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S R.I.P.  作者: 棚河 憩
二章
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~銀の少女~


 モトの町を後にし、オルクスへ向かうリンツはベスティオ山の麓の森にいた。何度かライオットエイプに襲われたが、いつぞやのへっぴり腰はどこへ行ったのか難なく撃退、魔獣の気配が無くなったところで休憩を挟んでいる。



 ミシェルから渡された包みを開けるとサンドイッチと水筒が入っていた。ベーコンとトマトを挟んだものと、タマゴサンド、それにポテサラサンドがそれぞれ一つずつ。水筒の中身はセルバ茶だった。



 食事を終え、改めて歩き出すリンツ。まだまだ森は抜けれそうにない。



 「……流石に方向感覚が狂うな」



 どこまで行っても、木、木、木。更に日の光もほとんど入らないこの森は別名 「不出の森」 一度足を踏み入れれば、よほど慣れた者でない限りは迷って出られなくなる。



 しばらくウロウロと彷徨っていたリンツはふと足を止める。そっと背中の朱月に手をかけ神経を研ぎ澄まし、勁を全身に張り巡らせたところで左側から突然魔獣が襲い掛かってきた。



 瞬時に槍を交差させ魔獣の攻撃を防ぐ。襲ってきたのは真っ黒なサーベルタイガーだった。

かなりの力でリンツを押し倒そうとするもリンツはその場からピクリとも動かない。ほんの少し槍の重心をずらし、魔獣のバランスが崩れ、頭が下がったところに強烈な膝を叩き込む。



 十分に勁を乗せた膝で顎を蹴り上げられた黒い虎。更に周りに誰もいないこと確認していたリンツは外氣勁も上乗せ。電撃も併せて食らい硬直した時には既にリンツの槍は虎の腹を貫いていた。



「この牙、売れるか……?」



 戦闘後の興奮も無い様子で金のことを考えるリンツ。終の地で暮らした半年の間にトゥリアーナの守銭奴が移ったのだろうか。



 とりあえず一本の牙を抜き、念のため毛皮も少し剥いでおいた。天恵で会得したナイフの扱いはこんなところでも役に立ち、魔獣の解体もナイフ一本で易々とこなす。



 亡骸はそのまま放置。しばらくすれば血の匂いに誘われて他の魔獣が餌として綺麗に掃除してくれるだろう。



 増えた荷物の重みを感じながら黙々と森を進むリンツ。かれこれ黒虎と遭遇してから2時間程は歩いただろうか、ようやく薄っすらと日の光が差してきた。出口は近いらしい。と、一安心したところで遠くから女性の悲鳴が聞こえた。



 悲鳴のした方へ走るリンツ。そこには腰を抜かしその場にへたり込む少女と、ドラム缶程の胴の太さの10メートルを超えた大蛇がいた。大蛇は怯える少女の顔を楽しむかのように少しずつ近寄っており、すぐに食らいつくことはしない。



 「い、いや……誰か……」



 少女は立ち上がることもできず、尻でずりずりと後ずさることしかできない。大蛇も少女のスピードに合わせジリジリと這い寄っている。そして一気に距離を詰めようとした大蛇だったが、その体はそれ以上少女に近寄ることはない。リンツがその尾を片方の朱月で地面に縫い付けていた。



 「全く、この森は化け物だらけだな」



 ようやく痛みを感じたのか大蛇は後ろを振り返る。自分の尾には深々と刺さった槍、それに手をかけ悠々と佇む男。リンツを敵と認識したのか180度近く口を開け、一気に距離を詰めようとする。



「悪いな、食われないように気をつけろって言われてるんでね」



 リンツは尾に刺した朱月の柄に足をかけ跳躍、大蛇の脳天にもう一本を突き刺し下顎まで貫通。強制的にその口を閉じさせ、そのまま地面まで押し込んだ。



 「……流石に死んだよな?」



 ピクリとも動かない大蛇を確認し、尾と頭から朱月を抜く。



「大丈夫か?」



 放心状態の少女に手を差し伸べ、声をかけるリンツ。



「……え? あ、は、はい……」



 リンツの手を取り、ようやく立ち上がる少女。リンツよりも随分身長は低い。155センチ程度だろうか。透き通るような銀色のショートボブの髪と透き通った湖のような水色の瞳が特徴的だ。



「災難だったな。……つってもこの森に女一人で入るのは危ないだろ」


「い、いえ、この辺りは魔素も比較的薄いので普段はあまり魔獣も出ないんです」


「そうなのか。あぁ、丁度いいから聞きたいんだが、オルクスって街はここからまだかかるかな?」


「オルクスですか? そうですね……ここからだとホルメスに乗って休みなしでも1週間はかかるでしょうか……」


「そうか……随分遠いな……途中で宿を取れそうな場所は?」


「私が住んでる村がすぐそこにありますが……」


「そうなのか。よかったら案内してもらっても?」


「は、はい……あ、あの!」


「ん?」


「ありがとうございました」



 深々と頭を下げる少女。



「気にしないでくれ。俺はリンツ……君は?」


「リッカロッカといいます」


「リッカロッカ。もう一つ聞きたいんだが」


「はい?」


「これ、金になるかな?」



 横たわる大蛇を指差すリンツ。



「さ、さぁ? ちょっとわかりません……ですがビッグイーターは肉にも毒があると聞きますから使い道はないんじゃないでしょうか? 祖父なら何か使い道に心当たりがあるかもしれませんが……」


「そっか。とりあえず牙だけは抜いておくか」



 せっせとビッグイーターと呼ばれた大蛇の牙を毒腺に触れないよう抜くリンツ。どうにも金策には抜け目がなくなっているようだ。


「よし、行こうか」


「はい」



 ビッグイーターの牙を荷物袋に加え抱えたリンツと、籠に野草らしきものを詰めたリッカロッカ。

 これが、今後運命を共にする二人の出会いだった。



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