たれた突きをなんとスティングは同じく突きで受け止める。瞬間、お互いの武器は衝撃に耐えられなかったのだろう。砕けてしまった。



 ギャラリーは皆、言葉を発せずに立ち尽くす。数秒遅れて審判役の団員が



「り、両者、引き分け! ……で、いいんですよね?」


「仕方がない。武器が壊れてしまったからな」


「私はこのまま素手で続行しても構いませんよ?」


「言っただろう、私は忙しい」


「では、賭けの結果は?」


「私と互角にやりあえる君の実力は素直に賞賛に値する。君ならば是非戦技大会にエントリーして貰いたいが、居住権の話は、そうだな……一つ、仕事を頼まれてくれれば考えよう」


「と、言いますと?」


「オルクスから北西に二十キロ程の場所にヘパスという町がある。そこへ使いを頼まれてくれないか?」


「使い?」


「ヘパスはセルフォール地方随一の鍛冶の町だ。オルクス自警団の武具はそこから調達しているのだが、戦技大会用に武器を新調しようと思っていてな。先日発注したのだが未だ届かない。そこで、進捗状況の確認と共に完成している武具があれば運んで欲しい。期限は三日だ」


「そんな簡単な仕事でいいんですか?」


「ああ。引き受けてくれるか?」


「わかりました。明日にでも出発します」


「頼んだ。これは自警団からの正式な依頼だ。フリーランス登録は?」


「まだです」


「こちらで面倒な手続きは済ませておく。今日は体を休めておくといい」


「ありがとうございます」


「……決着はまたいずれ」



 去り際にリンツの耳元で小さく呟いたスティング。リンツはしばらく彼の背中を見送っていたが、周りの団員の視線に居心地の悪さを感じ、そそくさと退散した。その後、オルクスにスティングと引き分けた勁士の噂が流れることになる。



 ――スティングの部屋。二度のノック。スティングは事務仕事をこなしながらドアの方へ目もくれず「入れ」と一言。入室してきたのは若い団員の男。年齢は二十歳そこそこだろう。



「マルケスか。どうした?」


「よろしいのですか? あの者にあんな依頼を」


「ヘパスへの使いのことか?」


「はい。ヘパスの工房は今、火錬石の採掘量が激減しまともに炉に火を入れられない状況と聞きました。進捗状況の確認ならともかく、三日で武具の調達は不可能かと」


「そうだな」


「承知の上……ということですか」


「ああ。もとより盗賊くずれなんぞに居住権を発行するつもりなどない。それでなくともスラムの住人にも手を焼いているのだからな」


「それにヘパスの連中は職人気質。いくらオルクスからの正式な依頼とは言え、普段向かわせている者でなければ信頼第一の彼らのことです。門前払いでしょう」


「失敗が目に見えている依頼をどうするかも見物だろう?」


「団長も人が悪い」


「そう言うな。それよりもマルケス。奴の槍だが……」


「ええ、間違いなくアルベニス流連槍術でしょう」


「やはりお前もそう思うか」


「はい。彼はトゥリアーナ・アルベニスと繋がりがあるのでしょうか?」


「どうだろうな。その辺りも詳しく調べなければな。頼めるか?」


「かしこまりました」


「頼む」


「はっ。では私はこれで」



 一礼し、部屋を後にするマルケス。スティングは先ほどの模擬戦の影響か、まだ痺れの残る右手を見つめていた。



 ――場所は変わりスラム。バルナス達の隠れ家。



「スティング・ガリアーノとやり合ったとはな。全く貴様は常に槍を振るっていなければ落ち付かんのか?」


「あっちから売ってきたケンカだ。買うのが礼儀だろ」


「にしてもだな……」


「いいじゃんかダンナ。あのオッサンと引き分けたってだけでも一泡吹かせられたんじゃね?」



 スティングはバルナスを団長権限で強制退団させている。アマテから追放され、この地に流れ着いたバルナスがオルクスの自警団に入団して直ぐに王族殺害の情報がスティングの耳に入った為だ。ヘイゼルはそのことを根に持っているのだろう。



「……で、ヘパスまで行くと言っていたが、一人で行くのか?」


「どうかな。リッカを一人で残すのも気が引けるが」


「連れてったらいいんじゃね? どうせ俺らはこっから出られねぇし。傍に置いといた方が一人で残すよか安全じゃねぇの?」


「それもそうなんだけどさ。エイアードはどう思う?」


「……なぜ私に聞く。好きにすればいい」


「……相変わらず冷たいのな」


「なんにせよ俺達はこの街でフリーランス登録もできん。同行もできない以上、貴様が彼女を守ってやるべきだろう」


「まぁ、そうか。わかったよ。後で話してみる……じゃあ行くよ、夜にでもまた来る。腹減ってるだろ? なんか食い物持ってきてやるよ」


「なるべく早くな! 腹減って死にそうなんだよ」



 騒ぐヘイゼルをよそに隠れ家を後にするリンツ。ボナノッテへ戻った頃には丁度夕飯時だった。



「ヘパスへお使い、ですか?」


「ああ」



 ボナノッテの食堂でリッカに今日の出来事を話すリンツ。スティングと一戦交えた話をした時、リッカは盛大に咽ていた。



「私も行っていいんですか?」


「一人で残していくわけにも行かないだろ? 色んな街巡った方が親父さんの情報も集められるかもしれないしな」


「……そうですね。ありがとうございます」


「別に礼を言うとこでもないだろ」


「いえ、父のことは後回しと言っておきながらしっかり考えてくれてるんだなと思いまして」



 そう言って笑顔を向けるリッカ。照れ隠しからからリンツはエールを仰いだ。ちなみにこれで五杯目だ。



「明日の朝にでも出発する。今日は早めに休もう」


「はい!」



 その日の夜は二人とも早めにベッドへ。リンツと同室ということでリッカは妄想が爆発。まともに寝付けずに結局一睡もできなかった。ちなみにリンツはバルナス達へ食料を持っていくのを忘れている。エイアードとバルナスはリンツへの呪詛を唱えながら眠り、ヘイゼルはテーブルをかじっていた。




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