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S R.I.P.  作者: 棚河 憩
二章
15/37

~提案~

前回更新分で閲覧数が1000を超えました。日々、この作品を読んで頂いている皆様に感謝です。これからも頑張りマス。

 槍すら構えずにバルナスへ近づくリンツ。彼はリンツをじっと見据えるだけで反撃の様子は見せない。



「聞きたいことがある。返答によっちゃ見逃す」


「……なんだ」


「転生者ってのはなんだ」


「……そんなことも知らないのか」


「御託はいい」


「……五行日月以外の属性を持ち、天恵を保持しているこの世界の外から来た者のことだ」



 表情は変えないものの、自分が転生者と呼ばれるものなのかを思案するリンツ。トゥリアーナは天恵のことも特一属性のことも知っていた。リンツが転生者であることもわかっていたはずだが、教えてくれなかった理由はなんなのか。



「……貴様、天恵は持っているのか?」



 答えていいものか迷ったが、リンツは短く「ああ」とだけ答えた。



「……そうか……やはり転生者か……」


「この世界に転生する理由をお宅は知ってるか?」


「いや、そこまでは知らない」


「そうか……」



 自分が転生者だとして、なぜこのケイオースに呼ばれたのか。全く心当たりがない。そもそも転生してきたのなら、元の世界の自分は死んだのだろうか。その辺りの記憶もない。



「……こちらからも質問だ」


「なんだ」


「貴様が使っていた槍術はアルベニス流連槍術か?」


「……ああ」


「ということはトゥリアーナ・アルベニスを知っているな?」



トゥリアーナには自分のことを誰にも言わないよう釘を刺されている。どうにかリンツははぐらかすことにした。



「知ってはいる」


「が?」


「まともに関わったことはない」


「ならばなぜその槍を使える」


「いつだか俺が魔獣に襲われた時に彼女が助けてくれたんだ。礼を言おうと思ったが、彼女は名前だけ名乗って去って行った。その時に二本の槍を使ってたのを見て、そっから見様見真似さ」


「見様見真似であそこまで再現はできないだろう」


「そこは俺の天恵に関係するからな。企業秘密だ」


「……まぁ、いい。で? 彼女は今どこにいる?」


「言ったろ? 名前だけ名乗って去ってったんだ。何処にいるかなんて知らん」



 リンツが魔獣に襲われてトゥリアーナに助けられたのは事実。嘘を吐くときのコツは嘘の中に真実を織り交ぜることだ。真実を話しているという事実があることで表情にも嘘を吐いているということが出づらい。バルナスもリンツの表情を窺っていたが、とりあえずは納得した。



「彼女を探しているのか?」


「俺じゃない。王都が血眼になって探している」


「……あの人、何かやらかしたのか?」


「王剣十二宮の一人が突然失踪したんだ。そりゃ探すだろう」


「……そんな凄い人だったのか」



 ドウゲンから王剣十二宮のことは聞いている。王都最強の十二勁士。あんなにガサツで酒豪、口が悪く家の中では下着にシャツ一枚で歩き回るようなトゥリアーナがそんな地位にいたとはリンツは俄かには信じられなかった。



「行き先でも知っていれば俺が王都に情報を売って報奨金でも貰ったんだがな」


「悪いな。で、彼女が王剣十二宮だったってことを知ってるってことは、お宅も元、王都の人間か?」



 だんまりを決め込むバルナス。



「イエスってことか。で、元王都の奴がなんでこんなとこで盗賊やってんだ?」


「……貴様に教える義理はない」


「ま、そりゃそうか。俺も聞いてもしょうがないしな。で? これからお宅らどうすんだ?」


「貴様の質問には答えた。見逃してくれるんだろう? またどこかで盗賊でもするかもな」


「それもいいかもな。ここは見逃して、お宅らが奪った金品を届ければ俺はある程度報酬が貰えるだろうし、またお宅らが盗賊やってくれれば、その都度潰しに行って小金を稼げる」


「……自分の金稼ぎの為に俺たちを泳がせると?」


「まぁ、そんなとこだ」


「……くっくっくっ……はっはっはっはっ!!」


「……なんか面白いこと言ったか?」


「盗賊団を一人で潰して、挙句自分の金稼ぎの為にもう一度盗賊やれと? 勁士の風上にも置けんな!」


「アンタだって似たようなもんだろ? そんだけの勁が使えて盗賊やってんだからさ」


「それもそうか! はっはっはっはっ!!! げほっ、うえっほっ!!!」



 笑いすぎて咽たのか、蹴りを食らった際に折れた骨に響いたのか咳き込むバルナス。



「面白い男だな。名は?」


「リンツ・バルヴェニー」


「リンツ、一つ忠告しておいてやる」


「なんだ?」


「転生者なら王都には近づくな」


「どうして?」


「研究者達の実験台になった挙句、食われるのがオチだ」


「……食われる?」


「知らないようだから教えてやる。転生者の肉を食らったヒューマンはその膨大な勁と特一属性を引き継げるんだよ。そいつらは捕食者カーラーと呼ばれている」



 一般には知られていないが、バルナスの言ったことは事実。王都は魔獣対策の武力増強の為、常に転生者を探し、勁士たちの生贄にしようとしているのだ。但し、捕食者カーラーが引き継げるのは勁量と特一属性だけ。天恵までは継承できない。



(トゥリアーナが別れ際に()()()()()()()()()()()()って言ったのはそういうことか)


「……聞きたいことは済んだか?」


「あぁ。随分と有益な情報だった。約束通り見逃す、が。奪った金品は貰ってくぜ」


「好きにしろ。礼拝堂のテュケー像の裏に隠し扉がある。その奥だ」


「……アンタ、俺を食おうと思わないのか?」


「人を食らってまで強くなりたいとは思わない。盗賊なんぞやってはいるが、畜生まで落ちるつもりはないんでな」


「へぇ……」



 バルナスの言葉に、真っ直ぐに自分を見続ける瞳の奥にリンツは「武人」を見た気がした。そこでリンツは一つ提案を持ちかける。



「……なぁ、アンタ、一緒に来ないか?」


「……なんだと?」


「これは推測に過ぎないが、盗賊もやりたくてやってるわけじゃないんだろ?」


「なぜそう思う」


「盗賊にしちゃ目が腐ってないしな。あとは勘だよ」


「……」


「事情があるなら深くは聞かない。アンタは王都には近づくなと言ってくれたが、今のところ最終目標は王都なんだ。アンタ、王都の事情も詳しそうだしさ」


「寝首を掻くかもしれんぞ、貴様の隙をみて肉を食らうかもしれん」


「それはない」


「なぜ言い切れる」


「俺の隙を突けるなら今俺に負けてない。それに寝首を掻くような器用な真似できるなら最初から向こうで肩抑えてる奴に撃たせてる。アンタは正々堂々、真っ向勝負ってキャラだろ」


「……」


「まぁ、アンタだけ連れてって、他の奴らは自警団に引き渡すってのもアンタは納得しないだろうけどな」


「その通りだ。他の奴らはどうする?」


「そうだな……さっきの緑の髪の奴と、狙撃手は是非欲しいんだが……」



 少しの間考え込むリンツ。すると何か思いついたのか



「そうだ、下っ端はソルテで働かせよう。あそこ、若い奴いないし」


「貴様、馬鹿なのか? 今まで盗賊やってた奴らだぞ? 今更真面目に働けと? できるわけがない。大体、村の連中も受け入れんだろう」


「できるできないはお宅が決めることじゃない。村のみんなは俺がなんとか説得するさ」


「そんな話、上手くいくわけがない」


「つい最近同じことを言われた気がするな……」



 頭を掻き、不服そうな表情のリンツ。先ほどまで戦闘を繰り広げていた緊張感は最早ない。



「……本当に王都に行くのか?」


「あぁ、ヤバイ橋なんだろうが俺が俺の手がかりを知るには行くしかない。虎穴に入らずんばってやつさ」


「……そうか。自分の手がかりと言ったが、どういうことだ?」


「記憶がないんだよ」


「転生者は記憶を失っているというのは本当だったのか」


「転生者はみんなそうなのか?」


「知らん。貴様以外に転生者に会った事がないんでな」


「そうか。となると、本当に俺は転生者ってやつなのか……」



 そこへ体の痺れが取れ、なんとか動けるようになったのか、胸を押さえながらヘイゼルが近寄ってきた。



「……ダンナ、コイツに付いてけば王都に戻れるんじゃねぇかな」


「ヘイゼル……」


「悔しいけどよ、コイツの強さは間違いない。俺達で戦技大会にでもエントリーして勝ち抜けば本戦で王都にいけるかもだぜ」


「……私は反対だ。命を見逃してもらった挙句、自分について来い? 侮辱にも程がある」



 いつの間にかエイアードも肩を抑えながら三人の傍に来ていた。全く気配を感じさせなかったエイアードにリンツは驚く。



「さすが狙撃手、気配の殺し方は一流だな」


「……ふん」


「でもよ、エイアード。お前ぇが一番盗賊すんのに乗り気じゃなかったじゃんか。まともな生活に戻れんならそれに越したことねぇだろ?」


「……それは……そうだが」


「別に今すぐ答えを出せとは言わないさ。こっからソルテまで三日はかかる。その後もう一日だけ俺はソルテにいる。話に乗るならそれまでにソルテに来てくれればいい」


「……とりあえず。話はわかった。こいつらと話し合ってみる、が期待はするな」


「前向きに検討願うよ、バルナスさん。じゃ、奪ったモンは回収させてもらうぜ」



 バルナス達三人と、未だ転がっている下っ端たちをよそにリンツは教会の中へ入っていった。



「……バルナス」


「エイアード、話は後だ。とりあえず、あいつらを起こそう」



 その後、リンツはバルナス達が貯め込んでいた物資を回収。かなりの量があったのか、まるでサンタクロースが担ぐような大きな袋をズリズリと引き摺りながら教会を後にした。




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